慌ただしい土曜日

 その日は朝早く目が覚めたので俺が朝食の準備をしている。

「あれ? おにぃ早いね? 私今日は部活あるから帰りは20時頃になりそうだから…。おにぃの友達の引っ越し手伝えなくてゴメンね」

 そういって食器棚からコップを取り出して冷蔵庫から牛乳を取ってコップに注ぐ。

「そっか、ほれ朝食♪ 」


 テーブルにスクランブルエッグとサラダそれとフレンチトーストを並べる。

「あれ? おにぃ3人分作ったの? 」

 並べた食器を見て1人分多いことに気づいたらしい。

「あぁ、たぶんもうじき来ると思うから。それより早く食べないと遅れるぞ! 」


 そういうと美鈴は頷いて、朝ごはんをいっきに食べる。

「おにぃ美味しかった♪ それじゃあ行ってくるね! 」

 そういって美鈴は、歯磨きを軽く済ましガムを噛んで部活に出かけた。


 美鈴が家を出てから10分ぐらい経ったあと家のインターホンが鳴る。

「はーい」

 そういって鍵を開けるとそこには縁が居た。

「はーい、じゃないだろ! せめて誰か聞いてから開けろ! 無用心にも程がある…」


 そういって縁は引っ越し業者のおじさんたちと一緒にやって来た。

「おう、兄ちゃん! 家具とか運び込んじまっていいかい? 」

 そういって荷台にあるチェストやテーブルをポンポン叩いてこっちを見つめてくる。

「あっ、いいですよ♪ それと俺も手伝うので引っ越し費用を少し安くしてくれませんか?」

 そういうとおじさん達は縁にむかって

「良い彼氏じゃないか! 2人とも仲良くな」

 そういって電卓を縁に見せていた。



「お~い兄ちゃん! そろそろ始めるぞ!」

 もう1人のおじさんから声がかかったので俺は縁の荷物の荷卸しを手伝い始めた。

◆◇◆◇

「おう兄ちゃん、ありがとな! 」

 引っ越し業者のおじさんに肩を叩かれおじさん達は帰っていく。

「ありがとう朱音…」

 俺の後ろでは縁が嬉しそうに微笑んでいる。


「それより縁の分も朝ごはん作っておいたから食べていいよ♪ 」

 そういって家の中に入るように促す。

「うん、ありがとう❤」

 縁は微笑んで中に入っていく。


「そのまんま奥に行けばリビングだから、とりあえず行ってくれる? 」

 そういってリビングに案内して作っておいた朝ごはんを縁に渡す。

「スゴく美味しそう♪ これ朱音が作ったの?」


 縁の前には俺が作った料理が並べられていた。

「少し冷めちゃったと思うけど味は保証するよ! 」

 縁はお腹が空いていたのか、その言葉と同時に『いただきます』と声をかけて食事を始めた。


「本当に美味しかった♪ ありがとう朱音♪ 」

 テーブルの上には綺麗になったお皿が並んでいる。

「いえいえ、お粗末さまです。好き嫌いとか大丈夫だった? 」

 テーブルの向かい側に座る縁に聞くと彼女は微笑みながら

「うん、とりあえず並んでた料理はどれも大丈夫だったけど私、鯖アレルギーだから鯖は食べられないけど朱音はどうなの? 」 


 そういって立ち上がり食器を持ってキョロキョロしている。

「キッチンはこっち♪ 」

 そういって立ち上がり縁を案内する。


「洗っておくから置いといていいよ♪ これから家の中の案内と縁の部屋の整理するから。先に家の中を案内するね♪ 」

 そういって縁の手を握って歩き出す。

「あっ、ちょっと待って! 」

 縁はそういって髪を後ろに結ってから俺の腕に抱きついてくる。

「抱きつく必要はあるのでしょうか? 」


 腕に抱きついている縁に問いかけると

「うるさい、迷子になっちゃうかもしれないだろ我慢しろ♥ 」

 何この可愛い生物は? 一昨日初めて逢って強引に入部させられた挙げ句、終いには同居することになるなんて…。それでこの可愛らしさだよ! もう反則だよね!? 文句言えないじゃん…。可愛いだけじゃなくて綺麗だし…。


「朱音はどうして同居しようなんて言ったんだ? ももも、もしかして私に気があるのか? 」

 なに顔を真っ赤にしてそんなことを聞いてくるんだよ…。

「いや、そういうわけじゃないんだけど『1人じゃ嫌! もう少し朱音と一緒に居たい』って泣いて震えながら抱きつかれたら庇護欲が刺激されたというか…。お前のことを守ってやりたいと思った…。ただそれだけ…」

 そう返事をすると縁は俺を見上げて


(なんか納得いかないけど絶対に惚れさせてやる…)

 口パクで何かを囁いていたけど俺の視線に気づいたのか恥ずかしそうに俯いてしまった。

「それじゃあ、とりあえず1階の間取り説明するな」

 そういって家の中を説明していった。

◆◇◆◇

「それで、ここが最後、縁の部屋。俺の隣の部屋だから何か困ったこととかあれば言ってくれ。それと飯とか掃除は今度から当番制にするから縁を手伝ってくれ」

 そういって手を握っている縁に声をかけると縁は驚いた様子で

「ダメだ! 私は料理が出来ない! と言うよりかはやらせてはいけない下手したら死ぬぞ朱音! 」

 えっ…、お前は人をも殺せるほどの料理が出来るのか、そんなバカな!


「何事も練習するのみ! だよ♪ 俺も一緒に手伝うから! なっ? 」

 そういって彼女の顔を下から覗き込むと彼女は顔を真っ赤にして頷いてくれた。

「ありがとう♪ それじゃあ、部屋の整理が終わったら夕飯の買い出しに行こうな♪ 」

 そう約束をすると縁が嬉しそうに

「なんだか新婚さんみたいだね♪ 」

 爆弾発言をしてきた…。

 美鈴がこの場に居なくて本当に良かった…。

◆◇◆◇

「ほっ、本当にするのか? 私はまだ少し早いと思うのだけど…」

 縁は顔を赤くして俺の腕を恥ずかしそうに掴んで見つめてくる。

「そんなことは無いと思うぞ、むしろここでやらないのはおかしいだろ? 」

 そういって彼女を見つめると彼女は身体をモジモジさせて

「朱音は本当に変態なんだな…。私の初めてを次々に奪っていく…」

 そういって彼女はベットに倒れ込んだ。


「言い方がイヤらしいだろ…。つーか、寝るなよ…」

 縁の部屋の片づけをするために入ったのに縁はベットでゴロゴロし始めた。

「だから早いって言ってるだろ? 私はまだゴロゴロしていたいんだ! 」

 胸を張って言えることでは無いと思うぞ…。しかも割りと胸があるのか動くとぷるんと揺れる。


「あっ、今私の胸を見てただろ! イヤらし~い」

 そういって胸を隠すように手で覆う。

「うるさいぞ! とりあえずこれから片づけていくからな! 」

 そういって近くにあった段ボールを開けると…。


「水色ストライプ…」

 縁は顔を真っ赤にしてベットから起きあがり

「わっ、私が1人でやるから出ていけぇ~!」

 背中を押されて部屋から追い出されてしまった…。


「Eカップだった…」

 俺は呆然と立ち尽くし現状を確認して驚いていると

「うっさいバカァ! 」

 部屋の中から縁の叫ぶ声が聞こえた。




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