肝試しの準備を始めよう!(2日目)

「ほら、起きるんだ! 昨日からまるで魂が抜けたみたいに腑抜けになって! 私が好きになったのはそんな朱音じゃないぞ! しっかりするんだ! 」

 へっ? 今、縁から好きだって声がしたんだけど…。

「おっ、好きって言葉には反応するんだな? ほら早くしろ! 」

 あぁ、俺の気を引くための嘘だったのね…。

 でも美鈴から好きって言われてキスされたんだよな…。

◆◇◆◇

 朝食が準備されている1階の食堂に行って席に着くと後ろから肩を叩かれる。

「ンン~?」

 叩かれた肩を見ると

「おはようおにぃ…」

 そこには顔を真っ赤にさせた美鈴が立っていた。


「あっ、うんおはよう美鈴…」

 何だか、ぎこちなくなっちゃうな…。

 そう思いながら笑いかけると

「おにぃ、もしかして意識しちゃってる?」

 そういって美鈴は俺の頬にキスをしてきた。


「ばっ! おまっ、いきなり何するんだよ!」

 美鈴を見つめると美鈴は笑いながら

「私、おにぃに好きって伝えることが出来て、もう隠さなくていいんだなって思ったら今まで我慢してた反動が出ちゃって…。おにぃに甘えたくなっちゃった…」


 今のは甘えるってレベルの話なのか?

「朝からいい加減にしないか…(わたしだってきちんとしたキスはまだなんだからな)」

 縁が美鈴の腕を引っ張っりながら何か言っている。


「(橘先輩、嫉妬は見苦しいですよ♪ おにぃは私のキスでメロメロです♪ )」

 何の話をしているのだろう? ただ1つ言えるのは縁の機嫌が悪くなっている…。

「朱音! こっちに来るんだ! 」

 ヤバイ縁がめっちゃ怒って俺を呼んでる…。


「なにかな縁? 」

 縁のもとに行くと縁は俺の腕に抱きついて

「朱音は私と一緒のベットで寝たんだぞ! 羨ましいだろ! 」

 ちょっと縁さん、腕に柔らかい感触が2つ当たってるんだけど…。

 俺がオロオロしていると

「橘さん、嘘はいけないですよ♪ 朱音は私と一緒に寝たんですよ♪ ダメって言ったのに…」


 リーシャが顔を真っ赤にしてモジモジしながら縁と反対側の腕にしがみついてくる。

「ちょっ、ちょっとリーシャ…。2人を止めてくれるんじゃないの!? 」

 リーシャは首を振って

「私は朱音と一緒に寝たって伝えたかったの! 」


 火に油を注ぐ様なことはやめてくれ!

「おにぃ、どういうこと? 私っていう女性がいるのに…」

 やっぱりそうなるよね…。

 どうするべきなのかオロオロ迷っていると

「ほらほら、4人とも席について♪ 早くみんなで朝ごはん食べましょ♪ 」

 

 後ろで俺たちの様子を伺っていた楓さん達生徒会メンバーと凛ちゃんと忍が俺達(特に美鈴)を落ち着かせて席につかせる。

◆◇◆◇

「えっ、えっと先輩…。隣は私みたいなミジンコで良いんですか? 美鈴さんの方が良いんじゃないですか? 」

 俺の隣には凛ちゃんと雪ちゃんが座っている。

「私は、美鈴からの視線が痛いので出来れば席を移動したいのですが…」

 雪ちゃんが小さく挙手をしながら俺の顔を見つめてくる。

「ダメ! 絶対ダメ! だってそんなことしたら…」


「やっぱり義妹の私がおにぃの前に座って家と同じ様にして緊張をほぐしてもらうべきだと思うんですよ♪ 」

「いまさら義妹ぶらないでください! 美鈴さんは昨日キスをして言ってたじゃないですか「前みたいな関係には戻れないね」って! それに朱音が緊張してるのは美鈴さんの責任ですからね! 」

「2人が争ってるうちに…」

「「抜け駆けさせませんよ橘(さん)先輩!」」


「ほらね…、だから雪ちゃんや凛ちゃんが今、席を立ったら悲惨なことになる…」

 そういうと2人は頷いて俺の隣で食事をとりはじめた。

「そしたら私がここに座ろっと」

 結局俺の前には楓さんが座ってその両脇に縁とリーシャが座り、美鈴は誕生日席で食べることになった…。

◆◇◆◇

 朝食も食べ終わり部屋に戻って今日の予定を確かめることにする。

「さてと、今日の予定は? 」

 シラバスに載っている予定表を見ると今日の予定は……。マジか! 夜に美鈴の考案した肝試しがある…。

「ほら朱音、林間学校とはいえ授業があるんだから早く勉強部屋に行くぞ♪ 」


 そういって縁が俺に手を差し出してきた。

「そうだな、リーシャもはぐれるなよ! 」

 もう片方の手をリーシャに手を差し出して

リーシャと手を繋ぐ。

「分かってますよ♪ それに私だって朱音と手、繋ぎたいもん…」

 なんだろうこの甘酸っぱい雰囲気は…?

 

 途中で縁と別れてリーシャと俺は自分達のクラスの勉強部屋のドアを開けると

「おっす! また今日も鷺ノ宮と一緒か…お前、三ノ宮さんに怒られないのか? 」

 慶次がそういって俺の顔を見て笑っている。


「あぁ、うん…。いや、色々あって今、かなりややこしくなってんだよな…」

 そういって苦笑いをすると慶次は笑って

「お前は昔っから鈍感だから自然と修羅場を作ったんだろうな…」

 憐れむような顔で俺を見るなって…。


「おはようみんな~っ! 早く席について授業始めるよぉ~! 」

 加藤先生の挨拶とともに席につくとHRが始まり林間学校の授業が始まった。

◆◇◆◇

「なぁ…」

 隣でグダッとしている慶次に話しかける。

「んだよぉ~? 」

 気だるげな声で返事をしてきた慶次は身体を起き上がらせて俺を見てくる。

「昼飯食っただけですぐ授業ってどうなの? マジで眠いんだけど…」


 そういうと慶次も俺の言葉に頷いて同意していた。

「4時まで授業が詰まってるからね…。休憩時間って言ってもトイレ休憩ぐらいだし」

 左隣にいる真琴も苦笑いを浮かべていた。

「確かにちょっとキツいな…。朱音、そう言えば今日の肝試しはどうするんだ? 」

 前の席に座るリーシャが恥ずかしそうに尋ねてきた。


「あれ? リーシャ話し聞いてなかった? 俺達よろず部と生徒会それと教師陣は脅かす側だから参加しないぞ。だからこの肝試しを利用して凛ちゃんの友達を増やして依頼をクリアーしようと思ってる」

 リーシャにそう伝えると少しガッカリした様な顔をしたがすぐに作戦を一緒に考えてくれた。

◆◇◆◇

「それで2人が考えた『作戦』はどんな作戦なんだい? 」

 授業が終わり俺とリーシャを迎えに来た縁に昼間2人で考えた作戦の内容を話すことにした。

「なるほど、斎藤さんにあらかじめ私達が驚かすポイントを教えておいて、怖がった相方を凛ちゃんが優しく包み込むと…。吊り橋効果? 」

 縁は首を傾げながら俺とリーシャを見つめたあと


「残念ながらそれは却下だな。もしそれをやれば確かに斎藤さんに友人が出来るかもしれない、だけど斎藤さんは楽しめないし、この林間学校のあとお化け屋敷にでも行って怖がってごらん『あの時は怖くないふりをしてたんだ、怖がらないで頼りになると思ってたのに…』なんて思われて呼ばれなくなる可能性が高くなるんだだからそういったズルはしないで正攻法で友達を増やしていくしかないと思うぞ。ただ吊り橋効果は使えるかもしれないな…」


 何だか嫌な予感がする。だって縁がいたずらっ娘の様な笑みを浮かべてニヤニヤしているんだもの…。

 リーシャも縁の顔を見て引きつった笑顔をしていた。

 縁は何をするつもりなんだろう…。


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