誤解を生む買い物

 隣の縁の部屋からはガタバタと掃除をする音がする。

「やれるなら最初からやればいいのに…」

 そう呟くと壁の向こう側から『ドンッ!』

と叩く音が聞こえた。

「朱音、ちょっと手伝ってくれないか? 私1人だとさすがに持てない」

 縁の呼ぶ声が聞こえる。


「分かった、部屋入るぞ」

 そういって廊下に出て縁の部屋の扉を開けると……。

「ちょ、ちょっと! 」

 部屋には下着が散らばっていた…。

「入ってきてって言ってないじゃん! 」

 その言葉と同時に枕が飛んできた。

 見事、枕が顔面にヒットする。

 (あっ、縁の香りがする)


 枕が顔面にヒットしたのと同時に部屋の扉がバタン! と閉まる音と共に

「良いっていうまで入ってきたらダメだからな! 」

 扉の向こう側から縁の恥ずかしそうな声が聞こえた。

「分かった、分かったから! とりあえずその下着を片づけてくれ! じゃないと入れないだろ! 片づけ終わったらまた呼んでくれ」


 そういって俺は1階に降りてお昼ごはんと飲み物を用意するちなみに今日のお昼のメニューは『あさりのボンゴレパスタとシーザーサラダ。それと白ブドウの炭酸ジュース(ウェル○の)』

「朱音~! 手伝ってくれないか? 」

 2階から縁の声が聞こえる。


「それより、少し早いけど昼ごはんにしよう、降りてきてくれ! 」

 そういうと上からパタパタと降りてくる音がする。

「ありがとう朱音♥ 」

 服を着替えたのか白のワンピース姿の縁が立っていた。

「綺麗……」

 そう呟いて縁を見つめていると縁は顔を赤くしながら

「ふっ、わっ、私の計算通りだ! どうだ? 私が余りにも可愛くてグゥの音も出ないだろ! 」


 顔を真っ赤にしながらそんなことを言っても説得力が無い。

「どうしたんだよ着替えて? 」

 不思議に思い縁に尋ねると縁はニコッと微笑んで

「これから朱音と一緒に夕食の買い出しに行くんだろ? だから可愛い服を選んだんだ、どうだ? 結構可愛いだろ? 見惚れちゃったんだろ? 」

 そういって縁はその場で1回転してピースサインをして俺を見つめてきた。


「あぁ、可愛いよ! 確かに見惚れてたよ! お前のその姿が余りにも綺麗すぎて! 」

 俺もヤケになり可愛いと言うと縁は顔を真っ赤にして『いただきます! 』と言ってパスタを食べ始めた。

「あっ、あぁ…。旨く出来てると思うぞ」

 そういって縁の向かい側に座り、俺も食事を始める。


「やっぱり美味しいな朱音の料理は、私じゃこんなに上手に作れないぞ! 何かコツはあるのか? 」

 そういって顔をあげて俺を見つめてくる。

「あぁ、1つ目はニンニクを…」

 聞かれたので答えようと顔をあげると自然と見つめ合う形になり

「………やっ、やっぱり何でもない! 」

 そういって縁はまたパスタをフォークでクルクルしてボーっとしている。


「1つ目はニンニクをじっくり弱火で炒めること。2つ目はアサリを白ワインでしっかり蒸して出汁を出すことだよ! あとで縁も出来そうな簡単料理を教えてやるよ♪ 」

 そういうと縁は食べようとしていたパスタを服に落としながら

「ヒャッ、ヒャイ! 」

 何で緊張してんだよ…。っと、それより

「縁、パスタこぼした! 染みが出来るから早く拭け! 」

 そういって近くにあったタオルを渡すと縁は慌てた様子で服を擦る…。


「うっ、朱音が可愛いって言ってくれたのに染みが出来ちゃった…(T-T)」

 おい、そんな泣きそうな目をするなよ…まったく仕方ない…。

「縁、その服脱げ! 」

 そういって手を差し出すと

「何を言っているんだバカ者! 」

 そう言われて手のひらをフォークで刺されてしまった。

 

「イッタ!めっちゃ痛ッ! そう言う意味じゃねぇって! 染み抜きするからよこせって言ってるの! 」

 そういって改めて手を差し出すと

「最初っからそう言え! てっきりその…今ここで脱げ! みたいな事かと…」

 そういって顔を赤くしてモジモジしている。

「悪い…、改めて言うぞ、服の染み抜きをするから部屋で脱いで持ってこい」

 

 そういって食べ終わった縁を部屋に戻して

着替え終わった縁から服を受け取り食器用の中性洗剤を染みの部分に付けて揉み洗いをする。

「ほら、綺麗に落ちただろ? 」

 そういって縁にワンピースを見せると縁は嬉しそうに微笑んでいる。

「ありがとう朱音♪ やっぱり私は朱音の事が大好きだ……」

 

 あまりに急な告白だったのでポカンとしていると縁が慌てた様子で

「あれだ! 友人としてだぞ! 異性としてなんかじゃないからな! 」

 そういって必死に誤解を解こうとしてくるので本当なのだと思った…。まぁ、俺がモテるはず無いからな…(T-T)

◆◇◆◇

「おい、まだか? 」

 出かける準備をすると言って部屋に戻ったきりなかなか部屋から出てこない…。

 部屋の中からはバサガサ音が聞こえる。

「とりあえず俺、部屋に戻るから準備出来たら部屋に来い」

 そういって自分の部屋に戻り昨日学校で出された課題をおこなうことにした。


 それから部屋の扉をノックされたのは2時間後の午後4時だった。

 家を出て買い出しのために商店街に向かいながら隣にいる縁に話しかける。


「お前は服を選ぶのに何で2時間もかかるんだよ? 」

 俺は呆れながら縁に声をかけると

「うるさい! 女の子は服選びに時間がかかるものなんだ(特に好きな人に可愛いって言ってもらうために… )」


 そういって俺の手を指でチョンと触れてくる。

「なに? 」

 そういうと縁は口笛を吹いてそっぽを向いてしまう。

 さすがにイラっとしたので今度触ってきたら捕まえてやろうと心に決めた。


「商店街でいつも買い出しをしてるのか? スーパーとかは行かないのか? 」

 そういって俺の顔を下から覗き込んでくる。

「まぁ、こっちで買う方がたまにオマケしてくれるし美味しい調理の仕方とか教えてもらえるからね♪ 」

 そういって精肉店に入っていく。


「おじちゃん? どうしたのボーっとして?何かあったの? 」

 精肉店のおじちゃんに声をかけると

「あっ、ああああ朱音が彼女を連れて来たぞぉぉぉぉぉぉぉ!!! 」

 店の扉を開けて外に聞こえるような大きな声で叫び始めた…。


「あの女嫌いの朱音がぁぁぁぁぁぁ! 」

「私の朱音君が!!!」

「祭りだ!みんな祭りだ! 」

 商店街の店々から人が出てきて精肉店に殺到してくる。


「いや、芝さん違うんです…」

 そういって誤解を解こうとするために声をかけると

「ねぇ朱音、もしかして私のことを紹介するために連れて来たの? 嬉しい! 」

 そういって腕に抱きついてきた。

「赤飯だ! 赤飯持ってこい! 」

 

 誤解はさらに深まり、商店街では

『赤飯だ!』『 鯛だ! 』『蓮根だ! 』『赤マムシだ! 』

 そういって店主達は、はしゃいでいる。

「ちょっ、ちょっとみんな! 話を聞いてくれぇ~! 」

 なんとかして誤解を解かなくちゃ! 部活終わりに美鈴もここを通る、そこで『義兄ちゃん、彼女連れて来たよ』なんて聞いたら『何で私には紹介してくれないの! 』なんて言って美鈴は、また鬼になる。それだけは阻止しなくては!


コイツはただの同居人なんだって!」

 その時俺は、言葉の選択を間違ったことに一瞬で悟った…。

「「「同棲相手!!! 」」」

 あぁ、これダメだ…。

 スーパーにしておけば良かったと心の底から思った。




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