第41話 私なら出来る side神楽坂茜
私は昔からある特定の物に『執着』すると、それを手に入れて自分の物にならないと気が済まなかった。
手に入れるまでは自分自身の行動を抑えられずに、暴走してしまう。
色々な方法を試して、治そうと試みたが結局は手に入れる以外で治す方法はなかった。
いつの間にかそれを治そうとも思わなくなり、これは自分の性格だからしょうがないと思うようにした。
そして今回はその執着が蒼太君に対して発動してしまった。
今回も暴走した結果、色々なものを失うんだろう。
そう思っていた。
『みんなで仲良く暮らしていける方法を探そうよ』
蒼太君はそう言ってくれた。
私もこれからどうなるかは分からないが、もう一度自分と向き合っていこうと思う。
そして今、私はお母さんの書斎を訪れていた。
莉乃ちゃんと喧嘩した件から話し合いの結果までの話をお母さんに話していた。
「お母さん、結局こんな感じになったよ」
「なるほどね。まさか如月さんの娘さんまで蒼太君を好きになるなんて……。これはかなり厳しくなったわね」
お母さんが腕を組み、眉間にしわを寄せる。
「ううん。蒼太君は私を好きって言ってくれたし、もういいの。独占するつもりはないよ」
「茜、どうしたのよ?」
「私は蒼太君を独占するんじゃなくて、みんなで蒼太君のお嫁さんになれるように自分を変えたい」
お母さんが大きくため息を吐くと、真っ直ぐ私の目を見てくる。
「茜、よく聞きなさい。私達神楽坂は一度『執着』したら、自分だけの物になるまで止まらないわ。みんなでお嫁さんになるなんて事は絶対に不可能よ」
「そんな事ない!私は莉乃ちゃんとも仲良くしたいし、蒼太君も諦めたくないの!」
「茜、本気で言っているの?私も昔は散々、『執着』を治そうとしたわ。でも無理だった。どうやっても自分の意思とは関係なく体が動いてしまう。それは茜も一緒でしょ?」
「うん……」
「だったら、治そうとするより蒼太君を独り占めできる方法を探していく方がよっぽど現実的よ?」
「でも、莉乃ちゃんと戦って勝てるの?相手は私達と同じ四大財閥だよ?」
「そ、それは……」
「もし何かあったら日本経済だってどうなるか分からないよ?」
四大財閥は日本の経済を握っている。
その二つが衝突し合えば、四大財閥内のバランスが崩れてしまう可能性だってある。
その影響は計り知れないものになるだろう。
「それはそうだけど……」
「莉乃ちゃんも私と同じで蒼太君に『執着』してる。私達のいざこざで日本中を巻き込むわけにはいかないよ」
「そう、だったら頑張って見なさい。応援してるわ、また何かあったら声を掛けてね」
「ありがとうお母さん」
そう言って私はお母さんの書斎から出て行く。
「あ、お嬢様」
「由里」
書斎から出てすぐの所に由里が立っていた。
「こんな所で何してるの?」
「いえ、私は奥様に用事で……」
「そうなんだ。じゃあ私は自分の部屋にいるから、また夕食の時に声掛けてね」
「かしこまりました」
そう言って由里は私に綺麗な動きで頭を下げる。
「明日は蒼太君との一日デート……、楽しみだな~」
私はそう呟いて、思わず口角が上がってしまった。
◇
書斎のドアが三回ノックされた。
「は~い」
「奥様」
書斎に由里が入ってくる。
「ああ、由里ね」
「お嬢様はなんと?」
「如月家の娘さんと親友のまま、お互いに蒼太君のお嫁さんになるって事になったみたいね。茜ももう蒼太君を独占する気はないそうよ」
「なるほど……」
「とりあえず茜の好きにやらせましょう。まあ残念ながらそれは叶わないと思うけど」
「そ、それは分かりませんよ?お嬢様ならもしかしたら――」
「絶対に無理よ」
「奥様……、どうしてそこまで……」
「由里、私達四大財閥はね、呪われた家系なのよ」
◇
「お嬢様、ではいってらっしゃいませ」
「うん!ありがとうね、由里」
私は駅前まで由里に送ってもらい、お礼を言う。
いつも以上に服装や化粧に気を遣い、待ち合わせ場所に行く。
「蒼太君、可愛いって言ってくれるかな?」
待ち合わせ場所にあったガラスに映った自分を見て、髪型や服装を整える。
「よし!これでオッケー!」
すると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「茜!」
「あっ!蒼太君!」
私は蒼太君がいる所まで小走りで向かい、勢いよく抱き着く。
「ごめんね、少し待たせちゃったかな?」
いつもみたいに優しい言葉を掛けてくれる蒼太君。
それにこうして抱きしめ返してくれる。
「ううん!私も今来たところだから大丈夫!」
「そっか、じゃあ行こうか」
「うん!」
そう言って私達は手を繋いで、目的地に向かう。
「茜、今日も可愛いね」
「本当!?えへへ、可愛いって言ってもらえるか不安だったんだ~」
「茜の事、もっと好きになったよ」
「嬉しい……」
私は蒼太君の手を強く握る。
やっぱりこういう事を言ってくれるのは蒼太君だけだ。
前の話し合い以降、いっぱい好きとか言ってくれるようになったし、私も前みたいにあまり暴走しなくなった。
「今日は遊園地だったっけ?」
「そう!ここから歩いて15分くらいの所にあるんだ!」
「へ~、茜は遊園地好きなの?」
「うん!子供の頃からよく行くんだ!何歳になってもジェットコースターとかに乗るの楽しいんだよね!」
「そっか……絶叫系は少し苦手だけど俺も挑戦してみようかな」
「本当!?一緒に乗りたい!でも無理はしなくていいよ?」
「大丈夫!一回くらいだったら平気だよ。たぶん……」
「じゃあ一回だけ乗ってみよ?もし怖かったら手握ってあげるね」
「それは心強いな」
そう言って蒼太君は私に微笑んだ。
そんな様子を見て、私の心臓はトクンッと小さく鼓動する。
お母さんは一度執着したら無理だって言ったけど、私なら出来る気がする。
だって私は蒼太君が大好きだから。
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