第31話 莉乃とおうちデート

「こんな所に一人で住んでるのか!?」


 ここ絶対家賃高いだろ!?

 一度でいいからこんな高層マンションに住んでみたいなとは思うけど……。

 まあ背伸びしてこんな所に住んでも逆に落ち着かないだろうな。


「まあね、実家はあまり好きじゃないのよ。うちの家族は厳しいから」


 莉乃は顔を曇らせ、俺から目を逸らした。

 きっと何か事情があるのだろう。


「そうなんだ……、ところで今から何する?またゲーセン戻るか?」


 あまり詳しく話したくなさそうだったので、話題を変える。


「また戻ったらあの二人に見つかるかもしれないわ。それじゃあ落ち着いて遊べないじゃない」


「それもそうだな」


「あっ」


 俺達はどうしようかと考えていると、莉乃が何かを思いついたように声を出す。


「どうしたんだ?何か思いついたのか?」


 莉乃はほんのり頬を赤くして、目を逸らしながらその長い黒髪を触る。


「そ、蒼太がよければ、私の部屋でゲームしない?」


「莉乃の部屋?」


「そ、そう!私の部屋!家庭用ゲーム機なら一通り揃ってるわよ?」


「マジで!?それなら莉乃の部屋でゲームしようぜ!」


 莉乃の話を聞いていろんなゲームができるかもしれないと期待に胸を躍らせる。

 俺はゲーセンも好きだが、どちらかというと家でゆっくりゲームしたいタイプだ。


「ほ、本当にいいの!?自分から誘っておいてなんだけど、女の家にいくのよ?」


「まあ、大丈夫だろ。それに莉乃の事は信用してるし」


 そう言うと、莉乃は顔を真っ赤にして、目を大きく開く。


「そ、そう。ならいいわ、じゃあ行きましょう」


 莉乃は俺に背中を向け、エレベーターに向かって歩き出す。

 俺達はエレベーターを呼び、中に入る。


 エレベーターはガラス張りになっていて、中から外の様子が見えた。

 莉乃は一番上にあった40のボタンを押すと、ものすごい速さで上昇していく。


 景色が上から下に向かって流れていき、人や車がアリのように小さく見えた。


「すごいな!めっちゃ高いじゃん!」


 俺は外の景色を見て、遊園地のアトラクションに乗った気分になる。

 莉乃はそんな俺の姿を見て、口元に手を当てて笑った。


「ふふっ、蒼太って子供みたいね」


「莉乃は毎日この景色を見てるかもしれないけど、俺はこんな高いマンション来るの始めてなんだからしょうがないだろ」


 俺は目を細めて、口先を尖らせる。


「そうね。もし私と結婚したら毎日この景色が見れるわよ?」


 莉乃はからかうようにそう言った。


「それもいいかもな。莉乃みたいな綺麗でゲーム好きな嫁さんだったら毎日一緒にいても楽しめそうだ」


「なっ!冗談なのに真面目に返答しないでよ!」


「あははは、顔真っ赤だぞ?照れてるのか?」


「て、照れてないわよ!」


「本当は嬉しいくせに~、素直になれよ」


「からかわないでよ……蒼太のバカ」


 莉乃は顔を赤くさせ、涙目で俺を見る。


「ごめんごめん」


 俺は莉乃の頭を優しく撫でる。


「や、やめて!子ども扱いしないでよ!」


 莉乃は俺の手を振り払い、繭を吊り上げて睨んでくる。


「俺を子供みたいって笑ったお返しだ」


「もう!」


 莉乃は頬を膨らませ、ぷいっとそっぽを向いた。


『40階です』


 莉乃とじゃれ合っていると機械音声が聞こえて、エレベーターのドアが左右に開く。


 俺達はエレベーターを出て、莉乃が角にある部屋の鍵を回してドアを開ける。

 部屋の中に入り、周りを見渡す。


「す、すごい部屋だな。こんな所に住んでるのか……」


 大きなリビングがあり、壁はガラス張りになっていて東京の街が一望できた。


「まあね。それよりゲームしましょう」


 莉乃はゲーム機の電源を入れ、コントローラーを手に取ってソファに座る。


「それよりって……まあいいか」


 鞄を床に置き、莉乃の隣に座る。

 ソファの前には100インチの大きなテレビがあった。

 この大きさだったらどんなゲームでも迫力がある映像になるだろう。


「今日はレースゲームで勝負しましょう!」


「おっ!いいねぇ、俺結構レースゲーム得意だぞ?」


「奇遇ね、私も得意よ!」


 俺達はお互いにコントローラーを握り、画面を見る。


 ◇


 ピコン


 莉乃とゲームをしているとスマホの通知が鳴った。

 キューピッドが更新されたみたいなので、情報を確認する。


『それは前回の情報で学んだ【相手の価値観を肯定する】というのはあらゆる所で応用できる。例えば女性の好きなものに自分自身も興味を持ってみよう!どうしてそれが好きなのか?好きになったきっかけは?それを会話の中で深堀りしていくだけで、女性との会話のネタにも困らないはずだ。そして相手の好きなものについて知ることが出来たらそれを肯定し、褒めてあげよう。そうすれば私を受け入れてくれたと女性は考え、あなたに対して好意を持ってくれるはずだ』


 なるほど。相手の好きなものを知って、それを褒める。

 莉乃は間違いなくゲーム好きだ。それについて聞いてみるか。


 俺はスマホをポケットに入れて、莉乃の顔を見る。


「なあ莉乃……ん?」


「蒼太、どうしたの?」


 莉乃がいる方のさらに奥に大きな本棚を見つけた。

 本棚には少女漫画とラブコメの漫画や小説がびっしりと並べられていた。

 全て恋愛がテーマの物語のようだ。


「ラブコメ好きなの?」


 莉乃が振り返り、その本棚を見ると顔をもう一度俺の方に向ける。

 莉乃は眉を落とし、俺から視線を外した。


「……」


 莉乃は俺の質問にしばらく答えず、膝の上で拳を握る。


「蒼太はラブコメが好きな女の事をどう思う?」


「急にどうしたの?」


 莉乃の表情に影がかかり、部屋の空気が重くなったように感じる。


「昔、クラスの男子に言われたのよ。『ラブコメを見ている女は気持ち悪い、そんな男が世の中にいるわけないだろ』って」


 莉乃が震えた声でそう言った。


「その男子と喧嘩になったわ。でも結局、男子に生意気言った私が悪いって事になったわ。前から男性は嫌いだったけど、それがきっかけでもっと嫌いになったわ。その男子に気に入られるために男子の味方をした女子も嫌いだった」


「……」


 俺はどうやって声を掛けたら良いか分からず、口を紡いだ。


「私はそれ以降、クラスでは腫れ物扱いで友達が一人も出来なかったわ。ねぇ、蒼太。私なにか悪い事した?物語に出てくる優しくてかっこいい男性を好きになるのってダメなの?」


 莉乃は震えながら、強く拳を握る。

 目からは大粒の涙が頬を伝って、ぽろぽろと落ちる。


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