第19話 岬姉ちゃんvs謎の女性

「「いただきます」」


 莉乃とゲーセンで遊んだ後、家で夕食を食べる。

 俺とメイド服を着た岬姉ちゃんは両手を合わせて、ご飯を食べる。


「ところで今日はなんでこんなに距離が近いの?」


 今日は何故か岬姉ちゃんが横に座ってきたので、肘が当たるほど距離が近い。


「気にしないで下さい。ほら、早く食べないとご飯が冷めちゃいますよ」


 なんか最近岬姉ちゃんの様子がおかしいぞ。前に俺の部屋で少し話してからさらに甘えてくるようになったな。


「蒼太君、この玉子焼き美味しいですか?」


「えっ?まだ食べてないよ」


 玉子焼き食べて欲しいのかな?


 玉子焼きを箸で取ろうとすると岬姉ちゃんに肩をトントンと叩かれる。


「何?」


「蒼太君、はいあ~ん」


「っ!?」


 岬姉ちゃんが玉子焼きを箸でつかみ、俺の口の前に持ってくる。


 こ、これは!?まさか……伝説の【あ~ん】か!?


 人生初のあ~んに俺は緊張してしまう。


「あ、あ~ん」


 俺が口を開けると、岬姉ちゃんが作ってくれた玉子焼きが口の中に入ってくる。


「美味しいですか?」


「う、うん。美味しいよ」


 緊張で味がよくわからん、それに心臓がバクバク言ってる。


「ふふっ、よかった。蒼太君のお母様に味の好みを聞いておいて良かったです」


 岬姉ちゃんは頬を少し赤くし、照れながら笑う。


「そこまでしてくれたんだね……、ありがとう」


 岬姉ちゃんの頭を優しく撫でると、頭を傾けて俺の肩に乗せてきた。


「蒼太君に撫でられるの大好きです。私が蒼太君の事をどう思っているのか再確認できます」


「俺の事どう思ってるの?」


 岬姉ちゃんが俺の方をトロンとした目で見てくる。

 今にもキスできそうな距離だ。


「それは私が蒼太君の事を――」


 ピンポーン


 俺達の甘い空気をかき消すようにインターホンが部屋に鳴り響く。


「はぁ……せっかくいい雰囲気だったのに……」


 岬姉ちゃんは頬を膨らませて、呟く。


「俺が出るよ」


 立ち上がり、インターホンの通話ボタンを押す。


「はーい、どちら様で――」


『岬!早くドアを開けなさい!』


「へっ?」


 画面に映ったのは短い黒髪で目つきが鋭い女性だった。

 岬姉ちゃんは大きなため息をして、俺の方に向かって歩いてくる。


「この人、岬姉ちゃんの名前言ってたよ」


「はい、こっちまで聞こえていました」


 岬姉ちゃんは通話ボタンを押してその女性に向かって話し始める。


「私はしっかり説明したはずですよ?」


『秘書じゃなく、私に直接言いなさい!話はそれからよ!』


「留守だったので、秘書の方に言っただけです。それに私からこれ以上説明することはありません」


『いいから開けなさい!じゃないとこのドアぶち壊すわよ!』


 この女性は岬姉ちゃんと知り合いみたいで、インターホン越しに喧嘩し始めた。


「はぁ……すみません、蒼太君。このままだと本当にドアを壊して来そうなので、家に入れてもいいですか?」


「えっ?まぁ、いいけど……」


 状況がよく分かっていないが、知り合いみたいだったのでしぶしぶ了承する。


「ドアを開けましたよ。部屋の鍵も開けておくので入ってきてください」


 岬姉ちゃんはそう言ってオートロックと部屋のカギを開ける。

 しばらくすると部屋にさきほど画面に映っていた女性が入ってくる。


「岬!あんた男性ボディーガードやめるなんてどういうつもり!?」


 その女性は部屋に入ってくるなり岬姉ちゃんに大声でそう言った。


「え?やめるってどういう事?」


「この人の言った通りですよ、蒼太君。私は男性ボディーガードやめました」


 その言葉を聞いて、その女性は岬姉ちゃんの頭に回し蹴りを放つ。

 岬姉ちゃんは頭を下げて蹴りを躱す。

 しかし女性の攻撃はそれだけで終わらなかった。


「そんなこと」


 右ストレート。


「私が」


 前蹴り。


「許すわけないでしょ!」


 アッパー。


 女性が喋りながら岬姉ちゃんに鋭い攻撃を放つ。

 しかしそれを岬姉ちゃんは最低限の動きで華麗に躱し、後ろに下がって距離を取る。


 この人怖っ!いきなり岬姉ちゃんに殴り掛かって来たんだけど。

 あとそれを躱せる岬姉ちゃんもおかしいだろ……。


「私が決めたことです。たとえあなたでもそれを否定することは許しません」


 二人は拳を握り構えて、お互い睨み合う。


 俺は終始、口をポカーンと開けて見ていることしかできなかった。


「ここでは蒼太君に迷惑が掛かります。外でやりましょう」


「ええ、そうね」


 二人は腕を下げ、部屋から出て行こうとする。


「ちょ、ちょっと待ってよ、二人とも!まず、あなたは誰ですか!?急にバトル漫画みたいになってたけど、今の何!?」


「すみません、説明していませんでしたね。この人は私の母です」


「えっ?岬姉ちゃんのお母さん?」


 その女性をじっと見る。

 確かにどこかで見たことあるような感じがする。


「久しぶりね、蒼太君。私も老けたから分からなかったかしら?」


「い、いえ。お久しぶりです。今でも全然若いですよ……って、それより喧嘩なんかしないで話し合いましょうよ!」


 俺の言葉を聞いて二人はまた睨み合う。


「ごめんね、蒼太君。私達親子はこうやって物事を決めるのよ」


 何その決め方!?脳筋親子じゃねえか!


 岬姉ちゃんは小さく息を吐き、肩を落とす。


「ふぅ……蒼太君がそう言うなら私はそれに賛成します」


「ほら!岬姉ちゃんもそう言ってるし、お母さんも落ち着いて話し合いましょうよ!」


「……、だったら仕方ないわね」


「そ、そうだ!お母さんも良かったら一緒にご飯食べましょうよ!」


「もう一人分くらいなら用意できますよ」


「……」


 岬姉ちゃんはお母さんに向かってそう言うと、お母さんはしばらく黙って食卓のご飯を見つめる。


「そうね、ならお言葉に甘えさせてもらうわ」


 ◇


 俺と岬姉ちゃんと岬姉ちゃんのお母さんの三人で食卓を囲う。


「久しぶりに食べたけど、やっぱり岬の作るご飯は美味しいわね!おかわり!」


 お母さんは満面の笑みを浮かべて岬姉ちゃんにお茶碗を差し出す。


「はいはい、いつものように大盛りにしますね」


 岬姉ちゃんはお茶碗を受け取って、炊飯器に向かう。


「岬!お酒はないの?」


「私も蒼太君も未成年ですよ!?そんなのあるわけないじゃないですか!」


 岬姉ちゃんは炊飯器の前でしゃもじを振り上げてお母さんに言う。


「え~~ん、蒼太君~岬が冷たいよ~」


 お母さんがウソ泣きをしてに俺に近寄ってくる。


「なっ!今すぐ蒼太君から離れなさい!ご飯おかわり禁止にしますよ!?」


「あ、あははは……」


 俺は二人のやり取りに苦笑いを浮かべる。


 なんだかんだ言って、仲の良い親子だな。

 あと岬姉ちゃんのお母さんは思ったより怖い人じゃなかった。



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