第65話 結愛の事どう思う?

昼休みに茜を昼食を誘ったのだが、断られてしまった。

岬姉ちゃん達と話し合い?をするらしい。

仲間外れ感を感じながら、教室で岬姉ちゃんが作ってくれたお弁当を開ける。


「なあ蒼太。一緒に飯食おうぜ!」


すっかり体型と肌艶が元に戻った竜也が俺の前に座り、お弁当を机に置く。


「ああ、いいぞ。茜達がいなくて、ぼっち飯になるところだったよ。誘ってくれてありがとな」


「蒼太をぼっちにさせるわけないだろ?俺達の仲がじゃねえか!」


竜也がそう言って、俺の肩を力強く掴む。


「な、なんか最近の竜也は暑苦しいな……。キャラ変でもしたのか?」


結愛ちゃんが教室に来た日から何故か竜也の体形はどんどん戻っていき、テンションも高くなっていった。

あと俺に対して距離をグイグイ詰めてくる。


「最近、長年の悩みが解決してな……。俺は生まれ変わったんだ!!」


竜也は満面の笑みで両手を大きく広げた。


「そ、そうか……。良かったな」


今の竜也のテンションには違和感しかないが、前の衰弱した竜也に戻るくらいなら今の竜也の方が健康的だ。


「なあ、ところで蒼太……」


竜也が急に真剣な顔で俺の名前を口にする。


「ん?なんだ?」


「俺の妹……結愛の事をどう思う?」


「結愛ちゃん?いきなりどう思うって聞かれてもな……」


西園寺結愛。

四大財閥の西園寺家の長女で竜也の妹。

たしかアイドル活動をしてるんだっけ?


「結愛ちゃんってアイドルやってんだろ?芸能人の妹がいるなんて、竜也は幸せ者だな」


「そういう事を聞いてんじゃねえんだよ!」


竜也は俺を睨みながら、声を荒げる。

強面なんだから睨むのはやめて欲しい……、普通に怖い。


「あっ!わ、悪い……。つい大きな声を出しちまった」


「い、いや別にいいけど……」


竜也は深呼吸して、小さく咳払いすると再度俺を真っ直ぐ見てきた。


「結愛のことを女として見れるか?」


「へっ?」


そういえば結愛ちゃんは俺を好きになったとか言ってたな……。

やっぱり兄として妹の恋に興味があるのかな?


「さ、さすがに四大財閥の子達と付き合ってるからって、友達の妹をそんな風に見るつもりはないよ!」


俺は竜也に急いで弁解した。

もし結愛ちゃんに手を出して、さっきみたいに竜也に睨まれたら今度こそ漏らしてしまうかもしれない。


「な、何故だ!?神楽坂や如月は良くて、西園寺はダメなのか!?」


竜也は勢いよく立ち上がって、そう言った。


「ダメっていうわけじゃないよ!結愛ちゃんは可愛し、良い子そうだったけど友達の妹だから――」


「何っ!?可愛いし良い子だとは思っているのか!?」


竜也は俺の両肩を掴んで、激しく揺らす。

差別するつもりは全くないが、こうやって感情的になる所を見ると竜也も四大財閥の人間なんだなと思ってしまう。


「可愛いのは当然だろ!?だって可愛くないと人気アイドルになれないんでしょ?」


「じゃあアイドルと結婚するのは嫌って事か!?」


「そんな事言ってないだろ!?竜也どうしたんだよ!」


すると竜也は俺の肩から手を離し、ゆっくり席に座る。


「早いとこ結愛を蒼太に押し付けないと、いつ俺のとこに戻ってくるか分からん。しかし蒼太は結愛の事を良いとは思っているが、勇気が出ないということだな……。やはり結愛から蒼太にアタックできる状況を俺が作るしかなさそうだな」


なにやら竜也が一人でぶつぶつ独り言をし始めた。


「りゅ、竜也?」


「よし!蒼太、今度俺の家に遊びに来い!」


「は?」


「いいだろ?俺達友達じゃねえか!友達なんだから家に遊びに行くのは当たり前だし、何もおかしくはないだろ?」


確かにおかしくはない。

ただきっと竜也の家も相当大きくて、豪華なんだろう。

普通の友達の家に遊びに行く感覚とは少し違うような気がする……。


「い、いや遠慮しとくよ……。俺が間違えて竜也の家にある高級品とか壊したら、取返しつかないことになるし。普通にゲーセンとかで遊ぼうぜ?」


「男二人でゲーセン行ったら、ナンパされてゲームどころじゃなくなるだろ!」


あっ、ここは貞操逆転世界だったな。

この世界でしばらく暮らしているが、この辺の価値観にはまだ慣れない。


「でも前に一度茜の家に行った時も家具や飾りが豪華すぎて、疲れたんだよな……」


茜の家にはそこらじゅうに高そうな絵や骨董品が置いてあったし、俺が使った食器も相当高いんだろう。

もし割ってしまったら……と考えてしまい、震えながらご飯を食べた気がする。


「俺の家族は家具や飾りが壊れるくらい何とも思わんぞ?結局、金でどうにかなるからな」


「でも世界に一つしかない物だってあるんだろ?俺には物の価値もよく分からないし、何かあったら弁償できないぞ?」


もし弁償することになったら俺は明日からもやし生活だ。

17歳で借金生活は勘弁してほしい。


「本当に大事な物は蔵にしまってるだろ。もし蒼太が家の物を壊しても弁償なんてさせるかよ。どうせ1億か2億くらいの物しか飾ってないから安心しろ」


「お、おう……」


やはり金持ちの発想は恐ろしい。

俺みたいな一般庶民には到底理解しがたい価値観だ。


「頼む!俺の家に遊びに来てくれ!」


竜也は顔の目の前で手を合わせて、そう言った。


「どうしてそこまで俺を家に呼びたいんだ?」


「いや、それは……。じ、実は男友達が家に遊びに来たことは一度もないんだ。だから蒼太を家に呼んで家族に紹介したいなと思ってな」


「はぁ~、まあそういうことなら竜也の家に行かせてもらうよ」


「本当か!?」


「ああ」


「やったぜ!じゃあご馳走を用意しておくぜ!」


「き、緊張するようなことはやめてくれよ?」


すると竜也はスマホを取り出して、何やら文字を打ち始める。


「よしよし……、まずは結愛に連絡してっと。まあ本当の理由は違うけど嘘は言ってないからな……」


竜也がまた独り言をブツブツ言い始めた。


「じゃあまた空いてる日分かったら連絡してくれ!彼女達に相談しないといけないんだろ?」


「ああ。帰ったら岬姉ちゃんに聞いてみるよ」

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