世話のかかる義妹…。

「それじゃあ準備はいい? 橘先輩! 」

 ハーネスやら何やらをつけた美鈴が縁に尋ねると縁は頷いて

「もちろんだよ! それじゃあ行くよ!」

「「よーい、ドン!! 」」

 

 そういって2人は壁を登っていくけど…。

「おにっ、おにぃ! 怖い! 怖いよおにぃ!! 」

 あぁ、やっぱりそうなったか…。

「手離せばいいだろ? 」


 そういって上を見上げると

「ちょっ、おまっ! 」

 何でこんなときに限って美鈴はスカートなんだよ! いくらロングスカートで黒タイツを穿いてきてるからって真下から見たらピンクの下着が見えてるから!

「無理だから! 手を離して落ちるなんて無理! 絶対無理! 助けておにぃ! 」


 そういって叫んでいるので周りからの『助けに行かないのかよ! あんなにかわいい妹が助けてって叫んでるのに』みたいな視線が痛い。

「縁、助けてあげて! ってあれ? さっきまであそこに居たのに? 」

 壁を見ると何処にも縁が居ない。


「あっ、私なら此処に居るよ♪ 美鈴君が遅いからササッと登って降りてきちゃった♪ 」

 あぁ~っ、マジですか…。これ俺が行かなきゃいけないパターンじゃん、次に登ろうとしてる人が俺の方を見て『どうぞ』ってジェスチャーしてるし…。

「はぁ~っ、それじゃあ行ってくるよ…」

 そういってハーネス等の道具をつけて壁を登る。


「おにぃ、高い!高いよぉ~っ! 」

 そういって泣いてしまっているけど、だったら何で高所恐怖症なのにこんな無謀な勝負をしようと思ったんだよ?

「はぁ、着いたよ美鈴! 俺の背中に掴まってくれるか? 」

 そういうと美鈴は怖がりながらも何とか俺の背中に抱きついてきた。背中に2つの柔らかい感触と女の子独特の甘い香りに思わずクラッときたけど背中に居て泣いているのは大切な義妹だと意志を強く持つ。


「それじゃあ、これから降りるからしっかり掴まってろよ! 」

 そういって手を離して紐をしっかりと持って壁を蹴りながら下に降りていく。

「お~いっ、下に降りたぞぉ~」

 そういって抱きついている美鈴の腕をポンッと叩くと美鈴は、ゆっくりと瞳を開けて辺りと足元を確認をする。


「あっ、ありがとうおにぃ…。それと迷惑かけてごめんなさい」

 そういって美鈴は頭を下げて謝ってくる。

「それはとりあえずいいから早く此処から退かなきゃ次を待ってる人が居るから! 」

 俺は美鈴の手を握って場所を移動する。

◆◇◆◇

「まったく、どうして高い所が苦手なのにアレをしようなんて思ったんだい? 」

 縁と合流して喫茶店に入り3人で食事をする。

「橘先輩もごめんなさい迷惑かけちゃって…」

 美鈴は恥ずかしそうに頬を赤らめ苦笑している。


「まったくだよ…。美鈴は昔から高い場所が苦手なのにアレをやるって言ったから治ったのかな? って思ったら全然治ってなくて『おにぃ助けて~!』 はさすがにお前なぁ~って思ったよ…」


 運ばれてきたコーヒーを飲みがら美鈴に声をかけると美鈴は不貞腐れた顔で

「だっておにぃが橘先輩にデレデレしてたんだもん💢」

 そういって美鈴が俺のことを睨んでくる。

「おにぃは私がおにぃのことが大好きだって気持ちを知ってて橘先輩と2人で行くんだもん! 私の気持ちを知ってるんなら私も誘うべきなんじゃないかな! 」


 テーブルの向こう側から美鈴が蹴ってくる。

「美鈴のお怒りは分かったから蹴らないでくれないかな? それと縁は俺と美鈴のやり取りを見て笑ってないで助けてくれないかな?」

 そういって縁に助けを求めると縁は笑いながら

「恋人どうしというか本当に仲の良い兄妹だなぁ~って思って♪ 私は1人っ子だったし施設に入ってた時期が長いから何かそうやってじゃれあう2人を見てると良いなぁ~って思って♪ 」

 

 そういってアイスティーを飲みながら俺と美鈴のやり取りを見ている。

「いや、これでも両親が再婚して初めて会った時なんかヒドかったんだよ…」

 そうアレはまだ俺が幼稚園の年長組の時…

◆◇◆◇

「初めまして僕は東雲 朱音です」

 おどおどしながら挨拶をしたのを覚えている。

「いや、こっちに来ないで! 」

 そういって美鈴は初め俺を拒絶してきた。

 その関係は半年ほど続いて俺も子供ながらにして嫌われているのは何となく理解していた。そんなある日…


「それじゃあ、お母さん行ってきます! 」

 お使いに家からスーパーに向かってた時だった…。

 家の近くには小さな公園があって俺も美鈴もよく友達と一緒に遊んでいた。

 たしかその日も美鈴は公園で友達と遊んでくると言って公園に行っていた。


「アイツ何してるかな? 」

 少し気になって公園を覗いて見ると美鈴が近所で有名なイジメッ子の前に何かを守る様に両手を広げて立っていた。

「だ…! 何で…! あなた達には…係の…でしょ!」

 そういって美鈴はイジメッ子を睨みつけている。


「うるせぇ~な! そんなこと言ったらお前だって関係ねぇ~だろ! 」

 明らかにイジメッ子はイライラしていて美鈴を睨んでいる。

「ねぇ、ダイちゃん! コイツ殴ればいいんじゃない? 」

 うわぁ~っ、何かマズい状態になっちゃったよ…。


「殴ればいいじゃん! そしたらパパに言ってあなた達のママに言いつけてやるから!」

 ダメだよそんなことを言っちゃ…。

 どうしよう…。お母さんには『美鈴ちゃんには優しくしてあげて♪ 』って頼まれてるし…。それに今、美鈴を助けられるのは僕しか居ないし…。


「俺の妹に何か用ですか? 」

 あぁ~っ、何で僕はこんなことをしてるんだろう?

 心のなかでタメ息を吐きながら美鈴ちゃんの前に立つ。


「なんだお前? あれ? お前ってたしか子羊幼稚園の東雲じゃないか? あの弱虫の…」

 そういってイジメッ子の隣に居た男の子が僕を指差し笑っている。

「そうだよ、だからどうしたの? 美鈴、お母さんが待ってるよ♪ 一緒に帰ろう」

 僕は後ろにいる美鈴ちゃんにそういって家に帰ろうと言うと美鈴ちゃんは首を横に振って

「私がこの子を守らないとコイツらに石とか投げつけられるんだもん! 」


 美鈴ちゃんの立っていた後ろには子犬が1匹段ボールにいれられていた。

「う~ん、ウチで飼えるか分からないけどお母さんに相談してみよう」

 そういって段ボールを掴もうとすると後ろから蹴りが入る。


「スルーすんじゃねぇよ弱虫! 」

 そういってイジメッ子の隣に居た男の子が蹴ってくる。

「いや、だって話は済んだよね? 俺たちがこの子を飼えるか親に相談するからもうこの子に石とか投げなくていいよね? もしこれ以上石とか投げるんだったら動物虐待で警察に捕まるよ」

◆◇◆◇

 現在

「そういってイジメッ子達に言ったんだけど子供だから『そんなの関係ない』って言って一方的に殴られたんだよね…。その時、柔道を習ってて暴力は駄目だって言われてたから…」

 そういって美鈴を見ると顔を真っ赤にして

「あの時の事はもういいでしょ! 本当におにぃはあの時のこと根に持つよね。あのときはおにぃのことをお兄ちゃんだなんて絶対認めたくなかったの! (今でもお兄ちゃんだなんて思ってないあの時からずっとおにぃのこと好きだったんだから)」


「コイツは必死に子犬と自分を守ってボコボコになった俺を見て『私のことを守ろうとするからいけないんだよ』って言ってボロボロになった俺を見捨てて家に戻って行ったんだから…。本当に世話のかかる義妹だよ、今も昔も…」

 そういって美鈴を頭を撫でると恥ずかしそうに『これからも末永く面倒をみてください』なんてことを言ってくる。


 縁は俺達の昔の話を聞いている間、常にニコニコしていた。

「ねぇ朱音、私はやっぱり2人と家族になりたい。だから朱音、私を朱音の妻にしてくれないか? 」

 縁が恥ずかしそうにそう呟いた…。

「えっ?」

 そしてその瞬間俺の世界がフリーズした。



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