第40話 北条姉妹の喧嘩
「海依、今なんと?」
岬姉ちゃんは海依ちゃんを睨みつけ、低い声でそう言った。
「私が蒼太お兄ちゃんの護衛するから、お姉ちゃん会社継いでよ!」
岬姉ちゃんの様子を気にせず、海依ちゃんは笑顔だった。
「そんなの嫌です!」
岬姉ちゃんは机を叩いて、勢いよく立ち上がる。
「私だって嫌だよ!お姉ちゃんが出て行ったせいで、いきなりお母さんが私に会社を継いで欲しいとか言われて前よりも練習がきつくなったんだよ!?」
海依ちゃんも勢いよく立ち上がって、声を荒げる。
「そんなの知りませんよ!私は母から許可をもらってます。海依こそ、母はこの事知ってるんですか?」
「ギクッ!い、いや~どうだったかな……」
海依ちゃんは真っ青な顔を引きつらせながら、汗をかいていた。
「どうせいつもみたいに感情だけで突っ走った結果なんでしょう?」
「だってどうしても嫌なんだもん!それに感情で動いちゃうのはお姉ちゃんだって一緒じゃん!」
「なっ!私がいつ感情だけで動いたというのですか!?」
「だって蒼太お兄ちゃんの護衛としてこの家に来たのに、好きになったからとか言って、依頼も放棄した挙句に突然家を出るなんて人の事言えないじゃん!」
「っ!!」
岬姉ちゃんは図星だったのか、固まってしまった。
「そ、蒼太君……」
岬姉ちゃんは涙目で俺に助けを求めて来た。
「ま、まあまあ二人とも落ち着いてよ。でもこの前、岬姉ちゃんのお母さんが来た時は一番小さい妹が大きくなったら会社継がせるとか言ってなかった?」
たしかそんな事を言っていたはずだが、結局海依ちゃんに継がせようとしたのかな?
「妹はまだ小さくてどうなるか分からないから、一応私も鍛えておこうって事だと思うよ。ほんと迷惑だよ!」
海依ちゃんは頬を膨らませて、腕を組む。
「確かに、母や海依には悪い事をしました。本当にすみません。でも会社は継ぎませんし、蒼太君から離れるつもりはありません」
「岬姉ちゃん……」
岬姉ちゃんの言葉を聞いて、改めて俺は岬姉ちゃんの事が大好きで自分にとって大切な存在なんだと思った。
「じゃあ、あれで決めるしかないね」
海依ちゃんは机から離れて、部屋の隅まで歩いていく。
「そうですね」
岬姉ちゃんは立ち上がって海依ちゃんの前に立つ。
「あれって言うのはまさか……」
なんかこんな展開、前にも一度見たような気が……。
海依ちゃんは拳を握って、構えた。
「私が勝ったら家に帰ってきてね、お姉ちゃん」
岬姉ちゃんも真似するように、拳を握る。
「それだけは絶対に嫌です」
「い、いや家の中で喧嘩するのはやめてほし――」
「やあっ!」
俺の言葉を無視して、海依ちゃんは岬姉ちゃんの頭に向かって蹴りを放つ。
それを岬姉ちゃんは片手で止めた。
「そんなものですか?」
「まだまだ!」
岬姉ちゃんと海依ちゃんは素早く綺麗な動作で殴り合っていた。
「ちょ、ちょっとこんな所で喧嘩したら家具が……って壊れてない?」
二人は激しく動いているが、家の中の物には一切当たっていなかった。
「蒼太君、安心してください。私達は子供の頃から家の中でも訓練していて慣れていますので、物を壊すようなことはしません」
「そうそう。蒼太お兄ちゃんは私の応援しててね!」
「蒼太君は私の応援をしているに決まってるじゃないですか!」
二人は戦いながらも息を切らさず普通に喋っていた。
「だったら好きにやらせてあげるか……」
俺は椅子に座って、二人を見守る。
二人の様子を見て、何となくだけど姉妹で仲良くじゃれ合ってるだけなんじゃないかと思った。
しばらくすると海依ちゃんがぐいぐいと岬姉ちゃんを壁に追いやっていく。
「お姉ちゃん、どうしたの?このままだったら私が勝っちゃうよ?」
海依ちゃんはニヤリと笑いながらそう言った。
「くっ!昔から腕っぷしだけは一人前ですね」
「私は馬鹿だし、男性に対する免疫はないけど、戦闘に関しては誰にも負けないよ!」
すると海依ちゃんが岬姉ちゃんの腕を取って、床に押さえつける。
「し、しまった!」
海依ちゃんはそのまま流れるような動作で関節技をきめた。
「さあ、お姉ちゃん!ギブアップしなよ!」
「ぜ、絶対に嫌です……」
「そんなこと言って~苦しそうだよ?」
関節技をきめられて、岬姉ちゃんは苦しそうに歯を食いしばっていた。
すると岬姉ちゃんは俺の方を見てきた。
「そ、蒼太君……海依の頭を……」
俺は頷くと、立ち上がり二人に向かってゆっくり歩いていく。
何となくだが今の言葉だけで岬姉ちゃんの言いたい事が分かった。
「はい、そこまでだよ。海依ちゃんも離してあげて」
俺は宥めるように言いながら、海依ちゃんの頭を優しく撫でる。
「ほあぁぁぁぁ~!!な、なでなでされてるぅぅ~~!!」
急に海依ちゃんの顔が真っ赤になり、口から涎を垂らし始めた。
「えっ!?」
海依ちゃんの反応に俺は思わず、引いてしまう。
「今です!」
海依ちゃんの力が抜けたからなのか、岬姉ちゃんは拘束から抜け出して、今度は逆に海依ちゃんの関節を決めた。
「なっ!ず、ずるいよ、お姉ちゃん!蒼太お兄ちゃんを使うなんて!」
「私は蒼太君の名前を呼んだだけですよ?これも愛がなせる業です」
「反則だよ!も、もう一回勝負しようよ!」
「ダメです。私の勝ちです。諦めて家に帰りなさい!」
関節を決めながら二人は口論を始めた。
「はいはい、もう終わりしようね」
俺は二人の間に入って、喧嘩を止めた。
◇
「うぅ……家に帰りたくないよ……」
海依ちゃんは玄関の前で泣き始めた。
あの後、岬姉ちゃんのお母さんに電話して事情を聞くと、単なる家出だったそうだ。
「はぁ……海依、あなたは結局何がしたかったんですか……」
「だって~、お姉ちゃんが羨ましかったんだもん!自分だけ蒼太お兄ちゃんみたいな優しい男の子と恋人になってずるいよ!」
「すみません、蒼太君。最後に海依の頭だけ撫でてあげてくれませんか?」
さすがに可愛そうだと思ったのか、岬姉ちゃんは俺に小さな声でそう言った。
「うん、分かったよ」
そう言って、俺は海依ちゃんの前に立つ。
「海依ちゃん。訓練頑張ってね、また遊びにおいで」
そう言って海依ちゃんの頭を優しく撫でる。
「ほあぁぁぁぁ!!私、がんばりゅううう!」
海依ちゃんは体を震わせながらそう言った。
「あはは……」
海依ちゃんの様子を見て、俺は思わず苦笑いをする。
「もし私と蒼太君が結婚したら、蒼太君は本当のお兄ちゃんになりますからそれで我慢してください」
それを聞いた海依ちゃんは目をキラキラさせながら、その場で飛び跳ねる。
「本当だ!!やったぁ、お兄ちゃん欲しかったんだ~!」
「じゃあね、海依ちゃん」
「海依、訓練頑張って下さいね」
「うん!お姉ちゃん、蒼太お兄ちゃんばいばい~!また遊びに来るね」
そう言って海依ちゃんは出て行った。
「はぁ、やっと帰りましたね。すみません、妹がご迷惑をおかけして」
「ううん、大丈夫だよ。俺も散々岬姉ちゃんには
「蒼太君……」
岬姉ちゃんは俺に抱き着いてくる。
「ふふっ……私、幸せです」
「俺もだよ」
そう言って岬姉ちゃんにキスをした。
すると玄関のドアが急に開いて、そこには海依ちゃんが立っていた。
「ごめん~忘れ物しちゃ……あーーーー!!ちゅーしてる!!」
海依ちゃんが俺達を指差して、大きな声を出した。
「う、海依……」
「ずるいずるい!やっぱり今日から私もここに住みたい!!」
その後、海依ちゃんはしばらく帰ろうとせず、結局夕飯を一緒に食べてから帰った。
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