深まる誤解…

 リーシャを無事に家まで送り届けるともう片方の腕に縁が抱きついてきた。

「ねぇ、2人とも離れてくれないかな? このあと商店街に買い物に行くんだからさ」

 そういうと美鈴は

「おにぃ、私は今ノーブラなんだよ! それにまだ夏服のブラウスなんだよ! そんな状況で今、おにぃから離れたら透けて見えちゃうじゃん! いいの義妹のおっぱいが他の人に見られても! 」


 そういって美鈴は泣きそうな目で俺を見つめてくる。

「分かったよ…。しっかり抱きついて見えないように隠しとけ」

 そういうと美鈴は俺を挟んで居る縁を見てニヤリと笑いかける。

「朱音、わっ私もブラのホックが外れちゃったみたいなんだ。このままだとマズいから抱きついてていいかな? 」

 そういって縁も腕に抱きついてきた。


「もぅ~、こんなんじゃ商店街に行けないじゃん! とりあえず家に帰るから、それから買いに行くぞ! 」

 まったく、商店街に買い物に行こうと思った今日に限ってこんなことになるんだ…。

◆◇◆◇

 家に帰ると2人は腕を離して自分達の部屋に戻っていく。

 俺もとりあえず部屋に戻って服を着替えているとどこから視線を感じる。

「何だろう? 」

 そういって部屋を見渡すとベランダのガラス戸を叩く縁の姿が…。

「下着姿でなにやってるの? 」


 ガラス戸を開けると下着姿の縁が部屋に飛び込んできて抱きついてくる。

「黒くてカサカサ動くアレが部屋の扉に…。部屋から出られなかったから朱音に助けを求めに来たの…」

 涙目で俺を見つめてくる。

「朱音、あの黒い生物をやっつけてくれ!」

そういって縁はベットに潜り込んで締まった…。


 俺はゴキジェットとハエ叩きを持って縁の部屋へ、ベランダから入ると奴は廊下に続くドアに張り付いていた…。

「はぁ、俺も奴は苦手なんだけどなっ! 」

 そういってゴキジェットを噴射すると奴は生命の危機を感じ取ったのかドアから飛び立つ…。

 俺はこっちに向かって飛んでくる奴を目掛けてハエ叩きを振りかぶる…。


「ベチッ! 」


 不快音と共に奴は壁に当たりパラパラと砕け散って死んだ。

「よしっ! なんとかなったぞ! 」

 そういって奴の死体をティッシュでくるみゴミ箱へ捨てる。

 それにしても大きかった…。

 洗面所で手を洗い、自分の部屋に戻ると布団にくるまって俺のパジャマを抱いて寝ている縁が居た。


「好きだ、大好きだ…」

 寝言なのか俺のパジャマを抱きながら縁が『好きだ』と話している。

「ダメかな? 夢の中に行ってるから起こすのは可哀想だから縁は寝かせたまま美鈴と2人で買い物に行くか…」

 完全に寝てしまっている縁を置いて美鈴の部屋をノックする。


「はいはい、どうしたのおにぃ? 」

 ピンク色の長袖と白いフレアスカートを着た美鈴が扉を開けて尋ねてくる。

「よく俺だって分かったね? 」

 今更ながら気になったので聞いてみると

「今更だね? 何年一緒にいると思ってるのおにぃ…。おにぃのノックは、いつも1回目が『ゴンッ』で2回目が『コン』なんだよ♪」


 さっぱり分からないがとりあえず美鈴が俺のノックを理解しているのは分かった。

「縁が寝ちゃったから俺と美鈴の2人で買い物に行こう、何だか気持ち良さそうに寝てるから起こしづらくて…。いいかな美鈴? 」

 そういって美鈴を見つめると

「うん、私はおにぃと2人がいい! 」

 そういって抱きついてきたのでそれを受け止め2人で買い物に行くことにした。

◆◇◆◇

 今日は美鈴君に我慢をさせてしまったからな…。私は正々堂々勝負して彼に選んでもらいたい、だから美鈴君1人に我慢をさせるのはフェアじゃない…、だから今回の買い物は寝たふりをして朱音と2人で行かせてあげたんだ…。

「だけどやっぱり後悔はしてるんだよね…。でも朱音の毛布にくるまっていると朱音に抱かれてるみたいで何だかヤバい…」

 私は朱音のベットの上で1人モンモンとしていた。

◆◇◆◇

「美鈴は何が食べたい? 」

 隣を歩く美鈴に意見を求めると

「今日はおにぃの得意料理アレが食べたいなぁ~」

 得意料理アレか…。

「分かった、それじゃあ材料買って帰ろっか♪ 」


 俺と美鈴は商店街を廻り得意料理アレに必要な材料を買い揃えていく。

「おっ、今日は美鈴ちゃんだけか朱音」

 精肉屋の芝さんがコロッケを持ってやって来る。

「あぁ、芝さん! だからこのあいだのは誤解なんですって!」


 そういって差し出されたコロッケを受け取り200円を渡す。

「まいど! それより今日はやけにベッタリじゃないか美鈴ちゃんは…。どうしたんだ?」

 芝さんが美鈴に話しかけると美鈴は

「なんですか? 私が義兄ちゃんにベッタリだから嫉妬しちゃったんですか? ごめんなさい、私は義兄ちゃんしか愛してないです。ごめんなさい」

 そういって芝さんに頭を下げて謝っている。


「本当に愛されてるな朱音は…」

 芝さんが苦笑いをしながら美鈴に話しかけると美鈴は俺の腕をつねって

「本当ですよ! こんなに好きって伝えてるのにまったく気づいてくれないんですよ」

 そういって美鈴は不貞腐れているのだが理解が出来ない…。俺も好きだって伝えてるのに…。


「いや、だから俺も好きだって! 大切な家族だって思ってるから! 」

 そういうと美鈴はジッと睨んで芝さんはやれやれ┐(´д`)┌とジェスチャーをしている。

「もういいです。おにぃは本当に鈍感なんだから…」

「朱音、お前さすがに鈍感すぎる…」

 俺のどこが鈍感なんだろう…?

◆◇◆◇

「ただいまぁ~」

 縁に無断で行ってしまい約束を破ってしまったので後暗い気持ちで声をかけるとリビングから

「おかえり~、美鈴君と朱音」

 と声が聞こえるのでリビングのドアを開けてなかに入ると


「今日の夕飯は何になったんだい? 」

 いつもと変わらない縁が居た。

「ごめん、あまりにも気持ち良さそうに寝てたから俺と美鈴の2人で買い物に行っちゃった…。約束を破って申し訳ない」

 そういって縁に謝ると縁は笑って

「怒ってないよ♪ 私も朱音のベットがあまりにも気持ちよくて寝ちゃったのが悪いんだ…。それに朱音があんなに激しくするから…。少し怖かったんだぞ♪ 」


 悪寒がしたので俺は後ろを振り返ると刺さるような視線で俺を見つめる美鈴が居た。

「おにぃ、橘先輩と寝たの? 」

 ゴミを見るような目で美鈴は俺を見つめてくる。

「寝てないから! 縁が俺のベットで寝ちゃっただけだから! それに俺が激しかったのは縁の部屋に出た黒い奴と戦ってただけだから! 」


 美鈴は顔を青白くさせて

「殺ったの? 殺ったんだよね? あの黒いのだけは絶対ダメ! 」

 そういって美鈴は後退りする。

「大丈夫だから! 美鈴もそうなるように縁もそんな感じだったんだよ」

 そういうと美鈴は少し柔らかくなった表情で『本当なの? おにぃを信じるからね』


 そういって美鈴は部屋に着替えにいった。

「それで今日の夕飯は何になったんだい?」

「家族の特別な時にいつも俺が作ってるんだけどすずきのパイ包み焼きを作るよ」

 そういって鱸を縁に見せると縁は驚いた顔で俺を見つめてくるので彼女に手を差し出し

「家族になろうよ♪(それぐらい信頼し合える仲になろうと言う意味で) 」

 縁は涙を流して嬉しそうな顔で俺の手を握り『うん、よろしく(プロポーズの返事)』と言って微笑んでくれた。

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