第28話 告白からの修羅場

 どうしてこうなった……。

 今、俺は大きなベッドの上で茜と寝ている。

 隣から女の子特有の甘い香りがする。


「腕枕して欲しい……」


「う、うん」


 俺は茜の頭の下に腕を入れると、茜は俺の腰に手を回し、頭を腕の上に乗せる。

 部屋の中は間接照明が点いていたので薄暗い。


「わがままでごめんね」


 茜が弱弱しい声で呟く。


「気にしないで。茜が俺の事を頼りにしてくれてると思うと嬉しいよ。それに泊まらせてもらったんだし、このくらいはしてあげないとね」


「でも蒼太君、私の家で過ごしてて疲れたでしょ?」


「え!?どうしてそれを……」


「ふふっ、何となく分かるよ。私が普通だと思っている事が周りの人とは違うんでしょ?」


 茜は四大財閥のお嬢様だ。俺みたいな一般庶民とは食べるものも、使っているものもまるで違う。


「でも学校とは違う茜の様子を見れて面白かったよ」


 俺は茜が混乱しながらご飯を食べている姿を思い出す。


「も、もう!思い出させないでよ」


「あははは、ごめんごめん。でも【こんな風に茜と一緒に暮らしたら毎日楽しいだろうな】」


 俺はキューピッドに書いてあったことをそのまま言ってみる。


「……」


 茜は頬を赤くし、トロンとした目で俺の顔を一瞬だけ見ると、腕枕をしている反対の手を握ってきた。


「蒼太君はどうしてそんなに優しいの?」


「前も聞いてきたよね?」


「うん。もう一回教えて」


「茜が特別だからだよ」


 茜は可愛いし、一緒にいると楽しい。

 それに俺が昼休みにクラスのみんなに囲まれないように、誰もいない部屋を教えてくれる優しい子だ。


 俺の中で茜の存在はかなり大切な人になりつつあった。


「嬉しい……」


 茜は俺の手を強く握る。


「私にとっても蒼太君は特別。誰にも渡したくない」


「え?」


 何故か寒気がして、ブルリと震える。

 前々から思っていたのだが、茜が怖いと感じることが何度かある。

 これは一体何なのだろう?


「ねぇ、蒼太君」


「な、何?」


「蒼太君も私と同じ気持ちってこと?」


 確かに茜の事はいいなと思っているし、誰にも渡したくはない。

 でも上手く言葉では説明できないが、茜の気持ちとは少し違うような気がする。


「私は蒼太君さえいればもう何もいらない」


 茜は今どんな顔をしているのだろう。

 俺は顔を上げるが、茜のつむじしか見えなかった。


「知ってる?私、蒼太君と出会ってから男性の事を前より怖いって思わなくなったの」


「それは俺が茜に優しいから?」


 俺みたいに優しい男性もいるという事がわかったから、克服できたのだろうか?


「ううん、違うの」


「じゃあ、どうして?」


「それはね、蒼太君以外の男性なんてどうでもいいって思ったからだよ」


「どうでもいい……」


「今は男性に嫌な事を言われても、無視されても全然平気。だって私には蒼太君がいるから……」


 茜の言葉を聞いて、冷や汗が止まらなくなり、心臓を強く握られたかのような衝撃を受ける。


 普通は嬉しいと思える話にもかかわらず、何故か話を聞いていくにつれて怖いという気持ちが強くなる。

 さすがにここまで言われて茜の気持ちに気付けないほど鈍感ではない。


「あ、あのさ……一つだけ聞いてもいい?」


「何?」


 俺は前から一つだけ気になっていることがあった。


「茜と学校で昼ごはんを食べた時に、俺の事を『気になってた人』って言ってたよね?あれってどういう意味?」


「そのままの意味だよ。、蒼太君」


 生唾を飲み込み、次の言葉を待つ。


「今、私は蒼太君の事が好き。ううん、そんなものじゃない」


 茜は上半身を起こし、俺の腰に上にまたがってくる。

 薄明りの中で茜の顔がかすかに見える。


 頬を赤くさせ、吸い込ませそうなほど闇深い目で俺を見下ろしながら笑っていた。

 そんな茜を怖いと思ったが、あまりにも魅力的で目が離せなかった。


「蒼太君、アイシテル」


 そう言うと、茜は顔を近付けてきて、俺の唇に自分の唇を重ねる。


 ちゅ


「え?い、今何を……」


 茜は俺の言葉に返答せず、もう一度キスしてくる。

 強引に舌を入れられ、水っぽい音を立てながら舌と舌が絡み合う。


 俺は頭が真っ白になり、今の状況が理解できなくなる。


「はぁ……はぁ……」


 急に茜の息が荒くなり、パジャマのボタンを上から一つずつ外していく。


「あ、茜!?」


 ボタンをすべて外すと、服を脱ぐ。

 豊かな胸を包んだピンク色のブラジャーが見えた。


「もう、我慢できない……」


 茜の艶めかしい姿を見て、理性が利かなくなり頭がボーっとしてくる。

 つ、遂に俺は大人になってしまうのか……。


「ふふっ、蒼太君も硬くなってる」


 茜は腰をくねらせ、股間を押し付ける。


「はぁ……はぁ…‥」


 茜の顔はさらに赤みを増し、雌の顔になっている。

 茜は先ほどのように俺の唇に自分の唇を近付けてくる。


「蒼太君……好きだよ……」


 唇と唇が触れ合う瞬間、茜の体は背骨がなくなったようにだらりと倒れ、頭は俺の横にどさりと落ちた。


「え?茜!?」


 俺は茜をどかして、上半身を起こす。

 茜は目をぐるぐるさせ、鼻血を出してながら気絶していた。


 そんな姿を見て、俺の理性が少しずつ戻ってきた。


「あ、危なかった……、茜に襲われるところだった」


 ◇


 次の日の朝、俺と茜は一緒に歩いて学校に向かっていた。

 車が故障していたので歩いて登校することになってしまった。


「今日はいい天気だね」


 空を見上げると、昨日の天気が嘘だったかのように雲一つなく、太陽が強い光を放っていた。


「そうだね……」


 明るい天気とは反対に、茜は暗い顔でふらふらと歩いていた。


「だ、大丈夫?」


「うん、ちょっとショックが大きすぎて……、もう!何であそこまで行ったのに気絶しちゃったの!私のバカ!!」


 自分を責めている茜を見て、俺は苦笑する。


 何気ない話をしているといつの間にか学校に到着していた。

 茜と一緒に教室に入ると、女子生徒たちが俺達を見て、ヒソヒソと話し始めた。


「ねぇ、あれ見てよ」


「神楽坂さんと西井君が一緒に登校してきたわ!」


「さ、さすが神楽坂さん!もうあそこまで関係が進んでいたなんて……」


 俺はそんな声を気にせず、自分の席に座ると茜も隣の席に座った。


「ふふっ、蒼太君ごめんね。目立っちゃったね」


「さっきとは違って、今は嬉しそうだね」


「うん!みんなに蒼太君との関係をアピールできたから!」


 茜は鼻歌を歌いながら、鞄から教科書と筆記用具を取り出す。


 その時、一人の女子生徒がこっちにやって来た。


「西井君、先輩が西井君の事呼んでるよ」


「え?」


 先輩が俺の事を呼んでる?

 教室のドアを見ると、見慣れた女の子……岬姉ちゃんが立っていた。

 岬姉ちゃんは俺を見つけると目をうるうるさせた。


「蒼太君……」


 岬姉ちゃんはそう呟くと、教室に入って来た。


「やばっ!」


「どうしたの、蒼太君?」


 茜が心配そうに俺を見てくる。

 岬姉ちゃんが俺の前にやってきて、俺を見つめる。


「そうたくぅん……あいたかったよぉ~」


 泣きながらそう言って俺に抱き着いてきた。


「確かこの人は蒼太君と一緒に住んでる……」


「ちょ、ちょっと岬姉ちゃん!ここ学校だよ!?」


「ごめんなさぁい!我慢できなくて~!」


 いつも冷静な岬姉ちゃんの泣いている姿を見て、俺はどうしていいか分からなくなってしまう。


「岬姉ちゃん?」


「あっ」


 横を見ると、茜が目を黒くさせ、ぞっとするほど冷たい顔をしていた。


「あの……これはその……」


「蒼太君、ソノ女ダレ?」

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