第30話 実はもう一人気になってる子がいるんだが

茜と岬姉ちゃんと話し合い、ひとまず俺は許された?みたいだ。

恐るべし言葉の魔力。


あっという間に時間が過ぎ、気が付けばもう帰る時間だ。


「さて、帰るか」


俺はカバンを持って、立ち上がる。


「蒼太君!一緒に帰ろ!」


そう言って茜が俺の腕に抱きついてくる。


「い、いや今日は――」


俺が断ろうとすると、俺達の様子を見て周りの生徒たちがざわつく。


「う、噓でしょ!?」


「見て!腕を組んでるわ!羨ましい……」


「あんな事されても拒否しないなんてやっぱり西井君は天使ね」


茜が周りの様子に気づいて、苦笑いを浮かべる。


「ごめんね、教室出てから話そ!」


「う、うん」


俺達は下駄箱の前まで歩いていくと、そこには岬姉ちゃんが立っていた。


「はぁ……、どうしてあなたまでいるのですか?神楽坂茜」


「北条先輩こそどうしてここにいるんですか?今日は私が蒼太君と帰るので、北条先輩は一人で帰ってください」


茜と岬姉ちゃんはお互いに言い合いを始めた。


「何かあったらあなたでは蒼太君を守れません。私が一緒に帰ります」


「北条先輩は蒼太君と一緒に住んでるんだから今日ぐらい譲ってくれてもいいじゃないですか!」


茜が俺の腕に抱きつく。


「ダメです。私は蒼太君のお母様から頼まれているのです」


岬姉ちゃんが反対側の腕に抱きつく。


「ぐぬぬぬ……」


「ふんっ」


俺を挟んで二人が睨み合う。


「ふ、二人とも悪いんだけど今日は用事があるから一緒には帰れないんだ……」


「「え?」」


二人は声をそろえて言い、俺の顔を見上げる。


「用事?そういえば最近帰りが遅いですね。いつも何してるんですか?」


「そうなの?なんか怪しいね……」


二人は目を細め、疑うように俺を見る。


「きょ、今日はゲーセンに寄って行きたいだけだよ」


実は今日、チャットで莉乃とゲーセン行く約束をしていた。

二人から問い詰めれて痛い目を見たので、これからは正直に話そうと思った。


「ゲーセン行くの?私行った事無いから、行ってみたい!」


それを聞いた茜は満面の笑みでそう言う。

茜はお嬢様だからゲーセンに行かせてもらえなかったのかな?


「……」


岬姉ちゃんが顎に手を当て、眉間にしわを寄せる。


「一人で行くのですか?」


「えっ?」


俺はまた二人に怒られるのではないかと思い、冷や汗が出てきた。


「確かに。まさか蒼太君、女の子じゃないよね?」


茜はハイライトが消えた目で俺を見る。


「えっ、いや……その」


「「蒼太君」」


「お、女の子です」


俺は二人の圧に耐え切れず、正直に言う。


「まだ別の女がいたのですね。まだ転校してから日が浅いのにもうそんなに女を囲っているのですか?」


「本当だよ。さすがに私も呆れたよ、蒼太君」


「……」


俺は何も言い返せず、その場に立ち尽くす。


二人は俺から離れ、俺を冷たい目で見る。


「その女は誰ですか?好きなのですか?」


「その女とはどこで出会ったの?どんな人?」


「た、ただゲーセンで知り合った子だよ。友達だよ、友達」


嘘は言っていない。俺と莉乃はそんな関係ではない。

俺は少し気になっているが……。


しかし逃げるなら、二人が俺に抱き着いていない今がチャンスだ。


「じゃ、じゃあそういう事で!岬姉ちゃん、夕方までには帰るよ!」


二人にそう言って、俺は全力で走り出す。


「あっ」


「ちょ、ちょっと!!」



「はぁ……はぁ……」


俺は立ったまま膝に手をのせて、肩で息をする。

何とか二人を巻いて、ゲーセンまで走ってきた。


「蒼太!」


莉乃が俺を見つけると一瞬だけ笑顔になり、またすぐ普通の表情に戻る。

俺に近寄ってくると、心配そうに声を掛けてきた。


「どうしたの?そんなに疲れて……」


「い、いや……何でもないよ」


「そう、まあいいけど。それより今日は何のゲームする?」


莉乃は唇の端を吊り上げ、そう言った。


「そうだな~、じゃあ今日は――」


すると聞き覚えのある声が横から聞こえてきた。


「あーーーーー!!見つけた!!北条先輩、こっちにいましたよ!」


なんとそこには俺を指差した茜が立っていた。


「げっ!こんなところまで追ってきたのかよ!?」


「よくやりました!神楽坂茜!さぁ、さっきの話の続きをしましょうか。蒼太君!」


茜の声を聞いた岬姉ちゃんが遠くから走ってきているのが見える。


「な、何よ。この人達、蒼太の知り合い?それにあの赤いリボンは……」


「は、話は後だ!逃げるぞ、莉乃!」


俺は莉乃の手を握り、ゲーセン外に出る。


「えっ!?ちょ、ちょっと!」


莉乃の声を無視して、街の中を歩いている人達をすり抜けながら走っていく。


「蒼太!こっちよ!」


当てもなく知らない道を走っていると、莉乃が握っている手を引っ張り、先導してくれる。

俺達はとある高層マンションのロビーに入り、外から見えない場所に身を寄せる。


「ここなら大丈夫よ」


莉乃が俺の耳元で囁いた。


「あれ?確かこの辺に行ったような……」


「見失ってしまいましたか、しかしまだ近くにいるはずです」


外から茜と岬姉ちゃんの声が聞こえ、どこかに走っていった。


「ふぅ……」


俺は体の力が抜け、大きく息を吐く。


「大丈夫?ていうかこの状況はなんなのよ!」


「ご、ごめん」


また問題から逃げてしまった、あとでめんどくさいことになりそうだな…。

ん?でもよくよく考えたら莉乃も合わせて四人で遊べばよかったんじゃないか?


「なあ、莉乃。今更だがあの二人は俺の知り合いなんだけど、今日よかったら四人で遊ばないか?」


それを聞いた莉乃は眉を吊り上げる。


「嫌よ、私は蒼太と二人で遊びたいの!それとも私と二人っきりは嫌なの!?」


「い、いやそんなことないよ……だから一緒に逃げたんじゃないか」


「そう、それならいいわ」


莉乃は腕を組み、ふんと鼻を鳴らす。


「そんなことよりここ勝手に入っても良かったのか?」


周りを見渡すと、赤い絨毯が引いてあり、天井には大きなシャンデリアがあった。

高級ホテル並みに綺麗なロビーだ。

きっと家賃も月100万をゆうに超えるだろう。


「別に心配ないわ」


「でも俺たち不法侵入にならないか?」


「大丈夫よ。私、ここのマンションに一人で住んでるから」


莉乃も俺とは住む世界が違うお嬢様だった。






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