林間学校での依頼

 サービスエリアに着いて車の外に出るとそこには青白い顔の縁が居た。明らかに大丈夫じゃないのに大丈夫と聞くのはおかしいので

「車酔いか? 」

 そう尋ねると縁は首を縦に振って肯定してくる。

「何で人が密集してる鉄の塊に入って移動しなくちゃいけないんだ…。あんな狭いのに乗って移動とか考えられない」

 そういって頭を抱えていた。


「おにぃ~♥! 」

 俺は後ろに2歩さがり美鈴の突撃をかわす。

「突撃してくるなよ…」

 そういって美鈴の頭に軽くチョップをすると美鈴はニヤニヤしながら

「本当は嬉しいくせに! おにぃは恥ずかしがり屋さんだなぁ~」

 そういって俺の隣に立ち肘で脇を小突いてくる。


「それより朱音とリーシャ君、依頼の方は覚えているよね? 私達はこの林間学校で3つも依頼をこなさなくちゃいけないんだからね」

 縁はそういって指を3本立てて俺達を見てくる。

 よろず部の目安箱の利用率は、意外とあって今回の3つは、この林間学校で依頼が達成出来る可能性がある依頼になっているので何とかしようと昨日3人で相談していた。


「えぇ~、おにぃは私と一緒に生徒会のお手伝いでしょ? 」

 俺は美鈴に再度チョップをして

「そんな話は聞いてない、それより1年のバスもう出るみたいだぞ早く戻れ」


 そういっている間に1年のバスは出発してしまった…。

「どうすんだよお前! 」

「どうしようおにぃ! 」

 俺と美鈴が慌ててオロオロしているとリーシャが加藤先生を連れてきて状況を説明している。


「しょうがない、私達のバスに乗って行きましょう…。担任の先生には私から連絡しておきます」

 加藤先生はため息を1つ吐いて電話を掛けて謝っていた。

「それじゃあ三ノ宮さんは私達のバスに乗って行きましょう♪ それじゃあ皆さん戻りますよ! 」


 そんなこんなで美鈴も俺達のバスに乗ることになったんだけど…。

「視線が痛い…」

 美鈴は俺の隣の補助席を使って座っているのだが

「おにぃ♥ お菓子食べる? 」

「朱音はポテトチップスより私の手作りクッキーの方がいいだろ? 」


 両隣からいっぺんに言われても…。

「うっ、うんありがとう。ポテトチップス美味しいからねぇ~、そのまえにリーシャのクッキー食べるね? 」

 そういってリーシャのクッキーを食べると仄かな甘味の中に紅茶の様な爽やかな味がする。

「紅茶使ってる? 」


 リーシャに聞くとリーシャは頷いて

「うん、生地にダージリンを練り込んだんだ上手く出来てるかな? 」

 そういって恥ずかしそうに笑いかけてきた。

「うん、スゴく美味しい♪ う~んポテトチップスはあとでいいかな♪ 美鈴またあとで頂戴♪ 」


 そういって再度クッキーに手を伸ばすと美鈴は頬を膨らまして

「いいから食べて! 」

 と言って口の中にポテトチップスを突っ込んできた。

「ちょっ……」

 口に突っ込まれたポテトチップスを食べていると美鈴がドヤ顔で俺を見つめてくる。


「どう朱音♥ いつものポテトチップスじゃないでしょ♪ 昨日私が手作りしたんだから」

 そういって微笑んで俺の口の中にポテトチップスを放り込んでくる。

「スゴくサッパリしてる…。なにコレ」

 俺がポテトチップスを咀嚼しながら驚いていると美鈴が説明を始めた。


「あのね、今回は揚げ油を私なりに少し改良してみたんだ! いつも使ってるのは家庭用で使ってるキャノーラ油なんだけど今回はサラダ油と紅花油を使ったんだよ♪ 配合量は秘密ね♪ 」

 美鈴はウインクをして嬉しそうにしている。


「それより朱音、私と一緒に依頼をどうするか考えよう♪ 橘さんが居ないうちに私達でどうするか考えて驚かせよう♪ それに私もよろず部の部員として初めての依頼だから、よろしくね♪ 」

 そういってリーシャは俺の腕を引き寄せてきた。

 確かに今回の林間学校中に達成しなくてはいけない依頼は3つあるのだから考えなくては…。


「そうだね…。ちなみにリーシャは依頼内容を覚えてる? 」

 そう尋ねるとリーシャは頷いて

「まず1つ目は『1年生の女の子からの依頼で3年生の先輩と付き合いたいので何か切っ掛けを作ってください』2つ目は『病弱でなかなか学校に来れなかったせいで未だに友達が出来ません。今回の林間学校で友達を作りたいです』3つ目が『彼氏が欲しい! そして私を癒してほしい』ただこの依頼だけ依頼主が匿名で依頼書がパソコンで打たれていて誰か分からないんだよね…」

 そう、1つ目と2つ目は依頼主の名前が記載されているのに3つ目は依頼内容だけで他は何も書かれていないのだ…。


「まず1つ目と2つ目は何とかなるかもしれないけど3つ目は難しいよな…。このあいだの慶次と岩清水さんの依頼は筆跡が特徴的で分かったけど今回はパソコンだからなぁ~」

 そういって依頼書を見つめていると美鈴が1通目の依頼書を見て不思議そうに首をかしげている。

「どうしたの美鈴? 」

 不思議に思い声をかけると美鈴は俺とリーシャを見て

「あのさ、この1通目の依頼書の1年生の女の子なんだけど私と同じクラスの子で確か男嫌いで有名な子なんだよ…。その子が異性を好きになるのかなって…。おかしいよね?」


 確かに男嫌いの女の子が3年生の先輩と付き合いたいってのは、おかしいよな…。

 リーシャが何か気づいたのか、ハッとした顔で俺を見つめ

「朱音、もしかしてその1年生の女の子はレズなんじゃ……」

 いや、そんなまさか…。

 美鈴を見ると美鈴は視線を反らした。


「マジですか…」

「マジだと思うよおにぃ…」

「この依頼どうすればいいんだ朱音…」

 俺もどうすればいいのか分からないので縁にSNSを使って連絡を取ってみることにした。


「縁、問題発生! どうやら1つ目の依頼なんだが依頼主がレズらしい…」

『誰の情報だい? 』

「美鈴、同じクラスの女の子らしい」

『根拠は? 』

「美鈴が言うには男嫌いで有名な子らしい」


 縁も驚いたのか既読の通知がついてから30分経ったがまだ返信がこない。

「やっぱりどうするべきなのか迷うよね…」

  俺のスマホの画面を見ていたリーシャがそう呟くけど、本当にその通りだよなぁ~。

 そんなことを思っていると縁から返信がきた。


『私の方で考えは纏まった。しかし問題は3つ目の依頼だな…。あれは正直どうしたらいいのか私もサッパリだ』

 俺とリーシャはその返信を見て思った…。

 1つ目と2つ目は解決できたのかよ! 1つ目のレズ問題はどうするんだよ!と…。

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