第44話 生徒会長はかっこいい女性でした
俺は教室を出て、学校の最上階にある生徒会室に向かう。
「はぁ~、どうして俺が生徒会なんかに呼ばれたんだろう……」
一抹の不安を抱えながら、階段を上る。
すると金の装飾がされている大きな両開きの扉があり、そこ上には『生徒会室』と書かれていた。
「す、すごい扉だな。さすがは金持ちが通う学校だな……」
やはり金持ちのやる事はスケールが違うな。
茜や莉乃の家も凄かったし、それが普通だと思ってるみたいだしな。
「とりあえず入ってみるか」
俺はドアを三回ノックする。
「ああ、入っていいよ」
すると中性的な声が聞こえたので、扉を開ける。
「失礼します」
中に入ると、赤い絨毯が敷かれている大きな部屋の奥にあるソファに一人の女性が座っていた。
銀髪のショートカットで長くて細い足を惜しげもなく晒し、足を組んで座っていた。
スカートを履いていたので女性だと分かるが、声と顔は中世的。
男性だったら可愛い、女性だったらかっこいいっていう感じだ。
すごい綺麗な人だな……。
思わずその女性の顔をじっと見てしまう。
「ふふっ」
固まっている俺を見て、女性は唇の端を吊り上げた。
「そんな所に立ってないで、こっちに来てくれ」
「えっ?ああ、すみません」
この人は誰なんだろう?
たしか生徒会長は男性のはずだ。
校内放送で呼び出されたからてっきり生徒会長から話があるのかと思ったんだが……。
「さぁ、座ってくれ」
俺は女性の対面にあったソファに座る。
「いきなり呼び出してすまない。西井蒼太君」
「い、いえ。僕に何か用ですか?」
「用か……」
その女性は顎に手を当てて、黙り込む。
不思議な人だな……。
男の俺でもドキッとしてしまうくらい、一つ一つの動作がかっこいい。
「実は……」
「じ、実は……」
「……」
「ゴクリ」
沈黙に耐え切れず、俺は生唾を飲み込み女性の返答を待つ。
「特に用事はないんだ。すまない」
「えーーー!!」
女性の言葉に思わず、ズッコケてしまう。
「いや、最近は君達二年生の噂をよく耳にしてね」
「そうなんですか?」
「ああ、そして必ずその噂の中心にいるのは君だ」
「うぐっ」
心当たりがありすぎる。
最近だと茜と莉乃が教室で喧嘩した話は、学校で知らない者はいないほど噂が広まっていた。
普通の生徒だったらこうはならないが、四大財閥の人間が喧嘩をするというのは前代未聞の事だったみたいだ。
「それで少し話をしたくてね。君は茜や莉乃と仲良いみたいだからね」
「茜と莉乃を知ってるんですか?」
「もちろん知ってるよ。こんなに小さかった時からな」
女性は腰のあたりに手を持っていき、そう言った。
「そうだったんですね!二人は子供の頃どんな感じだったんですか?」
「二人とも、昔は『お姉ちゃん、お姉ちゃん』って言いながらよく私の後を付いてきたよ」
お姉ちゃんって呼ばれていたのか……。
話を聞いただけでも茜や莉乃とかなり親しいのが分かるな。
「まあ、中学生くらいからはあまり遊ばなくなったけどね。年も一個違うし、学校も別々だったからね」
「そんな二人と仲良いという噂の君にも少し興味があってね。だから今日は私とお話ししようじゃないか!」
女性はニコニコしながら、両手を広げてそう言った。
「ほ、本当にそれだけのために呼んだんですか!?」
「ああ、これも会長特権さ」
「か、会長!?」
俺は目を見開いて、前のめりになる。
会長って男じゃなかったのか!!
でも茜と岬姉ちゃんは会長の事をかっこいいって……あっ。
「なるほど、二人が言っていた『かっこいい』ってこうゆう事だったのか……」
俺は小声でそう呟いて、女性を見る。
「ああ、知らなかったのか?私がこの学校の生徒会長をしている。気軽に葵ちゃんって呼んでくれ」
女性はそう言って、手を差し出す。
「西井蒼太です。じゃあ、葵さんでお願いします」
俺は葵さんの手を握る。
「そうか、葵ちゃんと呼んで欲しかったんだが……」
葵さんは肩をがっくり落として、ため息を吐いた。
「まあその話はまた今度にするとして、君は本当に女に優しいんだね……驚いたよ」
葵さんは自分の手をじっと見つめる。
「それとも私が女性っぽくないからかな?」
「自覚あったんですね……。でもそれは関係ないですよ、それに葵さんは十分可愛いと思いますけどね」
「へっ!?」
すると葵さんから高い女性の声が聞こえた。
「今の声って……」
「ご、ごほんっ。今のは忘れてくれ」
葵さんは一瞬顔を赤くさせるが、すぐに気を取り直すように咳ばらいをした。
「しかし、なるほどな。茜や莉乃が君を好きになる理由がわかった気がするよ」
葵さんはそう言いながら、俺に微笑む。
「二人とも四大財閥の人間だから、めんどくさいだろう?」
「まあ、少し変わってるなと思うことはあってもめんどくさいとは思いませんね」
俺は苦笑いしながら答える。
「それはどうして?」
「好きだからです。それに一緒にいると楽しいですよ、二人ともちょっと怖いと思うこともありましたけど、最近はあまりないですね」
「ほう。それを聞いて、ますます君に興味を持ったよ」
葵さんは目を鋭くさせ、俺をじっと見る。
その獲物を狙っている肉食獣のような眼を見て、背筋が冷たくなる。
「あと一番聞きたかったのは岬の事だ」
「岬姉ちゃんも知ってるんですか!?って同じ生徒会のメンバーでしたね」
たしか岬姉ちゃんは副会長だったはずだ。
「岬姉ちゃん?姉弟だったのか?」
「いえ、子供の頃にそう呼んでたので今も同じように呼んでるだけです」
「小さい頃から知り合いだったのか?」
「子供の時に少しだけ、すぐに引っ越しちゃって離れ離れになりましたけどね」
「そうだったのか……。じゃあその後に私と知り合ったというわけか。幼馴染がもう一人いるなんて知らなかったぞ」
葵さんは俺の言葉を聞いて、小声で何やらぶつぶつと喋りだす。
「それで、どうやって岬と恋人に――」
ドン! ドン! ドン!
すると大きな足音が部屋の外から聞こえてきた。
「えっ!?何ですか、この音は?」
「ああ、噂をすればなんとやらだな」
生徒会室の大きな扉が勢いよく開かれた。
「葵!!蒼太君を校内放送で呼び出すとは何事ですか!?」
「み、岬姉ちゃん!?」
そこに立っていたのは岬姉ちゃんだった。
岬姉ちゃんは青筋を立てながら、葵さんを睨みつける。
「これはまた岬に怒られそうだな」
葵さんはそう言って、俺にウインクした。
か、かっこいい……。
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