第12話 昨日よりなんだか距離が近い
「神楽坂さん、今日も教科書見せてよ」
「うん!じゃあそっち行くね」
神楽坂さんは昨日と同じように自分の机を俺の方に寄せ、俺の机にくっつけた。
ん?なんだか昨日よりも距離が近いような……。
昨日はもう少し椅子を離していたが、今日はお互いの肘が今にも当たりそうなほど距離だ。
女性特有の甘い匂いがして、授業に集中できない。
「なんか今日、近くない?」
「えっ?ごめん!嫌だったよね……」
神楽坂さんは一瞬だけ悲しそうな顔をした。
「全然嫌じゃないよ!ちょっと気になっただけ」
「そ、そう?ありがとう!」
神楽坂さんは俺の言葉を聞き、ほっとした表情を浮かる。
授業に集中できないので本当はもう少し離れてほしかったが、神楽坂さんの悲しそうな顔を見たらそんな事言えなかった。
昨日学校から帰った後、岬姉ちゃんに神楽坂さんには出来るだけ関わるなって言われてるんだよな……
それに痴漢の事でも1時間くらい怒られたし。
俺は横目で神楽坂さんの方を見る。
長いまつ毛に整った目鼻立ち、いつまでも見ていたいと思えるほど美しい横顔だった。
もっと仲良くなりたい……。
「ねぇ」
でも岬姉ちゃんに注意されてるんだよな。
「ねぇってば」
いや!でもせっかくこんな可愛い子の隣の席なのに何もしない訳にはいかないだろ!
でも面倒な事になるみたいだしな……。
「ちょっと!」
「えっ!?」
神楽坂さんがさっきより大きな声を出したので、びっくりした。
「もう!無視しないでよ!」
神楽坂さんは頬を膨らませて俺を上目遣いで見てくる。
「ご、ごめん!ちょっと考え事してて……」
神楽坂さんはふぅ~と小さく息を吐き、覚悟を決めたように俺の目を真っ直ぐ見てくる。
「あのさ西井君。今日二人きりでお昼ご飯食べない?」
◇
昼のチャイムがなり、昼休みに入る。
チャイムが鳴るとすぐに神楽坂さんは鞄を持って教室から出て行った。
「蒼太、一緒に飯食おうぜ」
前の席に座っていた竜也が俺に話しかけてくる。
「悪い、今日は用事があるんだ。明日は一緒に食べようぜ」
「ああ、わかった」
俺は鞄を持って教室を出て、ある場所まで歩いていく。
校舎の隅、しばらく使われていない教室のドアを開ける。
「あっ!西井君こっち、こっち!」
昔は使われていた教室みたいだが、今は机や椅子が無造作に置かれていて、物置部屋になっているみたいだ。
その部屋で椅子に座っていた神楽坂さんが俺に向かって手を振る。
「すごいでしょ!ここ普段誰も来ないからゆっくりご飯食べられるよ!」
「確かにここならゆっくりできそう。毎日昼休みは騒がしくなると思ってたから助かるよ」
俺は悩んだ結果、結局神楽坂さんと二人で昼食を食べることにした。
岬姉ちゃん、やっぱり可愛い子に誘われたら拒否できなかった……。
「うん!こっち座って!」
神楽坂さんは長机の前に椅子を二つ並べて椅子を軽くポンポンと叩く。
「ありがとう」
俺は椅子に座り、神楽坂さんと横並びで座った。
「じゃあご飯食べよ!」
神楽坂さんと俺は同時に鞄からお弁当を出す。
「「いただきます」」
俺達はそれぞれ自分のお弁当を食べ始める。
「神楽坂さんってお嬢様なのに意外と普通のお弁当なんだね」
「見た目は普通だけど、家の専属のコックが作ってるから味はすごく美味しいよ」
「家にコックがいるんだね……」
神楽坂さんとの生活レベルの違いに圧倒され、苦笑いを浮かべる。
「西井君のお弁当はなんだか女の子作るお弁当って感じだね……」
神楽坂さんは俺の弁当を見て、小さく呟く。
「誰が作ったの?」
「へっ?」
俺を見る神楽坂さんの顔は笑っているが、なぜか目の奥は全然笑っていなかった。
その目を見ると何故か背筋がゾッとして、冷や汗が出る。
「こ、これは母さんが作ってくれてるんだよね……」
幼馴染のお姉さんが作っているとは何故か言えず、思わず嘘を付いてしまった。
「あっ!そうなんだ!な~んだ、てっきり彼女に作ってもらってるのかと思っちゃった!」
神楽坂さんはまた優しい目に戻り、ご飯を一口食べる。
「あ、あはは……、彼女なんていないよ。でもこんな場所よく見つけたね」
誤魔化すために話題を変える。
「たまたま見つけたんだよね、まだ誰にも言ってないし、ここでご飯食べるのは初めて!」
「そうなんだ!教えてくれてありがとうね」
「昨日はすごく疲れてそうだったらから力になれて良かった!」
なんていい子なんだ!
外見も中身も完璧じゃないか……、好きになりそう。
「じゃあ神楽坂さんに何かお礼しないとね」
「お礼なんていいよ!気にしないで」
「う~ん、でもなんかしてあげたいけどな……」
教科書も貸してもらってるし、何か恩返ししないと気が済まないな。
「そうだ!じゃあ、たまにでもいいからここで一緒にご飯食べよ?」
「えっ?そんなのでいいの?」
「うん!……あっ!」
神楽坂さんが何かを思い着いたように声を出す。
「どうしたの?」
「じゃあもう一つだけいい?」
「俺にできる事ならいいよ」
「れ、連絡先教えて欲しいなぁ~なんて……」
神楽坂さんは頬をほんのり赤くし、目を逸らしながらそう言った。
「じゃあ連絡先交換しようか」
「いいの!?やったぁ!」
神楽坂さんは両手で小さくガッツポーズをした。
俺は神楽坂さんにQRコードを読み取ってもらう。
「家に帰ったらチャットしてもいい?」
「全然いいよ!俺からも送るね」
昼食を食べながらそんな会話をしていると、いつの間にかお互いのお弁当は空になっていた。
「食べ終わったし、そろそろ授業始めるから教室に戻ろう」
俺はそう言って立ち上がる。
「うん!そうだね……きゃ!」
神楽坂さんの足が椅子に引っ掛かり、倒れそうになる。
「危ない!」
俺は素早く神楽坂さんの肩を掴んで体を支えると、お互いの鼻と鼻がくっつきそうなくらい顔が近づく。
「大丈夫?」
声を掛けるが、神楽坂さんは何も返事せず、頬が赤くなって目をトロンとさせている。すると肩を掴んでいる俺の手の上から自分の手を重ね合わせ軽く握る。
「西井君って、どうしてそんなに私に優しくするの?」
神楽坂さんは俺の耳元で
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