鬼ごっこ

 今日のことを美鈴に話したら

「あの嫌われ者の橘先輩がいる、よろず部に入部したの…。おにぃ! 今からでもまだ間に合うから生徒会長に話して部活を変えようよ! 」

 そんなことを言われたけど少なくとも縁はそんなに悪い奴ではないし、割りとあの空間が嫌いではないので美鈴に変えるつもりが無いことを伝える。

「おにぃがそう言うなら分かった。だけど何かあったら言ってね! 」

 そういって今日は就寝することにした。

◆◇◆◇

「おはよう! 今日は早いね? どうしたのおにぃ? 」

 スマホのアラームが鳴る前に起きて顔を洗い下のキッチンに行くと水玉模様のエプロンを着けてワタワタと動く美鈴が居た。

「おう! おはよう! 美鈴は今日も可愛いな」

 そういって冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注ごうとしたのだがいつもの場所に俺のコップが無かったので美鈴が料理をしていた所にあったコップを掴みソレに牛乳を注いで飲んでいると


【ガシャン!? 】

「おっ、おっ、おっ…」

 美鈴がテンパってしまったのかフリーズした機械の様になっている。

「どうした? あっ、やっぱりダメだった…朝に牛乳飲むと痛くなるんだよね…」

 俺はコップをサッと洗いトイレに向かう。

「おにぃの変態! エッチ! ラノベ主人公!」


 美鈴が何か言ってるけど今はトイレの方が優先だ!

 用を足してトイレから出てキッチンに戻ると何故か怒っている美鈴がテーブルに料理を並べる。

「今日はおにぃコレね! 」


 俺の前に置かれたのはツナマヨサンドとレタスと卵のスープそれと鮭のソテーだった。

「今日も美味しいね♪ さすがだよ! でも何かツナマヨの味薄くない? まぁ美味しいからいいんだけど…」

 そういって食べ終わった食器を片付けにキッチンに行くと猫缶が2つ出ていた。

「なんだ美鈴、ミー(飼い猫)に2つも缶開けたのか? ミーが太るから1つにしろよ」


 そういうと美鈴は少し怒った声で

「うん、ミーには1つしかあげてないから大丈夫! 」

 と返事があった…。(ん、ミーには…)

 きっとサンドイッチのツナマヨが薄かったのは気のせいだ! そう心に言い聞かせた。

◆◇◆◇

「美鈴、何か怒ってる? 」

 先を歩いている美鈴に声をかけて、どうしてなのかを聞くと美鈴は

「鈍感おにぃには絶対分からない! 言うだけ無駄! 」

 そういってスタスタ先を行ってしまう。


「鈍感おにぃか、確かに朱音は鈍感だな」

後ろから縁が自転車に乗りながら声をかけてくる。

「気配を絶って急に話しかけてくるなよ…それとおはよう縁」

 縁を見つめて挨拶をすると縁は少しオロオロしながらも『おはよう朱音♪ 』と笑顔で挨拶をかわすと道の先から美鈴がこっちを見つめて怒った顔でこちらに向かってやって来る。


「やべぇ、何で美鈴あんなに怒ってるんだ縁、同じ女性なんだから何か分からない?」

 縁に助けを求めると縁は首を振って

「すまない、私にも分からない朝何かあったのかい? 」

 何もないから困っている…。


「私の朱音に何か用ですか!」

 いつから俺は美鈴あなたのものになったんですか?

 美鈴は怒った顔で縁の自転車の前に立って

縁を睨んでいる。

「ちょっ、お前! 縁は何もしてないだろ! なに八つ当たりしてるんだよ! 縁とは普通に挨拶をしてただけだぞ! 」

 そういって縁と美鈴の間に割って入る。


「朱音は少し黙ってて! 橘先輩、どうして朱音をよろず部に入部させたんですか!」

 縁は俺を見てニヤリと笑い顔を赤らめ

「そっ、それは朱音が私の初めてを奪った男だからだ! 」

 そういって色っぽく唇に触れて俺を見つめる。

「朱音! それは本当…💢 」

 あぁ、これは終わった…。今日の夕飯はきっとベジブロスで使われた野菜くずだ…。


「ねぇ💢 聞いてるんだけど朱音💢 」

 俺は縁の服の裾を引っ張り視線を送る。

「はぁ~、分かったよ♪ 」

 そういうと縁は自転車から降りる。

「ごめん美鈴、あとでお前が落ち着いてから説明する! 」

 

 縁の自転車に乗って美鈴をかわして坂道を駆けのぼる。

「ふふっ、良いのか朱音♪ あの子は君のことが好きみたいだぞ? 」

 縁が俺の背中に抱きつきながらそんなことを話しかけてくる。

「良いんだよ! 美鈴は俺の義妹だから! きっと好きって言っても義兄として、家族としてだと思うから! それより今は逃げるぞ! 美鈴は早いから! 」


 そういって必死に縁の自転車のペダルを漕ぐ。

「あぁ、知ってるよ♪ 何せ長距離の1年エースだからね♪ だから、ほら! 早くしないと追いつかれるよ! 」

 後ろを振り返ると美鈴が鬼の様な形相であとを追ってきている。


「マジかよ! 」

「あぁ、どうやらマジな様だ! 」

 親指を立てて面白がってんじゃねぇぞ! お前が話をややこしくしたんだろうが!

「くそっ!今日は昼飯と夕飯は買わなくちゃ! 」

 昼休みも逃げなくちゃ…。仕方ない慶次に飯を奢るから逃げさせてもらうように手配するか…。


 学校には汗だくの状態で何とか美鈴を振り切って逃げることが出来た。だけど今夜には説明して誤解を解いて怒りを鎮めてもらわなくちゃ…。

◆◇◆◇

 お昼のチャイムと同時に掃除用具のロッカーに隠れて慶次が美鈴をやり過ごすのをひたすら待つ。

「朱音居る💢」

 案の定、怒っている美鈴が教室にやって来る。


「いや、朱音なら今日はマズイって言ってチャイムと同時に屋上に行っちまったぞ」

 さすがだ慶次! 今度飯奢ってやるからな!

「義妹ちゃんに何をしたんだ? まったく…兄妹喧嘩も程々にな♪ 」

 ロッカーの扉の前ではリーシェと真琴が話している様に見せかけて妨害をしてくれている。


「あの、すいませんがそこを退いてもらえませんか? 」

 美鈴が真琴とリーシェに話しかけ始めた。

「えっ、どうして? 何かあったの? 」

 リーシェが美鈴に声をかけると美鈴は

「いえ、もしかしたらソコに朱音が隠れてるかもしれないですから朱音ってテンパると身近な場所に身を隠す傾向があるので…。いいですか? 」

 そういって美鈴がロッカーを開けようと手を伸ばした直前、教室の外から

「あれ? 朱音じゃないか! ん、どうした? おい、朱音! 」

 縁の芝居がかった声が聞こえてくる。


「やっぱり何でもないです! 朱音どこぉ~💢」

 そういって教室の外に行ってしまった。

 俺は美鈴が行ったことを確認して掃除用具のロッカーから出るとそこには縁が立っていた。

「もう少しマシな場所に隠れなかったのかい? 私が助け船を出してなかったら危なかったね♪ 」

 そういってくるので


「お前がややこしくしたんだろうが! 」

 そういって縁を見ると

「鬼ごっこみたいで楽しいじゃないか♪ それより依頼があったからこれから部室に行くぞ! 」

 そういって自然に俺の手を握ってきた。

「この鬼ごっこ、私達2人で絶対に勝とうな♪ 」


 この目は何処かで見た覚えがある…。そうかイタズラっ娘の目だ…。

 俺は諦めて縁の手を握り

「なるべく省エネで勝とう! 」

 そういって部室に向かった。


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