第17話 黒髪美少女とゲーム対決

「勝負なんてしなくていいよ、ほら」


 俺はその女性にぬいぐるみを差し出す。


「だからダメよ!タダで貰うなんてみっともない!」


「勝負するのめんどくさいからあげるよ」


「めんどくさいってなによ!これだから男は嫌いなのよ!だったらいくら払えばそれ貰えるの?」


 女性の態度に俺は眉間と手に力が入る。

 なんだこいつ……。

 それに男が嫌い?なんか変な奴だな。


「いや、お金なんて取れないよ!素直に受け取ればいいだろ!?」


「ダメったらダメ!ほら、勝負するわよ!付いてきなさい」


 その女性は俺の言った事を聞こうともせず、歩き出す。

 それを見て俺は呆然と立ち尽くす。


「ぼさっとしてないで、早く付いてきて!」


「あーもう分かったよ、しつこいな〜」


 頭をかきながら、重い足取りで女性の後に付いていく。


「まずはこの格ゲーで勝負よ!」


 その女性はそう言うと昔ながらのゲーセンにある格闘ゲームの前に座った。

 そのゲーム機には一本のレバーと複数のボタンが付いていた。


 俺は渋々、女性の対面にあったゲーム機に座り、コインを入れる。


 ゲーム画面に『ready fight!』の文字が表示された。


 俺はどのボタンでどの攻撃が出るのか分からず、30秒ほどで負けてしまった。


「ふふ〜ん、私の勝ちね」


 そう言ってゲーム機からぴょこっと顔を出して白い歯を見せて笑った。


「じゃあもう終わりでいいだろ?ほらやるよ」


「まだダメよ。これ3本勝負だから」


 確かに引き続きゲームが続いていて、すぐに第二ラウンドが始まった。


「まあいいや、さっきのでボタン配置がわかった」


 俺はいろんな技で相手を翻弄し、あっさりと相手を倒した。


「えっ?ちょ、ちょっと!嘘でしょ!?」


「ほら、これで満足か?」


「満足なわけないでしょ!?ありえない……、私がどんだけこのゲームの練習したと思ってるのよ!」


「俺はこの手のゲームを毎日通ってやってたんだ。練習が足りないんじゃないか?」


 俺は女性の顔を見ながら、挑発するように言う。

 まあ通ってたのは前世の俺だけど。


「まだあと一ラウンドあるわ!」


 その後は俺がパーフェクトで勝ってしまった。


「よっしゃ!」


 俺は思わずガッツポーズを取った。


「やっぱり格ゲー楽しいな、また通おうかな」


「ぐぬぬ……」


「これで満足か?」


「満足なわけないでしょ!?私が負けちゃったらぬいぐるみ貰えないじゃない!」


「あっ」


 女性の言う通りだ。

 俺が勝ってどうするんだよ。楽しくてついつい夢中になってしまった。


「まだよ!次はあれで勝負しましょ!」


「はいはい」


 その後もメダルゲームや、レースゲームなど色んなゲームで対戦するが全部俺が勝ってしまった。


「はぁ……はぁ……あ、あんたなんでこんなにゲーム上手いのよ!」


 女性は肩で息をしながら、涙目で俺を睨みつけてきた。


「格ゲーは得意だから勝てたけど、他のゲームに関しては君が弱すぎだ」


「くっ……」


 俺の言葉を聞いてさらに涙を浮かべる。


「ぐすっ、もういいわ。そのぬいぐるみは諦める」


 女性は分かりやすくがっくり肩を落とした。


「正直、気まぐれで取っただけで別にこれいらないんだけどな……、そうだ!だったら格ゲーでオンライン対戦5勝したらこれあげるよ!」


「ほ、本当!?でも、私最高3連勝なんだけど……」


「大丈夫だって、ほら教えてやるから」


 俺は女性を格ゲーの前に座らせてコインを入れる。


「相手の動きをよく見ろ。相手の間合いのギリギリを攻めてここぞと言う時に攻撃するんだ」


「あっ、勝った!」


「よし!その調子だ、頑張れ!」


 女性は飲み込みが早く、俺が少しアドバイスしただけであっという間に5連勝してしまった。


「やったぁーー!初めてここまで勝てたわ!記録更新ね!」


「やったじゃないか、ほら」


 俺はそう言って、手の平を女性に向ける。

 女性は一瞬目を見開いたが、頬をほんのり赤くさせて俯きながらハイタッチした。


「君、飲み込み早いよ。多分このままいけばかなり強くなると思うよ」


「莉乃」


「えっ?」


「私の名前、莉乃」


「り、莉乃さん?」


 女性は俯いてるので表情がわからないが、耳が真っ赤だ。


「莉乃でいい、あなたの名前は?」


「蒼太だけど……」


「蒼太……蒼太はここによく来るの?」


「今日初めて来たんだ、でも家が近いからたまに来てもいいかな」


「じゃ、じゃあ明日も一緒にゲームやりたい……」


「えっ?明日は学校があるから、それが終わってからでも良ければいいけど……」


 そう言うと莉乃は顔を上げて、俺の顔を見上げる。


「本当!?私も学校あるから大丈夫!じゃあ学校終わったらこのゲーセンで集合ね!」


「あ、ああ……わかったよ。ほら、プレゼント。5連勝おめでとう」


「ありがとう、蒼太!また明日ね!」


 ぬいぐるみを受けとって莉乃は笑顔で俺にお礼を言った。

 その綺麗な笑顔に俺は思わず見惚れてしまう。


「あ、ああ……また明日」


 莉乃はぬいぐるみを抱いて、飛び跳ねながらゲーセンから出て行った。


 茜を楽しませる事は出来なかったけど、莉乃を楽しませる事は出来たな。

 莉乃の後ろ姿を見ながら、ふとそう思った。


「さて、俺も帰るか」


 外に出ると、いつの間にか夕陽が出ていて空と街全体赤く染めていた。


 ◇


「蒼太君?今までどこ行ってたのですか?」


「え?いや……それは……」


 家に帰ると玄関の前で岬姉ちゃんが仁王立ちしていた。


「今日外出するなんて聞いていませんが?」


「えーっと、それは……」


 しまった!すぐ帰ってくるつもりが、ゲーセンで時間を使いすぎた。


「す、すいませんでした」


 俺は玄関の前で土下座する。


「許しません。みっちりお説教致します」


「お説教だけは勘弁してもらえないでしょうか?」


「ダメです」


 何故か岬姉ちゃんの頭に角があるように見えた。



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