第20話 岬姉ちゃんは永久就職しました
「さて、それじゃあ気を取り直して、岬」
「はい」
岬姉ちゃんと岬姉ちゃんのお母さんと3人で夕食を食べた後、また先ほどの話し合いの続きが行われた。
席の並びは俺の横に岬姉ちゃんが座り、お母さんが対面に座っている。
「昨日、私が留守の間に会社に来て秘書に男性ボディーガードをやめると言ったそうね」
「はい。私は男性ボディーガードをやめます」
岬姉ちゃんはお母さんを真っ直ぐ見ながら宣言する。
男性ボディーガードになるために俺と同居し始めたんじゃないのか?
一体どういう心境の変化なんだろう?
「はぁ……全く、急にどうしたのよ。昔から男性ボディーガードは岬の夢だったはずよ」
「確かに男性ボディーガードは私の夢でした。しかし今は違います」
「……」
お母さんは頭に手を当てて、大きくため息をする。
「じゃあ岬は男性ボディーガードやめてどうするのよ?」
「私は」
岬姉ちゃんの今の夢は何なのだろう?
俺とお母さんは生唾を飲み込み、岬姉ちゃんの言葉に耳を傾ける。
「私は蒼太君専用のボディーガードになります」
岬姉ちゃんの言葉に俺とお母さんは口を開け、固まってしまう。
静まり返った部屋の中で、秒針のカチカチという音だけが響いた。
「「は?」」
俺とお母さんは同時に声を出す。
「みみみみ、岬姉ちゃん!専用ってどういう事!?俺、聞いてないんだけど!?」
「み、岬!あなた一体何考えてるの!?」
俺とお母さんの慌てている様子とは反対に岬姉ちゃんは冷静にゆっくりと口を開いた。
「蒼太君が私に【一生俺の男性ボディーガードやってよ】と言ってくれました。その時思いました。私が今まで訓練してきたのは男性を守るためではなく、蒼太君を守るためだったのだと……」
「そ、蒼太君、それ本当なの?それって完全にプロポ――」
「ちょ、ちょっと待ってください!!お母さん、俺は確かにそう言いましたけどそれは一種の冗談です!」
お母さんからものすごい単語が出てきそうだったので俺は慌てて遮るように弁解する。
「え?冗談なのですか?」
「へっ?」
横にいた岬姉ちゃんが俺の袖を引っ張り、震えた声でそう言った。
「そ、そんな……蒼太君が……蒼太君が私を必要としてくれたと思って、嬉しかったのに……」
岬姉ちゃんの目から大粒の涙が流れ出し、その潤った目で俺を見る。
ま、まずい!俺はどうすればいいんだ!?
急いで訂正しなければ……、いや訂正したらこのまま結婚させられるんじゃないか?
俺はまだ学生だぞ!?
ピコンッ
その時、スマホの通知が鳴った。
この音はまさか!
『通知:キューピッドが更新されました』
キターーーー!
この状況を打破する情報があるかもしれない。
そう思ってキューピッドを開き、新しい情報を確認する。
『女性との関係を深めたい、そう思ったそこの君!男には覚悟を決めて行動しなければいけない時が必ずある。告白するとき、初めてヤる時、そして結婚する時。その時は勇気を出して男から言うのだ!女性から告白してもらおうという甘い考えは捨てろ!女性に惚れられるイイ男になりたいなら決断力を身に付けろ!好きならグダグダ言ってないで早く告白しろ、このバカチンがぁ!』
……。
はい、岬姉ちゃんの事は好きです。
先生!でも俺はまだ学生ですよ!?このまま結婚してしまいそうな勢いなんですが?
思わずアプリを先生と呼んでしまったが、アプリの言う通りだな。
泣いている岬姉ちゃんを見る。
俺はこんな綺麗で性格の良い子を泣かして何をやっているんだ。
自分の屑さに呆れて腹が立ってくる。
「岬姉ちゃん、冗談じゃないよ。岬姉ちゃんには俺を一生守ってほしい」
「ほ、本当ですか?」
「うん」
そう言うと岬姉ちゃんは泣きながら俺に抱きついてくる。
「はい!私は何があっても蒼太君のことをお守りします!」
「ありがとう。岬姉ちゃん」
岬姉ちゃんを優しく撫でる。
パチパチ
横から乾いた音が鳴ったので、横を見るとお母さんが真顔で拍手していた。
「はいはい、よかったネー」
完全に棒読みだ。
「す、すいません。岬姉ちゃん、そろそろ離れて」
「嫌です、一生離れません」
可愛すぎる、いつもより多めに撫でてあげよう。
「……」
お母さんが青筋を立てて、俺達を睨みつける。
「岬……、いい加減にしなさい」
「ちっ」
岬姉ちゃんは舌打ちをして、俺から離れる。
「はぁ……岬、あんたには会社を継がせようと思っていたのよ。それはどうするつもりなの?」
「妹に任せればいいじゃないですか」
「あの子は戦闘に関してはすごい才能だと思うわ。でも男性に対する免疫が全くつかないのよ」
「まあ、男性大好きですからね。彼女は……」
へぇ、岬姉ちゃんに妹なんていたのか。
ちょっと会ってみたいな。
「娘はもう一人いるけど、まだ8歳だから才能は未知数だし……、まあその子に賭けるしかないわね」
「そうして下さい。それより蒼太君♡、結婚はいつにしますか?」
やはり俺の言葉はプロポーズだと思われてしまったようだ。
「えっ?い、いや~結婚は……」
「待ちなさい」
どうやって返答しようか迷っているとお母さんが割り込んできた。
「あなた達はまだ学生よ。結婚するなら学校を卒業してからにしなさい」
「は?何を言ってるのですか?実の親でも私達の愛を邪魔するなら容赦しませんよ?」
岬姉ちゃんの目が黒くなり、低い声でお母さんに言う。
「はぁ‥…、蒼太君。岬を説得して頂戴」
お母さんは呆れながら俺を見る。
「み、岬姉ちゃん。あんまりお母さんを困らせちゃダメだよ。ここはお母さんの言う事聞こうよ」
「むぅ……、蒼太君がそう言うならそうします」
岬姉ちゃんは頬を膨らませているが、納得してくれたみたいだ。
「まあ、今回の事は岬と蒼太君の覚悟がわかったから許してあげるわ。岬!あんたはしっかり蒼太君を守りなさい」
「はい」
岬姉ちゃんは背筋を伸ばし、お母さんを真っ直ぐ見る。
「蒼太君、うちの娘をよろしくお願いします。蒼太君のお母さんには私から伝えておくわ」
そう言ってお母さんは俺に頭を下げた。
「いえ、母さんには俺から言います。男としてそのくらいは自分で説明します」
「そう、わかったわ。じゃあ私がは仕事が残ってるから帰るわね」
お母さんは立ち上がり、部屋から出て行く。
それを見送り、俺と岬姉ちゃんは大きなため息を吐く。
「なんか疲れたね……嵐が去った後みたいだ」
「そうですね…‥、迷惑をかけてすいません」
岬姉ちゃんは俺に向かって頭を下げる。
「これから岬姉ちゃんには俺を一生守ってもらうからこのくらい全然大丈夫だよ」
岬姉ちゃんの頭を撫でる。
「蒼太君……」
岬姉ちゃんが俺の腕に抱き着いて来て、顔を見上げてくる。
「ふふっ……。好きですよ、蒼太君」
ちゅ
ん?今、頬に柔らかい感触がしたような……。
「い、今何したの?」
「ほっぺにキス……しちゃいました……」
岬姉ちゃんは耳まで赤くなり、目を逸らしながら呟いた。
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