第68話 いざ、西園寺宅へ!

あっという間に日は流れ、土曜日になった。

竜也から『家の前で待っててくれ』と言われたので、家の前で竜也を待つ。


しばらくすると黒塗りの高級車が俺の目の前で停車し、運転席から白い手袋にスーツを着た40代くらいの女性が降りてきた。


「初めまして、西井蒼太様。私は西園寺竜也様の執事をしております、寺田と申します。本日はよろしくお願い致します」


寺田さんはそう言って、綺麗にお辞儀をする。


「ど、どうも西井蒼太です。よろしくお願いします……」


最近はこういう挨拶をされることが多くなったが、未だに緊張してしまう。


「では、どうぞ」


寺田さんは後部座席のドアを開け、車に乗るように促す。

俺は車に乗ると、ドアが閉められて寺田さんが運転席に座った。


「よう!蒼太。いい天気だな!」


横には満面の笑みを浮かべた竜也が座っていた。


「そうだな。こんな日は外で遊びたい気分だ」


「それもいいな!俺の家には中庭もあるからそこで話そうぜ」


「いや、そう言う意味じゃなくて――」


家行かずにゲーセンでも行きたい、と言おうとしたら竜也が寺田さんの方を見て声を掛けた。


「寺田、家に向かってくれ」


「かしこまりました」


すると車が発進し、体が後ろに引っ張られるような感覚になる。

やっぱり行かなきゃダメか……。


「竜也の家はどのくらいで着くんだ?」


「車だったら15分くらいだ」


「へぇ~結構近かったんだな」


「蒼太、俺の家知らないのか?」


「知ってるわけないだろ?行った事ないんだから」


「四大財閥の家は結構有名だぞ。俺もよく分からないが噂によると俺たちの家は目立つらしい」


「そ、そうだったのか……」


確かに近所にあんな大きい家があったら有名になるかもな。


「あっ!そういえば今日は結愛も家にいるらしいから、仲良くしてやってくれ」


「ゆ、結愛ちゃんが?でもアイドル活動忙しいんじゃなかったっけ?」


「ああ。今日は休みの日だったらしい。結愛も蒼太に会えるのを楽しみにしてたぞ!」


竜也は嬉しそうな顔でそう言った。


結愛ちゃんには気を付けろって岬姉ちゃんに言われてるからな……。

気を引き締めないと。


「竜也って結愛ちゃんが怖いんじゃなかったか?話を聞いてると仲良い兄妹に聞こえるんだが……」


「お前のおかげだよ、蒼太」


「は?俺なんかしたっけ?」


「ああ。蒼太のおかげで結愛は俺から興味をなくしたからな。あいつは興味がない人間にはとことん関わらならなくなるんだ」


こういう本能に忠実なところが四大財閥って感じだな。


「今が一番いい距離感だ。というか普通の兄妹に戻った感じだな」


「ちょっと待ってくれ!じゃあ結愛ちゃんの興味は今、誰に向けられてるんだ?」


「……。まあそれはいいじゃねえか」


何だ、今の不自然な間は……。


「結愛はああ見えていい子だぞ?一途で面倒見もいいしな」


「お前は仲人かよ。お見合いじゃないんだから、いきなり結愛ちゃんの良い所を言われても困る」


「そうだな。少し出しゃばりすぎたかもな。おっ!そろそろ着くぜ」


すると目の前に鳥居の家紋が付いている門が見えてきた。

こんな住宅街のど真ん中に不自然なくらい大きな門。

普通の家ではないのが一目でわかる、これは目立つわ。



あれから門の中に入って10分くらい車に乗っていると、城のような大きな建物の前で車が停車した。どう見ても家には見えないが、これが家なのだろう。


「さあ、着いたぜ」


執事の寺田さんが後部座席のドアを開けてくれたので、車から降りる。

ふと後ろを振り向くと大きな噴水があり、隅々まで手入れされた庭があった。


「……」


「何やってんだ?早く行こうぜ」


「あ、ああ」


竜也に付いていくと、家の前には10人の使用人が立っていた。

使用人達は俺達の姿を確認すると、一斉に頭を下げた。

そして執事の寺田さんが家のドアを開けてくれる。


中に入ると大きな玄関ホールにいくつもの高そうな絵や骨頂品が飾ってあった。

絵の額縁や階段の手すりには金の装飾があり、遠くから見てもかなりの存在感だ。


「蒼太様!ようこそいらっしゃいました!」


そしてその存在感をかき消すほどの圧倒的存在感を放つ結愛ちゃんが玄関ホールの真ん中に立っていた。

結愛ちゃんは小さいフリルのついた真っ白なワンピースを着ていて、綺麗な金髪がとても際立って見えた。

まるで物語に出てくるようなお姫様みたいだ。


「ゆ、結愛ちゃんこんにち――」


すると結愛ちゃんが小走りで近寄ってきて、勢いよく俺に抱き着いた。

俺は状況が理解できず、体が固まってしまう。


「蒼太様の匂い……いい匂いですわ」


「結愛!いきなりハグするのはやめろ!」


竜也が軽く結愛の頭にチョップした。

すると結愛ちゃんは俺から離れた。


「はっ!我慢できなくてつい……。蒼太様、驚かせてしまってすみません」


「いや、大丈夫だよ……。それより竜也、今から何する?」


「えっ?あーそうだな……」


すると寺田さんが竜也の横に立った。


「お坊ちゃま、実は――」


「蒼太の前でお坊ちゃまはやめろ!恥ずかしいだろ!」


普段はお坊ちゃまって言われているのか、意外と可愛い所もあるんだな。


「失礼致しました。実は奥様から竜也様に『書斎に今すぐ来て欲しい』との伝言を預かっております」


「えーー!なんだってー!それはたいへんだー!」


竜也が目を大きく開け、棒読みでそう言った。


「悪いな蒼太。そういうわけだから俺は少し母の書斎に行ってくる」


「分かった、すぐに戻ってくるんだろ?」


「さあ?多分2時間くらいかかるだろうな」


「そんなにかかるのか?忙しいなら俺、帰った方がいいか?」


「それはダメだ!なるべく早く終わらせるからそれまで結愛と遊んでてくれ」


「は?」


どうしてそうなるんだよ!?

竜也が家に遊びに来いって言ったから来たのに、竜也がいないのかよ。

しかもよりによって結愛ちゃんと……。


「申し訳ございません、蒼太様。お詫びに最上級の紅茶とお菓子をお持ち致します」


寺田さんが俺に向かってそう言うと、頭を下げた。


「は、はい……」


「ごめんなさい、蒼太様。私がお兄様の代わりに精一杯おもてなし致しますわ!早速行きましょ!」


結愛ちゃんは満面の笑みを浮かべながら、俺の手を握った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る