偶然の一致

「させと、慶次の依頼は受理された。相談に乗ってやるよ♪ ほれ、言ってみなよ! 誰が好きになったんだよ? 」

 そういって慶次に聞くと慶次は顔をしかめながら

「クソッ、朱音がよろず部に入部してたのは誤算だった…。絶対誰にも言うなよ! 」


 慶次は好きな人について話し始めた。一方縁たちは…。


「さて、私が君のところに来た理由は分かってるよね? 」

 私は隣を歩く岩清水さんに声をかける。

「はい、理由は分かってます。それで私の好きな人を教えれば良いのかな? 」

 朱音じゃ無いよな…。もし朱音だったら私は応援なんか出来ない…。

 そんなことを思いながら話しを聞いていると…。


「私、実は…」


「なるほど、慶次は岩清水さんのことが好きになっちゃったと…」

 慶次が好きになった相手はもう1人の依頼人、岩清水いわしみず ももだったようだ…。

「あぁ、彼女は女子水泳部で俺と同じバタフライの選手なんだよ…。それで彼女と話してるうちに」

「好きになった…、と言うことかな? 」


 そう尋ねると慶次は恥ずかしそうに頷いて俺を見つめてくる。

(どうするか…? 俺に任してくれって言ったけど…。あっちの様子を聞いてみるか…)

 俺はスマホを取り出して縁に電話をかける。


「ちょっと待っていてくれ! 」

 岩清水さんにそう声をかけてスマホの画面を見るとそこには朱音の文字が写し出される。

「もしもし、朱音か? どうしたんだ?」

 スマホの向こう側から朱音が『うっさい! 静かにしてろ! 』と文句を言っている声がする。


「大丈夫か? そういえば慶次君? だったか? どうだい依頼の方は? 大変かな? 」

 朱音に依頼の進捗を聞くと、如何にも大変だと言わんばかりに

『あぁ、正直面倒なことになった…。そっちは? 』


(正直私の方は君しだいなんだよ…)

「慶次君の好きな相手は誰だったんだい?」

(それによつて私は今回の依頼を諦めさせなくちゃいけない…)

『驚くなよ…。岩清水さんだって…』


「……へっ? 」

『いや、だから岩清水さんだってよ! だからそっちの依頼しだいでどうするか決まるんだけど…』

 なるほど、彼女たちは両思いだったんだな…。

『お~い、聞いてるか? 』


「おぉっと、すまない。余りにも出来すぎてて…。実は両思いっぽい」

 私が朱音に伝えると…。


「マジかよ…。へっ? 両思い? そんな都合良くなるのかよ? 」

 俺は思わず苦笑いをすると

「なんだよ! どうしたんだよ朱音! 」

 自分の席に座って出入口にいる俺に声をかけてくる。


「いろいろあんだよ! ちょっと黙ってろ!」

 そういうとスマホから

『朱音、ダメだよ! いくら友達だからって彼は依頼人で私達は請負人なんだから』

 そういってスマホの向こう側から縁のお叱りの言葉を受ける。

「分かった、悪かったよ。それじゃあ慶次に伝えればいいかな? 告れって…」


 縁に意見を求めると縁は『うぅ~ん』と唸ったあと

『そうだな、もう少し話しを聞いたあとそっちに合流するから待っててくれないかな?』

 そういってスマホが切れた。


「お~い、朱音…。俺はどうしたらいいんだ? 」

 慶次が机をパタパタ叩きながら俺を見つめてくる。

「うちの部長と合流するから少し待っててくれないか? それと彼女を作りたいなら今日は部活休め! 」


 そういうと慶次は少し不服そうにしながらもスマホで先輩に連絡をとって部活を休むことを伝えていた。

「おい朱音、本当に休んだからな? 彼女がどうたらって話は本当なんだろうな? 」

 そういって見つめてくるので

「うちの部長を信じろって縁はスゴいんだから♪ 」

 

 そういって慶次を見ると慶次はニヤニヤしながら

「何かお前、雰囲気変わったよな? お前が異性を信じるなんて…。お前、部長さんに惚れたのか? 」

 こいつは何をバカなことを言ってるんだろう?

「うぅ~ん、確かに人として惚れてはいるかも…? 」

「その心境の変化が聞ければ納得だよ…」

 呆れた顔で慶次がため息を吐くと

『朱音、校門前で待ってるから早く来てくれよ! 』


 縁からメッセージが着たので

「それじゃあ校門で合流みたいだから行くぞ慶次! 」

 鞄を持って俺は足早に教室を出る。

「自覚無しか…」

 後ろから呆れたような慶次の声が聞こえたのはきっと気のせいだろう。

◆◇◆◇

「やっほ! 朱音♪ それと慶次君。2人とも待ってたよ! 」

 そういって縁が手を振って駆け寄ってくる。

「お待たせ縁、これからどうする? 」

 縁に意見を求めると縁は少し考えて

「立ちながもアレだし坂の下にあるサイゼに行こう! 」

 そういって縁は『自転車置き場に行ってくる』と言って自転車を取りに…。そして慶次も『俺も取ってくる!』と言って縁を追って行ってしまった。


 校門で待つこと数分、自転車に乗った縁がやって来て俺の前に止まる。

「ほら朱音、ここに座れ! 」

 そういって縁は後ろの荷台に移る。

「俺が漕いで行くの? 」


 そう聞くと縁は妖艶な笑みを浮かべて

「背中に私の胸の感触がするんだぞ? 役得じゃないか? 」

 そんなことを言うから余計座りづらくなったからな!

 俺が聴かなかったことにして歩き出そうとすると縁が隣にやって来て俺の腕に抱きつき

「良いから乗れ! 」

 無理矢理自転車に乗せられペダルを漕ぎだす。


「やっぱ、お前変わったよ! 俺は先に行って席を確保しておくから事故らないようにゆっくり来いよ! 」

 そういって慶次は校門を出て坂道を勢い良く下っていく。

「それじゃあ俺達も行くか? 」


 そういってペダルを漕ぎ出そうと踏み込むが前に進まない…?

「あれ? 前に進まない? 縁、何かして…」

 振り返るとそこには…。

「橘先輩、独り占めはダメですよ♪ 」


 みっ、美鈴…。笑顔だけど目が、目が笑ってないから…。

「おにぃ! 早く降りる! 」

 自転車に乗っている俺を退かしてそこに美鈴が座る。

「おにぃはダッシュだよ♪ ダッシュ♪ 」


 そういって美鈴が腕を前後に振っている。

 ピロリン!

 メールを受信した音がしたのでスマホのロックを解除して見ようとすると…。

「おにぃ、ガードが甘いね♪ 」

 美鈴にスマホを取られてしまった。


「フムフム…。おにぃ、誰この子? 」

 突き出されたスマホを見るとリーシャからのメールだった。

「クラスの女子だよ。その子方向音痴で明日からその子の家に朝、迎えに行くことになったんだよ♪ だからお前達も一緒に…」

 あれ? 美鈴と縁が怒ってる?


「おにぃ、あとで家族会議ね♪ 」

「今回ばかりは私も美鈴君の味方をするよ♪ 美鈴君、私も一緒に家族会議に参加するよ♪ いいかな? 」

 2人は笑顔で握手をしていた…。


 なんだか今から家に帰るのが嫌になってきた…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る