第29話 俺は二人とも好きだぁぁ!!

「ん?あなたは確か……」


 岬姉ちゃんは怖い顔をしている茜を見る。


「やっぱり、神楽坂茜ですね。それに『蒼太君』ですか……」


 何かを察したように岬姉ちゃんが俺を見ると、徐々に顔の表情が消えていく。


「「蒼太君」」


「は、はい!」


「どういう事か説明して」


「どういう事か説明してください」


 二人から冷たい目で見られた俺は体が固まってしまい、だらだらと汗が出てきた。


 ◇


 教室でこの状況で話し合うわけにはいかないので、俺たちは授業をさぼって、茜に教えてもらった学校の空き部屋に来ていた。


 俺は床に正座させられ、茜と岬姉ちゃんは椅子に座って俺を見下ろす。


「さっきは気が付かなかったけど、北条先輩だったんですね」


「私を知っているのですか?」


 二人はお互いに認識し合っていたみたいだ。


「もちろんです。なんせ北条先輩はこの学校のですから」


「え?岬姉ちゃんなの生徒会副会長なの!?」


「はい。今の生徒会長にどうしてもと頼まれたので、副会長をやっているだけです。特にやりたかったわけではありません」


「まあ生徒会長はから、きっと北条先輩に守ってほしかったんじゃないですか?」


 生徒会長はどうやらかっこいい男性らしい。


「本当に迷惑です。それに私はボディーガードです、会長を守る必要なんてありませんよ」


「岬姉ちゃんは強いし、仕事が早いから気持ちはわかるけどね。生徒会長も岬姉ちゃんが近くにいてくれたら安心するんじゃないかな?」


 俺が痴漢された時も、テキパキと対応してたし。


 俺が褒めると岬姉ちゃんは頬をほんのり赤くさせる。


「嬉しい……。しかし私が心の底から守りたいと思っているのは愛する蒼太君だけですよ」


「ありがとう、岬姉ちゃん」


 茜が怖い顔で岬姉ちゃんと俺を交互に見る。


「今のやり取り、どう見ても血のつながった姉弟とは思えない……」


 茜の言葉を聞いて、岬姉ちゃんが首をかしげた。


「姉弟?誰と誰がですか?」


 ま、まずい!茜には俺のお姉ちゃんと説明している。

 俺は背筋がぞっとして、ぶるぶると震える。


「誰って、北条先輩と蒼太君の事に決まってるでしょ!?岬姉ちゃんって呼んでるし」


「そ、そうそう!俺達は―—」


「私と蒼太君は姉弟ではありませんよ?幼馴染なのでそう言われているだけです」


「は?」


 茜が低い声でそう言うと、ギギギと壊れた機械のように首を回して俺の方を見る。


「蒼太君、これはどういう事?」


「えっと……そ、そうだ!前に説明したよね!?俺のお姉ちゃんだって!」


「血のつながったお姉ちゃんでしょ?」


「そ、そんなことは一言も……」


「私に嘘ついたんだね」


 目のハイライトが消え、その目で俺を見下ろす。


「いや、嘘というかなんというか……」


 俺は茜に何と言えばいいか考えていると、横で見ていた岬姐ちゃんが口を開いた。


「蒼太君、私も聞きたいことが一つあります」


「えっ?」


「私は蒼太君に四大財閥の人間とは関わるなと忠告しましたよね?どうして神楽坂茜と仲良くしているのですか?」


「そ、そんなこと言われかな?あはははっ」


 俺が誤魔化すために無理やり笑う。


「北条先輩、どうしてあなたにそんなことを言う権利があるんですか?蒼太君が誰と仲良くしようと蒼太君の勝手でしょ!?」


 茜は眉を吊り上げて、岬姉ちゃんを睨み付ける。


「確かにその通りです。ですが私は蒼太君を守るために四大財閥の人間とは関わるなと言っているのです。他の女なら一声掛けてくれれば少しは考えてあげます」


 岬姉ちゃんはさも当たり前かのように淡々と説明する。


 少し?俺に決定権はないのか……。


「はぁ、あなた何様?私の蒼太君を勝手に管理しないで!」


「いつからあなたの物になったのですか?」


 お互いに睨み合い、火花が散る。


「昨日だよ!蒼太君は昨日私の家に泊まったし!」


「なっ!蒼太君、昨日は泊まったのは神楽坂茜の家なのですか!?てっきり私は男友達の家だと思っていました」


 もうダメだ……。

 色々な問題を先送りにしていたつけが回っていたのだろう。


「女の家に泊まるなんて自殺行為です。これからは私が徹底的に行動を管理する必要があるようですね」


 岬姉ちゃんは俺を冷たい目で見下ろす。


 自業自得だ、正直に謝ろう。


「す、すいませんでしたぁぁぁ!!!」


 俺は二人に向かって土下座する。

 二人はそれを見て、大きくため息を吐く。


「まあ、蒼太君みたいな優しい男の子に他の女がいないわけがないとは思っていたけどね」


「そうですね。蒼太君のような優しくてかっこいい男性は四大財閥の人が欲しがるに決まってますよね」


 二人は何かを諦めたように苦笑する。


「茜、岬姉ちゃん……」


 なんていい子達なんだ……。

 俺が必ず二人とも幸せにしよう。


「でもね」


 茜の目が黒くなり、その目で俺を見てくる。


「私は蒼太君を独り占めしたいの。だから今ここで北条先輩か私のどちらか決めて?そうしたら許してあげる」


 独り占め!?じゃあもし茜と付き合ったらハーレム作れないの!?

 二人の内一人しか選べないなんて……。

 そ、そんなの決められるわけないだろ!


「私は四大財閥の人間と関わるのは許しません。私か神楽坂茜、どちらか選んでもらいましょう。まあ蒼太君は私を選ぶと思いますけど」


 岬姉ちゃんも賛成したので二対一になってしまった。

 お、俺はどうすればいいんだ!


 ピコン


 その時、スマホの通知が鳴った。

 この音はまさか!


 俺はスマホを開くと、キューピッドが更新されていた。

 俺はわらにもすがる思いで、情報を読む。


『女性が言われて一番嬉しい言葉はなんだと思う?それは【好き】と言われることだ!【好き】と言うのが恥ずかしいと思ってしまう男性は多いのではないか?しかしそれでは女性は自分の事をどう思っているのだろうと不安になってしまう。相手に【好き】と細目こまめに言ってあげる事が良い関係を築く上でとても大切なことだ!何か問題があったら【好き】と言ってあげるだけで意外と解決してしまうこともあるぞ!これからは積極的に言っていこう』


 好きって言っただけでこの状況が解決するわけないだろ!


「「蒼太君」」


「は、はい!」


「どっちか決めて」


「どっちか決めてください」


 二人は左右から俺を見つめてくる。

 これは今、決めるしかない。


「俺は……」


「「ごくり」」


 二人が生唾を飲み込む音が聞こえる。


「俺には選べない、二人とも好きだぁぁぁ!!」


 俺が叫ぶと、その声が部屋の中をこだまする。


「「……」」


 二人は口を開けて、固まったように動かなくなる。

 や、やっぱり無理か。ちくしょう!美少女ハーレムを作るという俺の夢が……。


 俺が夢を諦めようとしたその時、二人の顔がみるみる赤くなっていく。


「は、初めて好きって言われたぁ♡」


「蒼太君……私も大好きです♡」


「へ?」


 二人の予想外の反応を見て、俺は困惑する。


「ま、まぁそれなら仕方がないですね。少しだけ返事を待ってあげます」


「わ、私も少し気が早かったみたい……」


 二人が頬を赤くさせ、もじもじしながらそう言った。


 あれ?これ助かったのか?


 俺が【好き】という言葉の魔力を初めて知った瞬間だった。



―――――――――――

【あとがき】

現代ファンタジーの新作始めました!

もしよろしければこちらも見て頂いたら嬉しいです。


『他のダンジョン探索者が弱すぎたので、異世界帰りの最強勇者である俺がダンジョン教育系配信したら死ぬほどバズった』

https://kakuyomu.jp/works/16818093076594383110






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る