2つ目の依頼と生じる疑問

 ホテルに入ると部屋割り表が貼られていた…。

「なあっ、男子と女子が同じ部屋ってことはあるのかな? 」

 隣にいるリーシャに聞くとリーシャは

「普通だったら無い…。でもあの人は普通じゃない」

 縁を確認しながらリーシャそう呟く。


 貼り出された紙には『よろず部』としか書かれていなかった…。

「これって、もしかして男女一緒ってことは無いよね? 」

 縁に声をかけると縁は首を横に振って

「いや、一緒だぞ♪ 」

 マジか…!

 

 驚き、口をポカンと開けて縁を見つめていると

「そうなると…。わっ、私も朱音と同じ部屋なんですか!? 」

 リーシャが驚いた顔で縁を見つめると縁は

「いや、私と…」

「そうですよ♪ 3人は一緒の部屋に泊まってもらいます♪ 」


 どこから現れたのか楓さんが俺の背中に抱きついてきた。

「楓さん楓さん…、離れてくれないかな?」

 腰に巻かれている腕を軽く叩くと楓さんは

「えぇ~っ、しょうがないなぁ~」

 と言って腕をほどき、背中の後ろで手を組んで俺を覗き込んできた。


「どういうことだ楓…」

 あれ? 縁の背後にどす黒いオーラが見えるのは気のせいだろうか…。

「私との約束が違うと思うのだが…」

 縁と一緒に暮らすことになってから1番怒ってるような気がする…。


「いやいや、そんなことないですよ! きちんと約束は守ってますよ? 」

 そういって楓さんは縁に微笑みかける。

「だって確かあの時の約束はよろず部で1部屋でしたよね? 」

 楓さんはそういって面白そうに笑っている。


「くそぉ~謀ったな…」

 縁はそういって楓さんを見るけど

「謀る何てことしてないわよ、リーシャちゃんは何処の部活に兼部したんだっけ? 」

 楓さんに聞かれたリーシャは少し考えてから

「橘さんと朱音のいるよろず部に兼部だけど所属している」


 楓さんはその答えを聞いて『うんうん』と頷いて

「そういうこと♪ ねっ♪ よろず部の部員は全員一緒って約束は守ったでしょ! だから謀ったなんて人聞きの悪いことは言わないで欲しいなぁ~♪ 」

 縁よりスゴいやり手がこの学園には居たらしい…。

「ふんっ、もぅいい! 楓のばーか!貧乳のおたんこなす! 」


 いつもの縁とは思えないほど稚拙な捨て台詞を吐いて縁は1人でズカズカと先に行ってしまった。

「あらっ? 少しやりすぎちゃったかな? 」

 楓さん、何故そこで俺に話を振るんだい?

「アフターフォローは、任せた! 」

 おいっ!何、素知らぬ顔で逃げ出すんだよ!


 その場に取り残された俺とリーシャは互いの顔を見て

「「どうすればいいんだよ(いいのよ)」

 と頭を抱えた…。

◆◇◆◇

「入るぞ縁」

 そういってカードキーを使って部屋の鍵を開けて中に入ると…。

「ぴゃっ!ぴゃぁっ!」

 縁が赤と白の水玉模様の下…。

「見るなバカ! 」


 強烈な右ストレートが俺の顔面にヒットした…。

 確かに急に開けたのはマズかったけど…。

 倒れる俺を上から覗き込みながらリーシャが心配そうに

「朱音、大丈夫? うわぁ、鼻血出てるよ」

 そういってティッシュを渡されたので鼻に詰めて立ち上がり部屋を…。


「もう少し倒れてて! 」

 2発目で俺は意識を失った。

◆◇◆◇

 腹が重い…。息が苦しい、何かに押し潰されたかのような重さだった…。

「重い…」

 そういって目を開くと胸の上ででスヤスヤと眠る縁が居た。

「あっ、起きた朱音♪ 橘さんに殴られて気を失ったんだよ? 」


 ホッとしたのかリーシャは涙を流しながら微笑みかけてきた。

「うん、心配かけちゃったみたいだね? ごめん」

 そう伝えるとリーシャは頷いて

「本当だよ! 女の子に殴られて気を失うなんてビックリだよ! だけど良かったよ♪ 橘さんも『やり過ぎた! 朱音が起きなかったらどうしよう! 』って言って泣いてたんだから」


 そういってリーシャは苦笑いをして俺の胸の上で寝ている縁をずらしてくれた。

 起き上がれる様になった俺はベットから出てソファーに腰掛ける。

「ねぇリーシャ、俺が気絶してるあいだ何かあった? 」


 隣に腰掛けたリーシャに聞くとリーシャは首を横に振って

「特に何も無かった…。いや、到着式に出なくてすんだ♪ 理由を那奈ちゃんに話したら『しょうがないなぁ~』って言って出席しなくてOKになった。そのあと連絡がきて今日は授業は無いからゆっくり休む様にって連絡がきた」

 どうやら1年生には会いに行ってないらしい。


「縁、お前起きてるだろ? いつまで寝たふりをしてるんだ? 殴っちゃって気まずいとか話しかけづらいとか思ってるなら俺は気にしてないから普段通りにしてくれ」

 そういうとバツが悪そうな顔で縁は起き上がり

「いつから気づいていたんだい? 渾身の演技だったのに」

 と言ってベットから起き上がり俺の隣に腰掛ける。


「あのさ縁、何で3人がけのソファーが2つあるのに1つのソファーに3人密集するのかな? 」

 隣に腰掛けた縁に声をかけると縁は

「ダメだったかな? 私が何処に座ろうと朱音には関係ないと思うのだけど? 」

 と怒った声で返事をされたので笑って誤魔化すことにした。

◆◇◆◇

「それで、寝たふりをしていた私を起こしたんだ何か今回の依頼で考えがあるんだね?」

 何でお前を起こすのにいちいち理由が必要なんだよ? まぁ実際、少し思いついたというか気づいたことがあるんだが…。


「なぁ、今回の2つ目の依頼なんだが依頼主は誰と同室なんだ? 同室の奴と仲良くなればOKじゃないか? 」

 何も縁が精神を磨り減らしてまで1年生のクラスに潜入しなくてもいいのでは?

「いや、だけどその相部屋の相手に仲良くしてやってくれって君は頼むのかい? 頼まれて友達になるなんて、果たして本当の友達と呼べるのだろうか? 」

 確かにもっともらしい意見だが…。


「それなら俺達が今しようとしていることもおかしくないか? 」

 縁に尋ねると頷いて

「確かに朱音の言う通りなんだが、だからこそ私達がよろず部だときちんと伝えて依頼ではなく本当の友人になる必要があるんだ」


 うぅ~ん、答えになってる様な、なっていない様な…。

「とりあえず部屋を確認しよう、シラバスに書いてあるかな? 」

 そういって俺はシラバスを開き部屋割り表を探す。

「あった! 相部屋の相手は……? あれ? 男子と女子が一緒の部屋って俺達以外でもあるのか? 」

 部屋には齋藤さいとうりんと俺の後輩で仲の良い浜岡はまおかしのぶの名前があった…。


「同姓同名という可能性もあるだろ? それより私達は齋藤凛に用があるんだ、とりあえず部屋に行こうじゃないか! 」

 俺は疑問を残したまま部屋を出ていった縁とリーシャのあとを追うことにした。




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