第66話 愛する人 side西園寺結愛
「お疲れさまでした!」
私は元気よく声を出して、プロデューサーさんに頭を下げる。
「愛ちゃん、お疲れ様。今日も最高だったよ!」
「いえ!いつもスタッフの皆様が支えて下さっているおかげですわ」
「この調子で本番のライブもよろしく頼むよ。それにしてもさすが愛ちゃんだね!キャパ5万人の会場が一瞬で満席になったらしいわ!」
プロデューサーさんは嬉しそうに口角を上げながらそう言った。
「本当ですかっ!?やる気出てきました!次の練習もよろしくお願いしますわ!」
「もちろんだよ!学業との両立は大変だろうけど、ゆっくり休んでね」
「はい!」
私はプロデューサーさんにもう一度頭を下げて、自分の楽屋に戻る。
そしてすぐにスマホの電源を入れ、チャットアプリを開く。
「ふふっ、今日の蒼太様を確認しなければいけませんわ」
最近、蒼太様の写真を定期的に送って欲しいとお兄様にお願いした。
本当は直接会いたいけど、アイドルの仕事が忙しくて学校を休む事が多い。
いつの間にか蒼太様の写真をチェックするのが生きがいになっていた。
「もう蒼太様なしでは生きていけませんわね」
もうぎゅーしないから、蒼太様の写真を送ってほしいと伝えたら、お兄様は何故か二つ返事で了承してくれた。
お兄様のチャット欄を開くと、そこにはお兄様と蒼太様が肩を組んだ写真が送られてきていた。
蒼太様は困ったようにぎこちなく笑っていた。
「ふふっ、可愛いですわ」
ちゅ
私は蒼太様の顔をズームし、スマホに口づけをする。
「はぁ~、会いたい。寂しいですわ……。そろそろこの前ぎゅーした時に補充した分が無くなってきました……」
そんな事を呟きながら、チャット欄をスクロールさせると写真だけではなくチャットも一緒に送られてきていた。
『結愛。蒼太が今度家に遊びに来てくれるらしいぞ。日程はまた後で決める』
「へっ?」
私は思わずスマホを床に落とした。
あまりの衝撃で体が固まってしまい、頭の中が真っ白になる。
「そ、そそそそ蒼太様が家に来るんですの!?」
急いで床に落ちたスマホを拾い、もう一度チャット欄を見る。
そして何度も同じ文字を読み返す。
「み、見間違えではありませんわ!はわわわっ、どうしましょう……」
落ち着かず、スマホを片手に楽屋の中を何度もぐるぐると歩く。
「結愛~」
すると楽屋のドアが開き、マネージャーさんが入って来た。
「結愛、今度のライブの事だけど……って何やってるの?」
歩き回っている私を見たマネジャーさんが目をぱちぱちとさせる。
私はマネージャーさんの両肩を掴み、左右に勢いよく振る。
「どどどど、どうしましょう!?蒼太様が私の家に――」
「ゆ、結愛!一旦落ち着いて、深呼吸しなさい!」
「はっ!」
私はマネジャーさんから手を離し、大きく深呼吸をする。
すると心なしかソワソワした気持ちが治まってきた。
「蒼太様ってこの前言ってた恋人のこと?」
「こ、恋人ではありませんわ」
「でも好きなんでしょう?」
「はい……」
「はぁ~」
マネジャーさんは右手で額を押さえながら大きなため息を吐く。
「まあ、アイドルのマネジャーをやってる私からすればそんな事している場合じゃない……と言いたいところだけど、好きな人が出来てからの結愛のパフォーマンスは神がかってるのよね……」
蒼太様に恋してからは体の調子が良い。
声もよく出るようになったし、ダンスの時も体が思うように動く。
「蒼太様と出会ってから何もかも変わりましたわ。何て素敵な方なのでしょう……」
私は手を組んで、蒼太様を思い浮かべる。
「完全にやられてるわ。全く……、しっかりしなさい!」
「わ、分かってますわ。ライブには一切妥協しません。でも蒼太様が家に来られるなんて……」
「5万人の前でライブをするアイドルとは思えないわね。それと比べたら一人の男の子が家に来るくらい大したことじゃないと思うけど……」
「大したことですわ!!もし蒼太様に嫌われてしまったら私はもう生きていけません!早く帰って準備しないといけませんわ」
私は急いで私服に着替えて、バックに荷物を詰め込む。
「あなたは芸能人なんだから、あまり派手にやりすぎるんじゃないわよ」
「?アイドルに彼氏がいて炎上したのはあまり見た事ないから大丈夫だと思うのですが……」
私も女だし、ファンの人達も9割9分女性だ。
私に彼氏ができたところで誰も嫉妬しない。
「まあそうだけど、変な事すると『愛』のイメージが悪くなる。それで収益に影響が出たらたまったものじゃないわ。あなたは暴走すると何をしでかすか分からないから不安なのよ」
「それは気を付けますわ。でも家の中なら何をしても大丈夫ですわよね?」
もちろん外ではなるべく激しいスキンシップは控えるようにするつもりだ。
でも蒼太様が家に来るとなれば話は別だ。
「あんた家の中で何するつもりなのよ……。まあほどほどに頼むわよ」
「分かりましたわ!それではお疲れさまでした!」
私はそれだけ言い残して、楽屋を出て行く。
「帰ったらまず服を選ばないといけませんわ。あと掃除もお願いしないと……」
そんな事を考えながら建物の出口に止まっているタクシーに乗り込む。
運転手に行先を伝えると、タクシーが夜の街中を走り出した。
色鮮やかなネオンが窓ガラスに反射し、前から後ろに通り過ぎていく。
「ふふっ、楽しみですわ」
私はもう一度蒼太様の写真をスマホに表示する。
「蒼太様、愛しています。必ず私の事を好きにさせますわ……」
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