縁と悪意なき殺意

「とりあえず一通り買ってきたから試作品をいくつか作ろう! 」

 そういって買ってきた食材をキッチンに置きながら手を洗い、料理の準備をする。

「今回は私も作るぞ! 」

 そういって縁が買ってきたアボカドをそのまま切ろうとする。


「ストップ! 一旦ストップ! 縁、そのまま切ろうとすると包丁の刃がかけちゃう! 」

 そういって縁の後ろから手を添えて切り方を教える。

「へーっ、アボカドの種ってこんなにおっきいんだ! 」

 そういって種を確認してスプーンでほじくりだそうとしている。


「ちょっ、ちょっと待って縁! 簡単に取る方法があるから! 」

 そういって包丁を使って綺麗に種を取り除く…。

「縁、料理は俺と美鈴が考えるから縁はドリンクを考えてよ♪ たぶん他のメンバーもドリンクは考えてないと思うから…」


 そういって買っていたコーラやサイダーを渡す。

「分かった! 私がオリジナルドリンクを作ってやる! 」

 そういって縁はドリンクを持ってリビングに行った。

「橘先輩の料理は何と言うか独創的だからね…。私は橘先輩の料理は、もういいかな…」


 美鈴はそういって縁が行ったリビングの方を見つめる。

「俺もあの黒炭は食べたくないからね…」

 そういって苦笑いをすると美鈴はジト目で俺を見つめてきて

「よく言うよ、このあいだの黒炭なんか『うぅっ…、でも縁が頑張って作ったんだから俺が食べるよ』とか言って無理して食べたくせに…」


 そういって美鈴は何故か少し不貞腐れている。

「何で不貞腐れてるんだよ? 確かにアレは少し? いや、かなり無茶はしたけど実害があったのは俺だけだし問題は無いだろ? 」

 腹がギュルギュルいってトイレに駆け込んで1時間ぐらい籠ってたけど…。


「不貞腐れてないから! それよりおにぃ、私にも料理教えてよ♪ 」

 そういって身体を寄せてくる。

「そんなに寄るなって…。それにお前は料理得意だろ? 俺が教える必要あるのか? 」

 俺は寄ってきた美鈴を押し返しながらメレンゲを作っていく。


「鈍感、怒るよおにぃ💢 」

 そういって美鈴が俺の頬っぺたを引っ張ってくる。

「ひゃんでだよ! しゅっぱんなよ!(なんでだよ! 引っ張んなよ!)」

「うるさい、おにぃは私に料理を教えるの! いいでしょ! 」

 そのまま俺にピタリと寄り添ってきて慣れた手つきで料理を始める。


 本当に俺の手伝いが必要なのか疑問しか残らないが、これ以上機嫌を悪くさせるのは得策ではないと思ったのでとりあえず隣で作ったメレンゲとホットケーキの材料を混ぜ合わせていく。

「おにぃ、ホットケーキ作るの? おにぃメープルシロップ買ってきた? 」

 美鈴は嬉しそうにホットケーキを見つめてくる。

「あぁ、さっき縁に渡した袋の……」


 そこまで言って嫌な予感がしたのでリビングに行くと

「あっ、朱音! 見てくれ美味しそうだろ!」

 そこには色鮮やかな毒々しいドリンクが置かれていた。

「おっ、おう…。コレを飲んでみればいいんだよね? 」


 目の前に置かれたグラスを持って飲むと…

「グォッ…(何だコレ甘っ! もしかしてかき氷のシロップまで…。あっ、イチゴの味がする。それにメープルシロップにチョコソース、それにサイダー! もう表現出来ない甘さだ…)」

「どうかな? どうかな? 美味しいかな? 」

 期待するような目で俺を見られても…。


「おにぃ、無理しないでいいよ! 私が飲んで感想をズバッと言うよ! 」

 そういって美鈴が俺の持っていたグラスを飲むと…。

「あっ……おっ、美味しい! 少し甘すぎるけど美味しい! 」

 へっ?…美味しい? マジか? マジなのか? アレが美味しいのか!?


 俺が驚いた顔をしていると縁がドヤ顔で

「なるほど、美味しすぎて朱音は声も出なかったのか! 私だってやれば出来るんだぞ!」

 どうしよう…? 2人にきちんと話すべきなのか、それとも楓さんたちに指摘されるまで待つべきなのか…。


「明日早速学校で楓達に振る舞おう! 」

 だっ、大丈夫かな…?

「あっ、それよりおにぃがホットケーキ作ったからメープルシロップ使いたいから借りていくね橘先輩♪ 」

 そういって美鈴はメープルシロップを取ってキッチンに戻る。


「私も朱音の焼いたホットケーキが食べたい」

 そういって縁が俺を見つめてくる。

「分かったよ…」

 ホットケーキを作りに戻ろうとするとキッチンから美鈴の叫び声が聞こえる。


 何があったんだよ…。頭を抱えながらキッチンに向かうとそこにはミーとじゃれあう美鈴がいた…。

「お前達、何やってんだよ…」

 そういって美鈴とじゃれているミーを退ける。


「いや、ミーちゃんがお腹空いたのかホットケーキに飛び掛かってきて…。それでワタワタやってたらおにぃが来たの」

 なるほど状況は分かった。

「ほれっ、ミーはあっちに行ってろ」

 そういってミーの首根っこを掴んでキッチンから追い出してネコ缶を開けてリビングに置く。


 余程お腹が空いていたのか、ミーはリビングに置いたネコ缶を一心不乱に食べ始めた。

「さてと、俺は縁の分のホットケーキを作るから美鈴は何か俺と別のメニューを考えてよ」

 そういって美鈴にメニュー開発をお願いして俺はホットケーキを作り始める。


「ねぇおにぃ、どんな料理がいいか教えてよ! そういえばおにぃの好きな料理って何? 」

 美鈴は不思議そうに尋ねてくる。

「笑うなよ…」

 過去に1度慶次に同じ質問をされて質問に答えたら年寄り臭いと笑われたことがある。確かに若干年寄り臭いとは思っていたけど…。

「肉じゃがとか煮物系の料理が好きだ…」

 そう伝えると美鈴は困った顔で

「煮物かぁ~っ…。喫茶店に煮物はキツいかなぁ~っ…! あっ、待てよ…。あの材料で煮物を作れば……。うん! 美味しいのが出来るかも! おにぃ、ヒントありがとう♪ 」


「なぁ、美鈴は俺の好物を聞いて笑わないの? 」

 不思議に思い、美鈴に尋ねると美鈴は笑って

「うん、だってお義母さんの煮物の味を知ってるからね…。アレは美味しすぎるからね♪ 今度お義母さんが帰ってきたら教えてもらおっ♪ 」


 美鈴はそういってキッチンで何かを作り始める。

「俺も縁のホットケーキを作るか」

 そういってメレンゲを泡立てて生地と合わせて焼き上げる。

 焼き上がったホットケーキを持ってリビングに行くと身体をくねくねさせている縁が座っていた。


「何やってるの? 」

 そう尋ねると驚いたのか背筋をビクッとさせたと同時にブラウスの前が弾けてそこからミーが顔を出す。

「まじかぁ~っ、ミーは何をやってんだか…。縁、ミーを引き剥がすぞ? 」

 そういって縁の胸元にいるミーを引き剥がそうとすると


「ちょっ、待って! 待ってぇ~! 」

 縁がそう叫ぶが無視してミーを引き剥がすとミーはピンクのブラジャーと一緒に俺の腕に収まった。

「へっ…(ブラが取れちゃった…。ってことは今は裸…!? )」

「へっ? (何コレ? もしかして縁のブラ?)」



「………朱音の変態~! 」

「ごめんなさい!! 」


 ブラジャーを持った手もぬくかったけど頬っぺたの紅葉はジンジンと痛く熱を帯びていた。

 俺は縁にブラジャーを返して土下座で謝ったのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る