林間学校

 美鈴にバレずによろず部の教室に辿り着くことが出来た。

「ふふっ、どうやら私達の勝ちだった様だな♪ 」

 嬉しそうに笑いながら俺の離した手とハイタッチをしてくる。

「そうみたいだね♪ それで、依頼ってどんなのがきてるの? 」


 旧生徒会室の前に置いてある目安箱を開けて中に入れてあった手紙を開き内容を読むと

『今月末に林間学校があります。その林間学校でのレクリエーションやスローガン等を決めなくてはいけません。だから2人にも手伝ってもらえると嬉しいなぁ~』

 封筒には加藤と書かれていた。

「何か面倒な予感しかしないです! この依頼を受けるのはやめよう! 」

 そういって手紙をシュレッダーに入れようとすると縁にその腕を掴まれた。


「どんなに面倒な予感しかしなくても私達がやることはただ1つ! 依頼を解決すること! だからやるよ朱音♪ コレが君と私の初めての共同作業だ♪ 」

 ちょっとふざけてみよう。

「俺、いつのまに縁と結婚したの? そんな…式も挙げてないのに初めての共同作業だなんて…」

 俺はわざとらしくナヨナヨして縁に話しかけると

「わっ、私の言い方が悪かった! 私と朱音の2人体勢になってからの初めての依頼だって言いたかったんだ! 」

 そういって顔を真っ赤にしてワタワタしているので


「分かってるよ♪ 冗談だよ冗談♪ 」

 そういうと縁は落ち着きを取り戻し少し怒った声で

「朱音、言って良いことと悪いことって分かるかな? 特に私達はほら、その…、キスを誤ってとはいえしてしまっているのだから…。お互い意識しないようにしているのに冗談でもあんなことを言うのは正直、どうなのかなって私は思うのだけど…。 そういうところ本当にデリカシーないよ朱音! 」

 

 どうやら開けてはいけない箱を開いてしまったらしい。マズイと思い、俺は頭を下げて謝ると縁はいつもの声で

「どうだった私の迫真の演技は? でもこれで少しは懲りただろ? 」

 そういってイタズラっ娘の様な微笑みをむけてくる。


「それで話しは戻すけど、この依頼はほぼ強制だと思っていい。何故ならこの部の顧問からの依頼なのだから…」

 そういって縁は手紙と封筒をテーブルに置く。

「そうなのか? 」

 そう返事はしたが彼女はどうして加藤なる人物が顧問で手紙がその加藤からの依頼だと分かったのだろう? 俺の学年では把握している限り加藤という人物は8人は居たと思うのだが…。

「なに、そんなに考える事じゃないよ♪ だってそうだろ私は顧問の名前が加藤だということを知っているし、君がこのよろず部に入部したことを知っているのは楓君に君の義妹ちゃん、それに君のクラスメイトの真琴君、リーシェ君、慶次君、そして顧問の加藤先生だけだ! とするとこの加藤ってのは必然的に顧問の加藤先生からの依頼だってことになる」

 

 なるほど、確かに言われてみればそうなのだが、もしもその人物たちが他の人に喋っている。なんてことを考えていないのだろうか…。

「分かったよ、それでどうすればいいんだ?」

 縁に聞くと

「とりあえず朱音の担任に聞いておいてくれないか? とりあえず昼食にしよう♪ 」

 そういって彼女はお弁当箱を取り出して食事を始めた。

「じゃあ俺も学食を食べに行ってくるかな」

 そういって立ち上がると

「ダメに決まってるだろ? 忘れてるかもしれないが今の君は追われる側だぞ…。義妹ちゃんに捕まってボコボコにされたいなら構わないが…」


 そういって縁はお弁当の唐揚げを1つ頬張る。

「えっ、……それじゃあ今日昼飯は食うなってこと…」

 そういって力なくその場に座り込むと

「そんなことは言ってないぞ! そっ、その…。ほら、ア~ン」

「ブフゥッ!!! 」

 俺は余りにも驚きすぎてその場で吹き出してしまった。


「もう、いきなり何てことをするんだい」

 そういって縁は箸を持ち直して自分のお弁当のおかずを掴んで俺の口元に運んでくる。

「私と朱音ではんぶんこだ! ほら、食べるんだ♪」

 そういって縁は顔を真っ赤にして箸を寄せてくる。


「あのさ、恥ずかしがるなら最初から……モガモゴ…………。きゅ、急に突っ込むなよ!」

 そういうと縁は頬を膨らまして

「乙女心が分かっていない朱音が悪いんだ! 本当に君って奴は鈍いんだから! 大方、今朝の義妹ちゃんが怒っていた理由もそんなところだろう…」

 と言って、やれやれと呆れていた。


 そのあとも結局縁にお弁当を食べさせられて昼休憩の終わりを告げる余鈴とともに俺達はクラスに戻り、俺は授業が始まる寸前まで掃除用具のロッカーに隠れていた。

◆◇◆◇

「それじゃあ、今日のLHR終わり! クラス委員、号令」

「起立、礼! 」

「お疲れ様でした! 」

 放課後になったと同時に教卓前に居る加藤先生の所に行く。


「加藤先生、依頼受けるそうです。何処でお話を伺えばいいですか? 」

 そういうと加藤先生は童顔スマイルで

「新生徒会室に縁ちゃんと一緒に来て! それと朱音君…、教室の扉からスゴい殺気がこもった視線で朱音君を見つめる女の子が居るんだけど…」


 そう言われたので後ろを振り返るとそこには今にも泣き出しそうな顔で睨み付けてくる美鈴がいた。

 しょうがない誤解を解くためにも

「美鈴、おにぃは今日部活があるから帰るの遅くなると思うから冷蔵庫にある昨日の夕飯の残りチンして食べててくれ」

 そういって頭を撫でると

「何で学校でおにぃは、おにぃって言うのかな! 学校では名前で呼び合おうって言ったじゃんバカ! おにぃのバカ! 鈍感! 」


 そういって美鈴は反転して廊下を走っていってしまった。

「うちの義妹が騒がしてしまって、ごめんなさい」

 そういって頭を下げると

 クラスからは驚きの声が上がっていた。

 それとやはり手紙の主は加藤先生だった様だ…。


「なるほど、それで私が朱音の本命ではないかと疑われて君のクラスメイト達から温かい目で見られていたのか」

 生徒会室に行く道すがら、さっきの話をすると縁は納得していた。

「それで朱音は手紙の解決策は考えてきたかい? 」

 

 正直なにも考えてなかった…。なんて言い出しづらい…。定番だと…

「定番なものでもいいかな? 例えばフォークダンスとかキャンプファイヤーとか。スローガンは自然と共に! みたいなのでどうかな? 」

 そういって縁を見ると縁は俺を見て必死に笑いを堪えている。


「お前なぁ、人がこの短時間で必死に過去の記憶を思い出して提案してるのに笑うのは酷くないか? 」

 そういって縁を見ると彼女はついに我慢出来なくなったのか

「アハッ、アハハハハ! ごっ、ごめん朱音が考えてきたのが余りにも高校生が行うようなレクリエーションじゃなかったから…。それにスローガンも『自然と共に』って、そのまんま加工せずに持ってきたから可笑しくて♪ それが通用するのは精々中学生までだぞ」

 そういって笑う縁の態度が気にくわなくて俺が不貞腐れると縁は笑って

「ごめん、怒らせるつもりは無かったんだでもどうしよう私はまだ考えが纏まってないから…」


そういって考えているので縁の肩を掴む。

「なっ、何かな…。えっ、そんな…まさかね? 」

「一緒に考えるしかないか! 」

 そういった途端

「肩、掴まなくても言えることでしょ💢紛らわしいの! 」

 と言われてビンタが頬にクリティカルヒットした。






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