第45話 会長はドM王子様

「葵!なぜ蒼太君を呼び出したのですか!?」


岬姉ちゃんが葵さんに詰め寄り、声を荒げる。


「いや、ちょっと興味があって――」


すると岬姉ちゃんが葵さんの胸倉をつかみ、顔を近づける。


「興味があった!?それだけの理由で呼び出したのですか!?」


「ああ、岬の恋人だと聞いてね」


胸倉をつかまれているというのに、ニヤニヤと笑いながらそう答えた。


「こんなの職権乱用です!学校の生徒はあなたのおもちゃではありません!」


「おもちゃなんて思っていない。岬が怒っているのは生徒を呼び出したからではなく、西井蒼太君を――」


ドン!


すると岬姉ちゃんは壁を殴り、葵さんを睨みつける。


「み、岬姉ちゃん……」


すると壁にひびが入り、その中心に丸い穴ができた。


「その名前を口にスルナ」


「あははは、岬とは長い付き合いだが、こんなに怒っているのを見るのは初めてだよ!」


葵さんは笑いながら、俺に向かってそう言った。


「長い付き合い?」


「ああ、説明していなかったね。私と岬は幼馴染なんだよ、つまり君と同じさ」


「え!?そうだったんですか?」


「私の家系は少し特殊でね。必ず男性が家の当主になる、だから男性ボディーガードが常に家にいるんだ。おっと、少し苦しくなってきたな……」


葵さんは苦笑いしながら、岬姉ちゃんの腕を叩く。


「蒼太君と話さないでください!」


「どうしてそこまで俺と葵さんを……。そ、それより岬姉ちゃん落ち着いて!」


「葵さん!?蒼太君!もう名前を呼ぶような関係性になったのですか!?」


岬姉ちゃんは葵さんから手を放し、俺の方に来る。


「もう!何度言ったらわかるんですか!あれほど四大財――」


「ふぅ、ようやく離れたね。ところで私も岬みたいに蒼太君と呼んでもいいかい?」


「え?まあ、それは構わないですけど……」


「本当か!?」


「ダメです!葵、そんなの私が許しません!」


岬姉ちゃんは勢いよく振り返り、葵さんを睨む。


「何故だ!?本人が良いと言ってるのだからいいだろう?」


「これ以上距離を近づけるのは許しません。特にあなただけは……」


「別にいいじゃないか!茜と莉乃だって蒼太君と恋人になっているし、私だって――」


「それとこれとは別です!あの二人は仕方なく許したんです。そこに葵も入ってしまったら関係が壊れてしまう可能性があるじゃないですか!」


「何を訳のわからないことを言っているんだ!私だけ仲間はずれはやめてくれ、寂しいじゃないか!」


二人はヒートアップし、睨み合いながら喧嘩し始めた。


「ちょ、ちょっとやめてください!二人とも落ち着きましょうよ!一旦岬姉ちゃんも座ろう!ね!?」


俺は岬姉ちゃんの頭を撫でながらそう言う。


「むぅ、蒼太君がそう言うならそうします」


岬姉ちゃんは頬をほんのり赤くさせ、ソファに座った。


「す、すごいな。怒った岬を一瞬でなだめるとは……。蒼太君、私も怒っているから撫でてくれないか?」


「えっ!?いや、それは――」


「葵!!」


すると岬姉ちゃんが今にも飛び掛かりそうな勢いで、葵さんを睨んでいた。


「ふふっ、困らせてすまない。冗談だ」


「は、はぁ……」


俺は岬姉ちゃんの横に座ると、岬姉ちゃんが俺の手を握ってきた。


「ほう。ラブラブじゃないか、いつの間に彼氏なんて出来たんだ?」


「知りません」


岬姉ちゃんは冷たい返答をしながら、そっぽを向く。


「冷たいな~。そのくらい親友の私に教えてくれてもいいだろう?」


「親友?誰がですか?」


「あははは、悲しいな!」


葵さんは全然悲しくなさそうな様子で、手を叩く。


「まあ、一番仲良い友人なのは認めます」


岬姉ちゃんは口を尖らせながら、小さい声でそう言った。


「岬姉ちゃんはどうして俺と葵さんを近づけたくなかったの?親友なんでしょ?」


「い、いえ。それは……」


岬姉ちゃんは奥歯に物が挟まるような言い方をする。


「それは私が四大財閥の人間だからだろう?」


「えっ!?」


葵さんは頬杖を突きながら、そう言った。


「知らなかったのか?やっぱり君は不思議な子だね。この学校の生徒会長は四大財閥の一つ、【天羽あまば】家の長女だってみんな知っているよ」


「そうだったんですか!?だから岬姉ちゃんは俺と葵さんを遠ざけようとしたのか……」


「岬が四大財閥嫌いになった原因を作ったのは私だからね。昔から岬には散々迷惑をかけてしまった」


葵さんはニコニコしながらそう言った。


「全くです!葵の後始末をするのはいつも私!それなのに『葵と一緒にいてずるい』とか陰で言われて……」


岬姉ちゃんはそう言い、握る手に力が入る。


「でも退屈しなかっただろう?」


「いい迷惑です!!」


「私は岬と一緒にいれて楽しかったぞ」


「蒼太君から言われるならまだしも、葵に言われても嬉しくありません!」


キーンコーンカーンコーン


すると、一時間目の予冷が鳴った。


「おっと、そろそろ授業が始まるみたいだね」


葵さんはそう言いながら立ち上がり、俺の方に歩いてくる。


「蒼太君、来てくれてありがとう。色々話していて楽しかったよ、よかったら今度――」


葵さんは何もないところで転び、頭から床に倒れこむ。


「だ、大丈夫ですか!?」


俺が立ち上がり、葵さんに近寄る。

すると葵さんの制服の中から白い首輪が出てきて、床をコロコロと転がる。


「こ、この首輪は何ですか?」


俺は戸惑いながら、首輪を拾う。

その首輪は白色で、真ん中にピンクのハートが書かれていた。

葵さんは勢いよく首だけを上げて、目を見開いてその首輪を見る。


「い、いやそれは……」


「あははは、可愛い首輪ですね!」


俺はしゃがんで葵さんの首に首輪を付けてあげる。


「これでよし!」


「えっ!?」


「この首輪に紐を付けて、誰かに持ってもらったらもう転ばないかもしれませんね。それじゃあ俺は教室に戻りますね」


俺は葵さんを見下ろしながらそう言って、生徒会室を出ていく。


「はぁ……はぁ……」


その後、生徒会室の中には艶っぽい声が響いていた。



「はぁ~、蒼太君は自分が何をしたのか分かってなさそうでしたね……。これはまた家に帰って説教しないといけません」


「こ、この気持ちは何だ!?」


「気持ち悪いので、近寄らないでください」


「み、岬!ドキドキして胸が張り裂けそうだ!」


「知りません。蒼太君にだけは絶対に近づかないで下さい」


「それは無理な話だね。蒼太君に興味を持ってしまったよ。ぜひ仲良く……いや、私の事を虐めてほしい!!」


「久しぶりにその葵を見ましたが、相変わらず気持ち悪いですね」


「ふっ、私に今更冷たくしてももう遅い。もう岬では満足しない体になってしまったのだよ」


「昔から私に嫌味を言われても、ずっと付き纏っていたのはその気持ち悪い性格が原因でしたね」


「私は昔から褒められてばかりだ。そのようなをくれるのは、岬だけだったからね」


「次、蒼太君に近づいたら遠慮なく殴るのでそのつもりでお願いします」


「顔は殴らないでくれ。みんなから見えていない所ならいくらでも殴っていいぞ。ただし、蒼太君に殴ってもらいたい」


「やっぱり葵を蒼太君に近付けないようにしなければ……」

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