強制入部

「よろず部に入部してくれないか? 」

 橘縁が俺の手を握って見つめてくる。

「いや、まだ他の部活を見てないし、ここがどんなことをする部活か分からないから安易に答えは出せないよ…」

 我ながら上手く逃げられる答えを導きだせたと思った。


 そういって彼女の手を離して教室から出ようとすると

「朱音君、縁ちゃんがこんなに頼んでるのに話しも聞かないで帰っちゃう薄情な人だったの? 」

 そんな目で見ないでください楓さん。

「そんなことは無い! 私が認めた相手です! 朱音君はそんな人じゃない! 」


 下手な3文芝居だって分かっているけどここで逃げたら後々言われるのは分かっている…。

「分かりました。とりあえず話だけですよ」

 そういって、とりあえず俺はパイプ椅子に座り2人の話を聞くことにした。

◆◇◆◇

「よろず部ってのは簡単にいうとなんでも屋って感じなんだよ♪ 目安箱に依頼が投書されるから、その依頼を片っ端から片付けてくのだけどね…。なにしろこのよろず部って縁ちゃんしかいないのよ♪ 」

 楓さんはそういって座っている俺に向かって彼女の背中を押して…。

「キャァッ! …」

 

 橘縁は俺に覆い被さる様に倒れてきて、俺はそれをかわせなかった…。

 目を開くとすぐ目の前には彼女の顔があって唇には柔らかい感触があった…。

「フェッ…ヒィャァァァァァ!!! 」

 橘縁の悲鳴とビンタが飛んできたのは言うまでもない…。


「今まで下手に話してたけど、もうやめた! 東雲朱音! わっ、私の初めてを奪ったんだから私の言うことを聞きなさい! 貴方はこの部に入部しなさい! 」

  この子は猫を被ってたのか! だけど悪いのは俺だけじゃない!

「それをいうなら! おっ、俺だって初めてをお前みたいなブスに奪われたんだイーブンだろ! お前だけ人に命令とか有り得ねぇだろ!」


 そういって俺が唇をシャツで拭うと橘縁は今にも泣き出しそうな顔で

「私、汚くないもん!何でそんなことするの! 確かにどうなのかなって思ったけど、それでもファーストだよ! 何でそんな酷いことを君は出来るの! 信じられない! 」

 そういって橘縁は俺に覆い被さったまま胸をポカポカと殴ってくる。


「今のは乙女心を理解できなかった君が悪いよ♪ 」

 と言って楓さんは見て見ぬふりをしている。

「どうしたら許してもらえる? 」

 俺を殴っている彼女の腕を掴んで見つめると彼女は泣きながら

「それじゃあ、この部に入部してくれ」

 そういって入部届けを渡されたので俺はそれに名前を書いて彼女に渡す、すると彼女は笑って


「なっ? 朱音君は泣いていたり、困ってる人が居ると彼は放っておけないんだよ♪ 」

 泣いていたはずの橘縁がニコッと笑っていた。

「えっ、ちょっ…。どういうこと? 」

 俺が困惑していると彼女は目薬を持ち出して

「こういうことだよ朱音君♪ 」

 橘縁は瞳に目薬をさして

「ありがとう朱音君♪ 」

 そういって潤んだ瞳で見つめてきた。


「マジかよ…。無し! 今の無し! 」

 そういって入部届けを橘縁から奪取しようとすると橘縁はそれを楓さんに提出してしまった…。

「はい、受理しました♪ これで東雲朱音君はよろず部に入部することが決まりました! ごめんね朱音君、彼女にどうしても欲しい人材が居るから手伝ってって言われててごめん! 」

 そういって入部届けを持ったまま部屋を飛び出していってしまった。


「嘘だろぉぉぉぉぉぉ!!! 」 

 俺はこの日、強制的によろず部に入部することになってしまった…。

◆◇◆◇

「さて、早速だが目安箱に依頼が届いていて朱音君と一緒に解決していこうと思うんだ」

 コイツさっきのことが無かったかの様に平然としてるぞ…。コイツ清楚ビッチか?

 そう思って彼女を見つめるとだんだんと彼女の顔が赤くなっていく。

「大丈夫か? 顔が赤いぞ…」

 そういって彼女のおでこに俺のおでこをくっつけて熱を測ると顔を真っ赤にして


「やっ、やめろバカ! そっ、その…さっきのキッ、キスを思い出しちゃうだろ! 」

 あっ、コイツはガチな清楚女子だ…。

 そんなことを思っているうちに彼女は離れていて昼間の犬のリードを持っている。

「今日の依頼はコレだ! その、私はどうやらコイツに嫌われてるらしい、だからその…朱音に手伝ってもらいたい。それと私のことは縁って呼んでいいからな…。よろしく…」


 そういって縁は犬のリードを俺に渡してきた。

「しょうがねぇ~なぁ~」

 リードを受け取って縁のあとをついていく。

◆◇◆◇

「それで、どこの誰の家までこの子を連れていくんだ?」

 先を行く縁に声をかけると

「うん、ここの住所なんだが朱音は分かるか? 」

 そういって渡してきたスマホの画面には犬の首輪が写っていた。

「あぁ、やっぱりそれは住所だったのか…。どれどれ…。この住所だとの近くだな…」

 そうすると…


「ちょっ、ちょっと! スピード出しすぎ!危ないから! 」

 風の音がスゴくて縁が何を言ってるのか分からない。

「だから! スピード出しすぎ! 」

 俺は縁の自転車を借りて彼女を後ろに乗せて犬は俺のバックに入れて坂道をノンストップで下っていく。


「そこ! そこ左! 」

 学校前の坂道を下って住宅街に入って行く。

「本当にこっちなのか? さっきも似たような場所通ったぞ? 」

 後ろに乗っている縁に声をかけると縁はスマホを見ながら道案内をしてくれるけど、どうやら道に迷ってしまったみたいだ…。


「う~ん、ちょっと止まって! 朱音ここら辺であってるよね? 」

 渡されたスマホの画面を見る限り確かにここら辺であっている。

「あれ? 朱音君? どうしたのこんな所で」

 通りの向こう側を見ると真琴が手を振って俺と縁に近づいてくる。


「朱音、あの子とはどういう関係なんだ」

 なんだか縁が怒った声で聞いてくるけど、どうしたんだろう?

「いや、彼女は俺の隣の席の子でクラス委員長なんだよ♪ 」

 そういって俺も真琴に手を振って彼女を待っていると横からその手を掴まれたので縁を見ると彼女は不貞腐れた顔で

「私以外にそういうことをするのは何か嫌だ」

 と言われて手を降ろして待つことにした。


「改めて、どうしたのこんな所で? 」

 真琴と俺の間に縁が居て縁が真琴に説明をしているので俺はバッグから顔を出した状態の犬を見せる。

「あれ? ジョンじゃん! 何処行ってたの! 本当に心配したんだから! 」


 真琴が泣きながらバックの中の犬を抱き上げて頬擦りをしている。

「えっ、っと、その犬は真琴さんの家の犬でいいのかな? 」

 縁が真琴を見つめると真琴は頷いて

「2人ともありがとう♪ 」

 微笑みながら嬉しそうにお礼を言われた。


「「気にしなくて良いよ♪コレが私(俺)達の仕事だから」」

 そういって犬のリードを真琴にしっかり渡して俺は縁を後ろに乗せて来た道を戻っていく。なんだか後ろに乗っている縁も嬉しそうだ♪

 縁も? …うん、そうなんだろうな、きっと俺も嬉しいんだ…。この部活、なんだか流されて入部しちゃったけど、入ってよかったかも?



 



 

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