第54話 独占欲 side神楽坂茜
「結局、会長も蒼太君の彼女扱いにするってことですか?」
私は気味の悪い笑みを浮かべている会長を横目に、岬さんに聞く。
「私達、恋人としてはどうしていくのかを今から決めましょう。それに蒼太君が葵の事をどう思っているかにもよります」
「「……」」
岬さんに言葉を聞いて、莉乃ちゃんと私はしばらく沈黙する。
私は蒼太君と二人きりで過ごせる時間が欲しい。
本当はずっと二人で居たいけど、それは世界の常識から外れている。
男性は基本的に複数の嫁を囲うものだし、その他の嫁と仲良く一緒に旦那さんを引っ張っていくのが普通だ。
将来はそういう嫁になりたいと思う一方で、これ以上蒼太君の彼女が増えて自分との時間が減るのも嫌だと思う自分もいる。
「蒼太が葵さんの事を好きで、両想いだったら私は別に構わないわ」
莉乃は椅子に座ったまま、腕を組んでそう言った。
「莉乃ちゃん……」
「私は別に蒼太に他の女が何人いても月一回、蒼太から私を褒めてくれる時間を作ってもらえればそれでいいわ」
莉乃ちゃんの欲求は【
私から見ても最近の莉乃ちゃんは嫉妬もあまりしないし、気持ちも安定していた。
それに比べて私は……。
「そうですか……、茜はどう思いますか?」
「わ、私は……」
もし蒼太君が会長を好きになったら、それについて私に意見する権利はない。
頭では分かっていても、神楽坂の血がそれを否定する。
独占したいという今の恋愛観とは逆の性質を持つ欲求が私の理想の邪魔をする。
「なるほど……では二対一。葵は蒼太君の彼女にはしないということですね」
「えっ!?」
私はまだ何も言っていない。
岬さんはきっと私の様子を見て、判断したのだろう。
でも二対一という事は……。
「私は葵が蒼太君の近くにいることは許せません。それに私は早く葵と縁を切りたいんです。もし葵が蒼太君の彼女になったら一生葵と離れられなくなるじゃないですか」
岬さんは淡々と私達にそう言った。
「岬、誰を彼女にするかは蒼太様の自由だ!それをたかが彼女の君達に決める権利などない!」
会長は立ち上がって、岬さんを睨みつける。
「普通の男性と女性が付き合う場合はそれでも良いと思います。ですが、あなたたち四大財閥は普通の女性ですか?」
「っ!!」
「何でもできてしまう権力があり、絶対に譲れない欲求を持っています。その時点で残念ながら普通の恋愛は出来ないのですよ」
「……」
岬さんの言葉を聞いて、胸の奥がチクチクと刺されるような痛みを感じる。
「それに蒼太君も普通の男性だと思いますか?」
「そ、それは……」
会長がその場で後ずさりする。
「皆さんも薄々感じていると思いますが、蒼太君は明らかに普通の男性とは違います」
私は女性に優しい男性を何人か見たことがある。
しかしそういう人でも、心のどこかに女性を軽蔑するような冷たい感情が見え隠れする。
でも蒼太君からはその感情が一切感じない。
不思議なくらい女性に対する警戒心が無く、心の底から私達を愛してくれている。
「あんなに優しく、一緒にいて心が温かくなるような男性は他にはいません。だからこそ葵も蒼太君を好きになったのでしょう?」
「……」
会長は拳を強く握りながらゆっくりと椅子に座り、沈黙する。
「あのような男性はいつか女性に失望し、他の男性のように冷たくなってしまいます。蒼太君が女性嫌いになったらどうするのですか?もしそうなってしまったら私達は、諦めて他の男性と交際しようと思いますか?」
それを聞いた私達は黙って、首を横に振る。
蒼太君の愛を知ってしまったら、もう普通の男性と恋愛する気にはなれないだろう。
「私は蒼太君を守りたいのです。そのためなら私はどんな犠牲でも払います。たとえ長年一緒にいた天羽家の幼馴染を敵に回したとしても……」
岬さんは会長を真っ直ぐ見る。
天羽家を敵に回すということは、蒼太君のためなら死んでもいいという事だ。
岬さんの曇りなき瞳からはその意思を強く感じた。
「だ、だったら私はどうすれば……」
会長は顔を真っ青にしながら、がっくりと肩を落とす。
「しかし……もし葵が協調性を持って、蒼太君につらい思いをさせないと約束できるなら私は葵が蒼太君の恋人になっても構いません」
「み、岬!?」
会長は勢いよく顔を上げ、涙目で岬さんを見る。
「葵は普通の女性ではありません。今から普通の女性になるのは難しいでしょう、それを直せとは言いません。しかしその権力を何に使い、自分の特性とどのように付き合っていくのかが大切です」
「私は今まで自分の特性はどうしようもない物だと思って生きてきた。しかし茜と莉乃を見ていて少し考え方が変わったよ」
会長はぎこちない笑顔を浮かべながら、私と莉乃ちゃんを見る。
「私もみんなと上手く付き合っていけるように頑張ってみたいんだ……」
「そうですか……、私は昔から葵には散々迷惑を掛けられました」
「すまない……」
「そしてこれからも迷惑を掛けられるでしょう。私に迷惑を掛けるのは構いませんし、蒼太君も優しく対応してくれるでしょう。しかしそれに甘えてはいけません。蒼太君に貰うだけではなく、私達からも何か与えられる女になっていきましょう」
「ああ!」
「ええ、そうね」
会長と莉乃は岬さんの言葉を聞いて、大きく頷く。
「茜はどうですか?」
「私は……」
もし蒼太君の彼女が増えて、私と居る時間が少なくなるかもしれないと思うと胸が締め付けられるような痛みを感じる。
「茜、今すぐ答えを出さなくても大丈夫です。また何かあったら相談してください」
岬さんは私の肩に手を置いて、微笑みながらそう言った。
「ごめんなさい……」
「では葵が蒼太君にアプローチをする事に関しては何も言いません。ただしこの前みたいな――」
「ああ、分かってるよ。普通にアプローチをして私が蒼太様を好きにさせればいいんだろう?」
「ええ、それなら構いません。ではそろそろ昼休みも終わりますし、今回の会議は終わりにしましょう」
◇
私は考え事をしながら下を向いて廊下を歩く。
もしこの調子で蒼太君の彼女が増えていったら、きっと私は自分を保っていられない。そうなったら私はまた暴走してしまうだろう。
もう暴走したくないし、自分が怖いよ……。
そんな考えが頭の中でぐるぐるしている。
私は教室に入ると、クラスメイト達が全員同じ方向を見ていた。
「ん?みんなどうしたの?」
教室の入口付近に立っている女子に声を掛ける。
「か、神楽坂さん……あれ見て」
女子が指さした方向を見ると、長い金髪をハーフアップにした女性が蒼太君に抱き着いていた。
「は?」
私の目が黒く染まっていき、胸を強く締め付けられたような痛みを強く感じた。
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