第42話 莉乃の気持ち side如月莉乃

今日は蒼太が昼から家に来て、夕方まで遊ぶ予定だ。

初めての一日デートに浮かれつつも、少し緊張してしまう。


私は家の中で落ち着かず、歩き回ってしまう。


「ふ、服はこれでいいわよね?あと部屋の掃除もしたし、それと……」


私は家の中を歩き回り、汚れていない所や変な所がないか何度も確認してしまう。


「前に一度、家で遊んだじゃない!しっかりしなさい、私!こんなんじゃ嫌われちゃうわ」


私は鏡に映った自分に言い、両手で頬っぺたを叩く。


「昨日も寝る前にシミュレーションしたからきっと大丈夫よ」


自分にそう言い聞かせ、深呼吸をする。


ピーンポン


そんな事をしていると家のチャイムが鳴ったので、インターホンの画面を見る。

そこには蒼太が立っていたので、通話ボタンを押す。


「蒼太、今開けるわね」


『ああ、ありがとう』


私はインターホンのスイッチを押し、オートロックを開ける。

しばらくするともう一度インターホンが鳴ったので、玄関のドアを開ける。


「入って頂戴」


「お邪魔します。ここに来るのは二回目だが相変わらずすごい部屋だな。なんか緊張するな」


蒼太はそう言いながら、部屋の中をキョロキョロと見渡す。


「普通の部屋でしょ?いつも通りでいいわ」


「普通ではないだろ……」


私がリビングのソファーに座ると、蒼太が私の隣に座る。


「今日もゲームするのか?」


「そうよ!今日は格闘ゲームやりましょ!」


私はそう言って蒼太にゲームソフトを見せる。


「おっ!それ新作じゃん!早くやろうぜ!」


ゲーム機の電源を付けて、ゲームソフトを入れる。


「なんか罰ゲームでも決めるか?」


蒼太はニヤリと笑いながら、私にそう言った。


「望むところね。じゃあ私が負けたら思いっきりハグしてあげるわ!」


「それ罰ゲームか?」


「いいじゃない別に……。それとも私とハグしたくないの!?」


「そんなわけないだろ。じゃあ俺が負けたらキスしてやるよ」


私は蒼太にキスされる妄想をして、心臓がドクンと跳ねる。


「そ、そうね。じゃあそうしましょう」



「やったぁ!これで二勝一敗、俺の勝ちだ!」


「くっ!相変わらず強いわね」


自分が使っていたキャラクターが倒れている画面を睨みながら、爪を噛む。


「まあいいわ、じゃあ……はい」


私は机にコントローラーを置き、蒼太に向かって両手を広げる。


「……、じゃあ遠慮なく」


すると蒼太が私に抱き着いてくる。

私は両手を蒼太の背中に回し、優しく撫でる。


蒼太のにおい……いい匂いね……。


蒼汰の匂いや、手から伝わってくる感触に私は心臓が素早く何度も跳ねる。

胸が苦しいが、何故か心地よい。

不思議な感覚。


私が強く抱きしめると蒼太もそれに応えるように抱きしめてくれる。


「私、今幸せよ。ねえ、蒼太は……きゃあ!」


蒼太が手を動かした時に私の胸に当たり、思わず声を出してしまった。

蒼太は私の声に驚いたのか、少し離れる。


「ご、ごめん!今のはわざとじゃなくて――」


「だ、大丈夫よ!気にしてないわ」


は、初めて男の人に触られたわ……。


私は胸が物凄く大きい。

男子は胸が大きい女子があまり好きではない傾向にある。

肩もこるし、昔からコンプレックスだ。


「す、すごいな……。前々から思ってたけど、この大きさは今まで見た中で


蒼太は私に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でそう呟く。


「へ?」


私の耳は敏感にある言葉を察知した。



その言葉を聞くと全身が熱くなり、ピクピクと体が痙攣する。


「はぁ……はぁ……」


「り、莉乃?急にどうしたんだ?顔が赤いぞ?」


蒼太は私の顔を覗き込んでくる。


「蒼太は胸が大きい方が好きなの?」


「ま、まあ大きい方が好きかな」


蒼太は私から目を逸らし、恥ずかしそうに頬を搔く。


「じゃあ私の胸は好き?」


「えっ?」


蒼太は私の問いかけに答えず、目を大きく見開いた。


「私の胸が一番なの?」


「た、確かに胸は一番かも……むぐぅ!」


一番と言われて、思わず蒼太の顔を自分の胸に押し付けてしまう。


「本当?本当に私が一番なの?」


好きな人から一番と言ってもらえる事がこんなに嬉しいだなんて……。

さっきからうるさいくらい心臓がバクバク言ってる。


「ちょ、ちょっと離し……」


私は茜みたいに独り占めしたいとは思っていない。

それに前ほど一番になりたいというも思ってない。


「嬉しいわ、蒼太」


蒼太はかっこいいし、優しい。

他に彼女もこれからどんどん増えていくだろう。


蒼太は私の腕を軽く何度も叩く。


「あっ、ごめんなさい!」


「ぷはっ!し、死ぬかと思った」


私が腕を離すと、蒼太は顔を真っ青にしながら肩で息をする。


茜とはずっと親友でいたいし、みんなとも仲良くできるようになりたい。

私が本当の一番じゃなくてもいい……でも


「蒼太、これから私が一番だって思うところを見つけたら一番だって言って欲しいわ」


「えっ!?」


「それさえ言ってくれれば私は満足よ」


「そ、そっか……じゃあそうするよ」


「ええ、これからもよろしくね」


私はそう言って、蒼太に抱き着いて口付けをする。


私が他の彼女に勝っている所をたまにでいいから、蒼太の口から言ってもらえれば私は十分幸せになれる。


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