第72話 蒼太様の彼女達 side西園寺結愛

 私は蒼太様に自分の気持ちを告白した。

 そしてそれを、断られた。

 理由は『自分が悪い』の一点張りで詳しくは教えてくれなかった。


 理由も知らずに諦める事なんてできない。

 元より諦めるつもりなんてないが、居ても立っても居られなかった。


 私は金の装飾がされている大きな両開きの扉の前に立ち、『生徒会室』と書かれているプレートをじっと見る。

 そしてその扉をノックし、生徒会室の中に入る。


「それでは今日はこれで終わりに――、ん?」


 生徒会室には5人の女性がいて、一つのテーブルを囲って何やら話し合いをしている様だった。


「えっ!?あれって愛ちゃんじゃないですか!?」


「えーーー!!私ファンなんです!」


「きゃーー!!写真いいですか!?」


 銀色の髪をした葵様と長い黒髪を後ろで縛った女性は目を大きく開けてこっちを見ているだけだったが、それ以外の3人の女性はすぐに私の元に駆け寄って来た。


 葵様は手でおでこを抑えながら、ため息を吐くと私の方にゆっくりと歩いて来た。


「みんな、この子のファンなのは分かるがここは学校なんだ。ファンサービスを求めるのはやめてあげてくれ」


「す、すみません……」


「つ、つい……」


「今日はこれで終わりだ。みんなは帰りなさい、この子は私と岬に用があるみたいだからね」


 葵様はそう言って、3人の女性を帰らせた。

 生徒会室の中にあったソファに葵様ともう一人の女性が腰かけ、私がその反対側のソファに腰を下ろす。


「すまないな」


「いえ、慣れていますわ」


「久しぶりだね、結愛。この人は北条岬、生徒会副会長だ。それと蒼太の彼女でもある」


「葵、この子は誰なのですか?」


「前に話しただろ?西園寺――」


「西園寺結愛ですわ。初めまして、岬様」


 私はそう言って岬様に頭を下げる。


「っ!あなたが……」


 岬と呼ばれていた女性は目を大きく見開いて、私の方を見る。


「結愛、何か飲むかい?」


「いえ、少しお話を聞きたいだけですわ」


「そうか……。何について聞きたいんだ?」


「蒼太様の事ですわ」


「蒼太君の?」


 私の言葉を聞いた岬様が眉をひそめた。


「私は先日、蒼太様に告白致しました」


「やはり私の予想通り結愛も蒼太を……」


「ですが断られてしまいました」


「蒼太は断ったか……。理由は聞いたのか?」


「詳しくは教えてくれませんでしたわ。『俺のせい』とだけ聞きました」


 すると葵様と岬様はお互いに顔を見合わせた。

 そして葵様が私の方を見て、口を開く。


「心当たりはある。だがそれは私達の口から言う事ではない」


「それでは納得が――」


「あなたの気持ちも分かります。ですがどうせ茜や莉乃の所にも行くのでしょう?」


 私は無言で首を縦に振る。


「ならその理由はそのうち分かります」


「……。では私が断られた理由は茜様ですか?」


「っ!」


「蒼太様が帰った後、一度冷静に考えてみたんですわ。自分で言うのもなんなのですが、蒼太様は私にある程度好意は持って頂いているのを感じました。ですが四大財閥の人間を彼女にするのはとても大変な事ですわ。特に神楽坂は」


 神楽坂は『独占欲』がすごく強い。

 蒼太様に彼女が増えるのを嫌がるのは間違いなく茜様だ。では私の告白を断ったのは、茜様のためなのでは?


「さあな。あくまでも私達は心当たりがあると言っただけだ、確証はないよ」


「分かりましたわ。お時間を割いて頂きありがとうございました」


 私はゆっくりと立ち上がり、二人に頭を下げる。


 ◇


 放課後に靴箱でとある女性を待ち伏せする。


「莉乃様」


 莉乃様が振り向くと艶のある長い黒髪を揺れ、私の方を見る。


「あら!久しぶりね、結愛。元気だった」


「元気でしたわ。アメリカの食べ物は少しお口に合いませんでしたけど」


「そうね。私がアメリカに住んだらすぐ太りそうだわ」


 莉乃様はそう言って腕を組む。


「確かに大きくなりましたわね」


 私は苦笑いしながら、存在感のある胸を見る。


「胸のことかしら?昔はこの大きい胸が嫌いだったけれど、最近はむしろ好きになってきたわ!」


「どうしてですか?」


 大きい胸は男性に嫌われる傾向がある。

 それなのにどうして莉乃様は自分の胸を好きになったのだろう……。


「彼氏が私の胸を一番と言ってくれたのよ!」


「そ、蒼太様が!?巨乳好きなのですか!?」


「そうよ!そういえば結愛も蒼太のこと知ってるのよね?」


 私は自分の胸を両手で触る。

 私の胸は小さい……。

 今からマッサージすれば間に合うのでしょうか?


「実は先日、蒼太様に告白したら断られてしまったのですわ……」


 私は肩をがっくりと落としながらそう言った。

 あの日の事を思い出すと心臓が締め付けられ、今にも泣いてしまいそうになる。


「そう……。それは残念ね、でも世の中には数は少ないけど男性がまだいるわ。もしかしたら他にも良い男性がいるかもしれ――」


「いませんわ」


「それは同感ね。自分で言ってて気持ち悪かったわ」


 私はなぜ莉乃様を訪ねたのか、その理由を説明し、ここに来る前に葵様と岬様にも話を聞いたことを伝える。


「そうね……。葵さんと岬さんと同じで私からも言えることはないわね」


「やっぱり……」


 間違いない、蒼太様が告白を断った理由は茜様だ。


「もし結愛が彼女になってもまだ5人でしょう?私は蒼太の彼女が一人増えようが何とも思わないわ」


 もしかしたら茜様と喧嘩になるかもしれない。

 昔から一緒に遊んだ友達。

 でも諦められない。


 ◇


 莉乃様を訪ねた次の日の昼休み。

 私は蒼太様と茜様の教室に向かう。


「茜様」


「ゆ、結愛ちゃん。どうしたの?」


「結愛ちゃん!」


 茜様は顔を引きつらせながら私の顔を見た。

 横にいた蒼太君も急いで立ち上がり、私の傍に来た。


「ごめんなさい、蒼太様。でもどうしても諦めきれなくて……」


「……」


 私は蒼太様から視線を外し、茜様をじっと見る。


「茜様、お話聞かせて」

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