第18話 ツンデレお嬢様は素直になれない side莉乃

 私は昔から気が強く、素直になれなくていつも思った事と逆を言ってしまう。

 その性格のせいで昔から男子とは喧嘩ばかりしていた。


 男子が女子を馬鹿にしたり、意地悪を言われてもクラスの女子達はへらへら笑っているだけだ。

 私は男子が大嫌いだ、何を言われてもそれが当たり前だと受け入れている女子にも腹が立つ。


 今まで両親から何度か男性を紹介してもらったけど、みんな性格の悪い男ばかりで今まで全員と喧嘩してきた。

 男性を好きになった事など一度もない。でも優しい男性が出てくる恋愛漫画が大好きで、恋愛には人一倍興味がある。


 女性に優しくできる男性なんて世の中にはいない。

 私に結婚はもちろん、彼氏すらできないのだろう……そう思っていた矢先に不思議な男性に出会った。


 私がその男性……蒼太に絡みに行ったのが最初の出会いだ。

 喧嘩腰の私に対して最初は蒼太も面倒くさそうにしていたが、私に付き合って一緒にゲームをしてくれた。


 蒼太は私が欲しかったぬいぐるみをくれた。

 他の男性とは違う、優しい男の子。

 思わず私からまた一緒にゲームしたいと言ってしまった。


 学校が終わって、すぐに駅前のゲーセンに向かう。

 本当に来てくれるのだろうか、心配で落ち着かない。


 私はじっとできず、ゲーセンの中を歩き回る。


「莉乃」


 後ろから声を掛けられたので、振り返る。

 そこに立っていたのは昨日ぬいぐるみをくれた蒼太だった。


「遅いわよ!私を待たせるなんてどういうつもり!?」


 私の言葉を聞いて、蒼太君は苦笑いを浮かべる。


 違う。そんな事を言いたいわけじゃない。

 私が早く来ただけ、それに全然待ってない。


「全く、一緒にゲームやってあげるんだからありがたく思いなさい!」


 違う。来てくれて嬉しい、今日も一緒にゲームできるのを楽しみにしてた。


「私だって暇じゃないんだからね!」


 違う。

 蒼太と一緒にゲームできるなら時間なんていくらでも作る。


「悪い悪い、そんな怒るなよ。せっかく綺麗な顔してるんだから、もっと笑った方がいいぞ。それより早くゲームやろうぜ!」


 蒼太に褒められるとドクンと心臓が強く鼓動して、顔が熱くなる。


 私が意地悪を言っても蒼太は笑って許してくれる。まるで私が本当に言いたい事がわかっているみたいに……。


「ん?そういえばその制服……、私立桜小路学園の制服じゃん!俺もそうなんだよ!」


「はぁ?蒼太も一緒の学校なの?学校でもあんたみたいな人とは顔を突き合せたくないわ」


 違う。

 一緒の学校だったんだ、嬉しい。学校でもお話ししたい。


「別にいいだろ!顔見るくらい!それより莉乃は何年生なんだ?」


「二年生よ」


「俺も二年生だよ!一緒だな」


「そう、興味ないわ」


「なんだよ、冷たいな……」


 冷たくしてごめんなさい。


「早く行くわよ」


 私はUFOキャッチャーに向かって歩き出し、後ろを蒼太君は何も言わずに付いてくる。


「あっ!」


 とあるUFOキャッチャーの前で立ち止まる。

 そこには昨日蒼太にもらった猫のぬいぐるみの色違いがあった。

 昨日のは青色で今日はピンク色だ。


「これ欲しいのか?ちょっとやってみろよ」


 蒼太は笑いながら私に言う。


「言われなくてもやるわよ」


 コインを入れてアームを操作するがぬいぐるみが少し動いただけだった。

 その後も10回程挑戦してみるが、全く取れる気配がなかった。


「これインチキよ!絶対取れないようになってるのよ!」


「あははは、そんなんじゃ一生取れないな」


「な、何よ!じゃあどうすればいいの?」


「まあ、俺に任せろ」


 次は蒼太がコインを一枚入れてアームを操作する。

 しかし、ぬいぐるみは少し傾いただけで取ることは出来なかった。


「ふふっ、あれだけ大口叩いといて取れなかったじゃない」


「いいから見てろって」


 蒼太がもう一回アームを操作する。

 すると先ほどとは違い、次は傾いたことでアームに上手く引っかかりぬいぐるみが持ち上がった。


「えっ!?噓でしょ!?」


 そのまま取り出し口にぬいぐるみが音を立てて落ちてくる。

 蒼太がぬいぐるみを取り出す。


「ほら、取れたぞ」


 蒼太は白い歯を見せて笑いながら、ぬいぐるみをこっちに向ける。


 蒼太の笑った顔を見て、また心臓が激しく鼓動する。


「そ、そうね……、じゃあまた勝負しましょ!」


「いや、もうさすがに勝負はやめようぜ」


 どうして?昨日一緒にゲームをして楽しかったのは私だけだったの?


「どうしてよ!?蒼太も猫のぬいぐるみが欲しかったの?」


「いや、今日は勝負しなくてもあげるよ」


 そう言って蒼太はぬいぐるみを差し出してくる。


「それはダメって言ってるで――」


「莉乃、もっと素直に欲しいって言ってもいいんだぞ?もう少し俺に甘えたらどうだ?」


「えっ?」


 私は蒼太の言葉を聞いて頭が真っ白になり、溶け落ちるような衝撃を受ける。


「俺はありがとうって言ってくれればそれでいいからさ」


 私はぬいぐるみをじっと見る。

 そしてぬいぐるみを受け取って、それを胸に抱く。


「あ、ありがとう……」


 顔が熱い、恥ずかしくて蒼太の顔が見れない。

 私は恥ずかしさのあまり俯いてしまう。


「ああ、これで猫のぬいぐるみが二つになったな」


「うん、家に帰って二つ一緒に並べる……」


 もっと蒼太と仲良くなりたい。

 男性にこんな事を思うのは初めてだ。


「連絡先教えて欲しい……」


 思わずそんな言葉が口から飛び出てしまう。

 ぬいぐるみ越しに蒼太の目をじっと見る。


「えっ!?声が小さくてよく聞こえなかったんだけど……」


「だから!連絡先教えてって言ったの!」


「あ、ああ~そんなことが全然いいぞ。ほら」


 蒼太がスマホにQRコードを表示させ、私に差し出した。

 それを読み取り、チャットアプリに蒼太のアカウントが追加される。


「あっ!俺そろそろ帰らないと怒られるから、帰るわ」


 嫌だ、もっと一緒にいたい。


「そう……、わかったわ」


「そんながっかりするなって、家に帰ったらぬいぐるみ並べた写真送ってくれよ。じゃあな」


「うん、じゃあね」


 私は小走りで帰る蒼太の後ろ姿を見送った。



 私はゲーセンを出て、駅前に止まっている高級車の前に立つ。

 すると後部座席のドアが開いたので、車に乗り込む。


「お嬢様、最近帰りが遅いですよ。いつも何をやっておられるのですか?」


「別に。なんでもいいでしょ」


 私は運転手の質問に不愛想に答え、ぬいぐるみに顔を埋める。


「あなたは日本を代表する四大財閥の【如月きさらぎ家】のお嬢様です。それに相応しい立ち振る舞いをしてください」


「はぁ……わかったわよ。次から気を付けるわ」


 車が発進して、横に流れていく景色を車窓越しに見ながら今日の出来事を振り返る。


 やっぱり蒼太は他の男性とは違う。私の理想である恋愛漫画に出てくるような優しい男性。

 それに一緒にいるとドキドキする。もっと私の事を見て欲しい。


 私は蒼太の事が好きになってしまったのだろうか?

 いや、答えはもう出ている。


「私だけがあなたの事を好きだなんて許せない。絶対に私を好きにさせてみせるわ」


 車窓に反射して映る私の目が黒く染まっていった。

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