第1章 よろず部にお任せ!

 犯人はお前だ!

 用具室から脚立を借りて学園の中庭にある記念樹に近づく。

『カァ~、カァ~』

 どうやら犯人は素直に盗んだ物を返すつもりは無いらしい…。

「強行手段は俺も怪我するかもしれないから嫌なんだよなぁ~」


 俺は加藤先生に電話をする。

『もしもし永遠の18歳那奈ちゃんだよ♪ 』

 誰からの電話だと思ってるのだろう?

「なんだか申し訳ないです。朱音です。あの非常事態になりそうなので渡した道具を校舎の屋上で鳴らしてくれませんか? 」

 

 そう伝えると電話口から

『うぅ~っ、朱音君! 今のことは忘れて! 絶対忘れて! 』

 そういって階段を上がったいく音がする。

『ねぇ、コレってどうやって鳴らすの? 』

 不思議そうに尋ねてくる。


「ボルトのところをキュルキュル回せばいいんですよ♪ 任せましたよ! 」

 そういって電話を切って記念樹を確認する。

『キュルキュルキュルキュル』

 バードコールの音がする。

「あとは犯人が加藤先生の方に行ってくれればそのあいだに財布だけでも奪還出来れば…」


 スマホが鳴るので電話に出ると

『あっ、朱音君! この道具は何なのかな? どうしてだか鳥がいっぱい飛んで来るんだけど! 』

 先生の電話口から犯人の声や他の鳥の声が聞こえる。

「先生グッジョブ! それじゃあ、もう少し頑張ってて! 俺は犯人の部屋から奪われた物を取り返すから! 」


 俺は先生が犯人の気を惹いてるあいだに脚立を持って記念樹にある犯人の部屋にガサ入れをする。

『カァ~、カァ~』

 おっと、どうやら子供が居るようだ…。

「さてと…よし! あった! 」

 キラキラにデコられた財布と先生の物だと思われる時計があった。


「朱音君~! まだコレをしてなくちゃダメ~? 怖い! 怖いんだけど~! 痛っ、ダメだよ朱音君! 激しい! そんなに激しくしたら私、ダメになっちゃうよ! 」

 なに血迷ったの先生! しかも大きな声で卑猥なことにも聞こえる様なことを外で…。

「イッテ! もう(あっち)イッテよ! 」


 あっ、終わった! ちらほら窓から顔を出して屋上を見てる人達(あっ、教頭と学年主任)が居る。

「イクッ! もう(そっちに)イクからね!」

 あぁ~っ、うん俺アウト!

 でもとりあえず依頼は達成出来たかな?

『2年F組東雲朱音さんと担任の加藤那奈先生は至急校長室まで来てください! 繰り返します…」

 ですよねぇ~?

◆◇◆◇

「うぅっ、ゴメンね朱音君…」

 謝るんなら最初から誤解を生まないように気をつけてほしかったのだが…。

「かなりエロい声でしたよ…。本当に誤解を招くようなことはしないでほしかったです…。部のメンバーに絶対説明を問われると思うので誤解を解くのを手伝ってもらいますからね…」


 そういって俺は加藤先生を見ると先生は本気で落ち込んでいた。それもそのはず、減給らしいからね…。

「どうしよう家賃が払えないよ~」

 俺にも責任の一端はあるのだか…。しょうがない、あとで親の力を借りるか…。


「朱音、校長室に呼ばれたみたいだけど何があったんだい? 」

 縁とリーシャが心配そうに俺のところへやって来る。

「先生、説明をしてください」

 先生は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに自分のしたことを説明し始めた。


「なるほど、そんなことがあったんだね? まったく那奈ちゃん先生はオッチョコチョイなんだから気をつけなきゃ! それに那奈ちゃん先生にそんなことを何も伝えずにやってくれと頼んだ朱音が悪いんだぞ? 」

 縁が加藤先生の説明を聞いて呆れた顔で俺に話しかけてくる。

「うっ…、確かにその通りだよな…」

 そうもハッキリ言われると心に刺さるな…。


「うぅっ、ゴメンね? 本当にゴメン」

 そういって先生は泣きそうな顔で俺を見つめてくる。

「それより先生の腕時計、見つかったよ!」

 泣きそうな先生に腕時計を渡す。


「うぅっ、今は返ってこなくてよかったのに…。うぅっ、足りない家賃をコレで…」

 うわぁ~っ、スゴく泣きそうな顔をしてるよ…。

「悪い、ちょっと電話してくる」

 そういって部室を出て母さんに電話をかける。


『おはよう朱音、どうしたの? 』

 眠そうな母さんの声が聞こえる。

「おはよう母さん、急で悪いんだけど実はこんなことがあってさ…」

 母さんにさっき起きたこと、それと加藤先生が減給になってしまったことなどを話してどうにかならないか相談をする。


『なるほど、そんなことがあったのね? それで、朱音はどうしたいの? 』

 そういって母さんは俺に尋ねてくる。

「出来れば加藤先生の減給を取り下げて欲しい。今回のことに関しては俺が悪かったのに先生がしわ寄せされるのはおかしいと思う。だから母さんから『俺が悪かったから先生に非は無いので許してあげてほしい』的なことを電話してほしい」


 真剣な声で母さんに頼み込むと母さんはため息を1つ吐いて

『分かった、ただし私が電話をかける前に今の気持ちをきちんと校長先生に話してきなさい。それでも何もないようならもう1度電話をしてきなさい。それじゃっ♪ 』

 そういって電話は切れてしまう。


「しょうがない、ダメ元で校長に今の気持ちを伝えてくるか…」

 1度部室に戻り用事があるといって校長室に向かう。


 トントン


「失礼します。2年F組の東雲朱音です」

 そういって職員室に入る。

「教頭先生にお話があって来たのですが少しお時間よろしいですか? 」

 そういって俺は加藤先生の処遇について俺が思っていることを教頭先生に話して謝罪と減刑のお願いをした。


「ははっ、加藤先生は良い生徒を持ってるようですね♪ もともと減給なんてしませんよ。少し渇をいれただけですよ」

 そういって教頭先生は笑っている。

「えっ、じゃあ加藤先生が俺のせいで減給になったって話は…」

「えぇ、冗談です」

 おぉっ…、なんて紛らわしい冗談なんだ…。


「まったく貴方もよろず部だからって何でも請け負っていたらケガしますよ? さっきだって1歩間違えればカラスにつつかれて脚立から落ちていたかもしれないんですからね」

 まったくもって仰る通りです。

 その後、教頭先生からお小言を貰い、しばらくして職員室から撤退した。


 依頼報告

 今回の犯人はカラスでした。

 後日、俺が取った財布と先生の腕時計以外の物は市役所に頼んで巣の撤去と同時に回収しました。

 先生は減給が冗談だということが分かり泣くほど喜んでいました。

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