第21話 俺は一足先に大人になったぜ

 ピピピピッ、ピピピピッ


 俺は目覚まし時計の音で目が覚める。

 上半身をゆっくり起こして、両手を上げて大きく伸びをする。


 ベッドから立ち上がり、カーテンを開けるとの光が部屋の中に入ってくる。


 ああ、なんて清々しい朝だ……、まるで俺の心を現しているようではないか。


 俺は遂に昨日、キスしてしまったのだ。

 何とも言えない達成感。


 本当にキスしたのかって?したに決まってるだろ(頬に)。

 え?口と口?なんて恐ろしい事を言うんだ!それは学生の俺達にはまだ早いのさ……。


「んんっ」


「えっ?」


 そんなことを考えていると後ろから色っぽい声が聞こえた。

 俺は困惑し、ギギギッとゆっくり振り返る。


 俺が寝ていたベッドの上に、服をはだけさせながら岬姉ちゃんが寝ていた。

 肩、胸の谷間、足が出ていて、白くてきめ細かい肌が丸見えだ。


 これはどういう状況だ?全く記憶にないぞ。

 何故俺のベッドに岬姉ちゃんが寝ているんだ…‥。


 ま、まさか!俺はキスだけじゃなく、までしてしまったのか!?

 なんて事だ!俺は知らぬ間に大人になってしまったらしい……。

 どうして俺はそんな大事な事を覚えてないんだ!


 すると岬姉ちゃんが目を覚まし、上半身を起こした。

 目を擦りながら俺を見つけて、ふにゃっと屈託ないない笑顔になる。


「おはようございます、蒼太君。昨日はよく眠れましたか?」


「はい。よく眠れました」


 できればよく眠れないほど記憶に焼き付けておきたかったです。


 ◇


「な~んだ、そうだったのか!」


「は、はい。すいませんでした……」


 学校に向かう途中、岬姉ちゃんが今日の朝に何があったのか説明してくれた。


 昨日の夜中、俺と一緒に寝たくてこっそり俺のベッドに忍び込んだだけみたいだ。

 決していやらしい事は起こってないそうだ。


「それなら最初っから言ってくれれば一緒に寝たのに」


「急に蒼太君と一緒に寝たくなっちゃいました……」


 岬姉ちゃんは頬を赤くさせ、もじもじし始める。

 その姿が可愛すぎたので、思わず頭を撫でてしまう。


「ふふっ、蒼太君♡」


 岬姉ちゃんが俺の腕に抱き着いてくる。


「私、今幸せです」


「俺も幸せだよ」


 そんな風にイチャイチャしながら歩いてると、学校の校舎が見えてきた。


『蒼太君。一緒に登校してる綺麗な女の人は誰?』


 俺はカフェで茜に言われたことを思い出し、ブルリと震える。


「蒼太君?顔が真っ青ですよ?」


 心配そうに岬姉ちゃんが俺の顔を覗き込む。


 茜にはあの時、岬姉ちゃんの事を実のお姉ちゃんだと説明した。

 しかし実のお姉ちゃんだとしても腕に抱き着かれて歩いているのが見つかったら、茜になんて言われるか……。


「痛っ!ご、ごめん、岬姉ちゃん!お腹が痛くなったから先に学校行ってて!」


 よし!これで別々に学校行けるぞ。


「えっ!?大丈夫ですか!?きゅ、救急車!」


 岬姉ちゃんはスマホを取り出し、119と入力し始めた。


 ま、まずい!本当に救急車呼ばれる!


「だ、大丈夫だから!トイレに行けばすぐ直るから!」


「ほ、本当に大丈夫なのですか!?蒼太君に何かあったら私、一人で生きていけません…‥」


 岬姉ちゃんが涙目で俺の袖を掴みながら言う。


「そ、そんな大げさな……。大丈夫だから先に行ってて!」


 俺は岬姉ちゃんを置いて、ダッシュでその場を去る。

 2、3分程走ると、コンビニが見えて来た。


「ふぅ…‥ここまでくれば大丈夫だろう」


 まだ少し時間があるな、コンビニで少し休んでから学校に行こう。


 ピコンッ


 するとスマホの通知が鳴った。


『通知:キューピッドが更新されました』


 スマホ取り出すとそのように表示されていたので、俺はキューピッドを開く。


『おめでとうございます!仲の良い女性が出来ました!そんな君に女性との関係を一目でわかる新機能追加!』


「新機能?」


 キューピッドに『ラブメーター』という項目が増えていたので、それをタップしてみる。


 そこには3人の女性のイラストに、それぞれのイラストの横にハートマークと数字が描かれていた。


 メイド服を着た女性のイラスト ピンク色のハート  100/100


 赤いリボンを付けた女性のイラスト 少し黒みがかったピンク色のハート 110/100


 長い黒髪の女性のイラスト ピンク色のハート  80/100


 これって岬姉ちゃん、茜、莉乃だよな?

 でもこのハートマークと数字の意味はなんだろう……。

 それに110/100ってなんだよ、数字おかしくないか?


「まあいいや、その内わかるだろ。そろそろ学校行こうかな」


 俺はスマホをポケットにしまい、学校に向かう。


 ◇


「竜也、おはよう」


「蒼太か、おはよう」


 自分の席に座り、前にいる竜也に挨拶をする。


「今日はなんかスッキリした顔してるな」


 竜也が俺の顔を見るなりそう言った。


「ふっ、わかるか……。俺は一足先に大人になったのさ……」


 頬杖を付き、窓の外を見ながら言う。


「大人になった?おい、何があったんだ?」


「昨日、頬にキスされたのさ……」


「は?」


「は?ってなんだよ。キスだよ、キス」


「なんだ、そんなことかよ」


「そんなことだと!?」


 俺は机を叩いて立ち上がる。


「はぁ……、頬にキスされるくらい普通の事だろ。俺は小学生の時に妹から頬にキスされまくってたぞ。ちくしょう、嫌な事思い出しちまった」


 竜也が妹にキスされたことを思い出したのか、青い顔でブルリと震えた。


「なん……だと‥‥」


 全身の力が抜け、椅子にドカッと座る。


「蒼太は誰にキスされたんだ?」


「そんなことはどうでもいい……。ずるいぞ、お前だけいい思いしやがって!小学生の時からキスしてたのか!?」


「キスのどこがいい思いなんだよ……、むしろその歳までキスされなかったって事は運が良かったんだな。羨ましいよ」


「羨ましいだと!?お前馬鹿にしてんのか?」


 俺は竜也を睨みつける。


「蒼太……、なんか今日おかしいぞ?」


「おかしいのはお前だ!ちくしょう!一足先にキスして、同級生にマウントを取り優越感に浸る俺の作戦が台無しだ!」


 泣きながら俺は叫んだ。


「蒼太君、キスしたの?」


 突然、横から質問された。


「ああ、俺は昨日キスして――っ!!」


 横を見ると、茜が立っていた。

 茜は笑っているが目の奥は全然笑っていなかった。


「あっ、いや……その……」


 俺は顔を引きつらせながら、思わず座ったまま後ずさりする。


「蒼太君。その話、私にも聞かせて?」


 茜の表情が消え、ハイライトが消えたその目で俺を見つめていた。

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