第67話 許可が出ました

「友達の家に?」


 家で岬姉ちゃんと夕食を食べている時に、早速竜也の家に遊びに誘われた事を伝えた。岬姉ちゃんはいつものポニーテールを解き、綺麗な黒髪がだらりと腰のあたりまで垂れている。


「うん。前にも言ったことあるでしょ?竜也の話」


「西園寺家の方ですよね?蒼太君は本当に四大財閥が好きなんですね」


 岬姉ちゃんは目を細めて、俺の方をじっと見てくる。

 何故か俺には『四大財閥キラー』という不名誉なあだ名が付けられている。


「いや、別にそういう訳じゃないんだけど……」


「四大財閥の何が良いんですか?お金ですか?名誉ですか?」


「いや、そんなんじゃないって!」


 お金目当てで茜や莉乃と仲良くなったわけではない。

 みんな可愛くて素敵な娘だから好きになったのだ。


「ふふっ、冗談ですよ」


 岬姉ちゃんは口元に手を当てて笑いながら、そう言った。


「それにしても西園寺の家ですか……」


「うん、茜の家みたいに大きいのかな?」


 茜の家は物語に出てくるような城みたいな家で、学校の大きさは優に超えていた。

 あんなに広かったら逆に住みにくいだろ……。


「私は一度葵の家に言った事があるのですが、すごく広かったですよ。どこからが敷地内かわかりませんでした」


 岬姉ちゃんは苦笑いしながら、そう言った。

 岬姉ちゃんも葵の家に行った時は相当疲れたに違いない。


「茜の家も敷地内に入ってから家に到着するまで車で10分くらいかかったよ」


「私の家も他の人達と比べたら相当大きい方だと思っていましたが、やはり四大財閥は普通のお金持ちとは比べ物になりませんね」


 岬姉ちゃんはそう言って、水を一口飲む。


「岬姉ちゃんの家も大きいの?」


「一応業界を代表する男性ボディーガードの会社をやってますからね。お金もそれなりに稼いでいると思いますよ」


 岬姉ちゃんも俺達一般庶民と比べたら十分お嬢様だったんだ……。

 よくよく考えてみたら私立桜小路学園に通ってる時点で一般庶民ではないな。


「最近お母さんとは連絡取ってるの?」


「はい。海依も元気みたいですよ、母は元気すぎて困ってると言ってましたが……」


「あはは……。海依ちゃんは相変わらずみたいだね」


 海依ちゃんが大暴れして、お母さんが頭を抱えているのが目に浮かぶ。

 また久々に会いたいな~。


「西園寺の家に行くなら、気を付けて行ってきてくださいね。まあお迎えを出してくれると思いますが」


「え?いいの?」


 意外とあっさりしてるな。


「私は蒼太君を束縛したいわけではありませんよ。ちゃんと前もって連絡してくれれば何も言いません。ただし!」


 岬姉ちゃんは目付きを鋭くさせて、俺の顔の前で人差し指を立てた。


「西園寺結愛には気を付けてください」


「えっ?何で岬姉ちゃんが結愛ちゃんの事知ってるの?」


「私は直接面識はありませんが、西園寺結愛が蒼太君の彼女になるんじゃないかってみんな心配していましたよ」


 みんなとは茜、莉乃、葵の三人の事だろう。


「そっか……」


 みんなに苦しい思いはさせたくない。

 もっとみんなとコミュニケーションを取らないとな……。


「でもあまり気にしなくていいと思いますよ。蒼太君が誰を好きになるのかは私達に口出しする権利はありませんし、今は嫁を10人作るのが当たり前の時代ですからね」


 改めて聞くとすごい価値観だな……。

 嫁を10人って、江戸時代の殿様かよ。


「俺が結愛ちゃんと仲良くなったら、岬姉ちゃんも心配する?」


「いいえ。私は一緒に暮らしているという事もあってか、蒼太君と長い時間一緒に居ますからね。私は十分ですよ」


 確かに岬姉ちゃんと一緒に居る時間は他の彼女と比べても圧倒的に長い。


「もし西園寺の家に行くなら、他の彼女達にも共有させてもらいますが、それさえ了承してくれればみんな何も言わないと思います」


「それはみんなに伝えてもいいよ。じゃあ竜也に日程送っちゃうね」


「分かりました」


 俺と岬姉ちゃんはスマホを取り出して、それぞれ連絡をし始める。

 竜也に許可が出たことを伝えると、すぐに日程の候補日が送られてきた。


「次の土曜日に竜也の家に行くよ」


「はい。では夕方までに帰ってくれたら嬉しいです。一緒にご飯も食べたいですし」


「分かったよ。必ず帰る」


「ふふっ、それが聞けて安心しました」


「えっ?やっぱり不安だったの?」


「当たり前です。また前回みたいに直前の連絡で泊まったら許しませんからね!」


 岬姉ちゃんは腕を組んで、口を尖らせる。


「ご、ごめん。分かったよ」


「ふふっ、信じてますよ。あっ!」


 岬姉ちゃんは何かを思い出したかのように、声を上げる。


「どうしたの?」


「そういえば最近茜の調子がすごく悪そうなんですよね……」


「茜が?いつも教室で会ってるけど、そんな風には見えなかったけどな……」


「なんか無理しているというか、すごく苦しそうなんです」


 岬姉ちゃんが眉を下げながら、そう言った。


「言われてみればふとした時にすごく悲しそうな顔をする時があるんだ。一度理由を聞いたけど、その時は何も答えてくれなかったよ」


「そうですか……。葵が言うには神楽坂が執着した男に彼女が増えるのは相当苦痛になるみたいです」


「そ、そうだったのか……」


 茜曰く、神楽坂は独占したいという気持ちが強くなるらしい。

 他の彼女達と差別するわけではないが、茜には他の彼女よりも気を遣ってあげないと・・・・・。


「はい。私達以上に茜には時間を使ってあげて下さい」


「分かった」


四大財閥は普通の女の子達とは違う。

でも俺はそんな彼女達を好きになってしまったんだ。

だから一切妥協するつもりはない、全力で彼女達を幸せにしてみせる!

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