第4話 可愛いメイドさんがやってきた

 俺は正式に【私立桜小路学園】に転校が決まり、母さんに東京まで車で送ってもらった。


「蒼太ぁ~、元気でね……ちゃんと毎日電話するのよ!わかった!?」


「さすがに毎日はきついよ……。じゃあね、母さん」


 俺は号泣している母さんに別れを告げ、これから住む東京の部屋を見渡す。

 部屋には荷物の入った段ボールが山積みになっている。


「部屋二つも要らなかったんだけどな、母さんは何でこの部屋にしたんだろ?」


 母さんが一人暮らしを許可する条件として、オートロックと2L以上の部屋にするというものがあった。この部屋も母さんが決め、学校から近いし、比較的建物が新しいので俺も了承した。


「それにしてもこの世界の男は待遇良いよな。補助金結構もらえるみたいだし」


 具体的な金額は知らないが、男を産んだ家庭には補助金が出るみたいだ。

 この部屋の家賃や生活費もその補助金で十分足りるみたいだ。


「遂に明日から学校だ!しかも超名門のお嬢様学校!ハーレム王に俺はなる!」


 もう私立桜小路学園への転校手続きは終わっている。

 一応テストは受けたが、男はテストの結果が0点でも入学できるみたいだ。


「さて、荷解きを始めるか」


 俺は一番手前にあった段ボールを開けようとしたその時。


 ピンポーン


 インターホンの音が部屋中に鳴り響いた。


「誰だろ?まだ引っ越したばかりなのに……」


 俺はオートロックと連動したインターホンの画面を見る。


「えっ、誰!?このメイド服を着た女の人は……」


 インターホンに映っていたのはメイド服を着て、長い黒髪をポニーテールにしている若い女性だった。


 困惑しながらも、インターホンの通話ボタンを押す。


「あ、あの……どちら様でしょうか?」


「蒼太君ですよね?今日から一緒に住む事になりました。北条岬ほうじょうみさきです」


「一緒に住む!?」


 俺はメイド服の女性が言った事が理解できず、呆然とする。


「お母様から聞いていませんか?」


「す、すいません!ちょっと待っててください!」


「かしこまりました」


 インターホンの通話を切って、急いでスマホを手に取り、母さんに電話を掛ける。


『もしもし。どうしたの?蒼太。まさかもう寂しくなっちゃったの~?だから言ったじゃない、東京で暮らしていくなんて無理よ~さあ戻ってきなさ―』


 電話越しでも母さんがニヤニヤしながら喋っているのが分かる。


「母さん!そんな事よりも変なメイドさんが家に来てるんだけど!?一緒に住むってどういう事だよ!?」


「ああ~そういえば言い忘れてたわね……。息子が東京に一人で暮らすなんて許可するわけないでしょ」


「だからって歳が近い女の人と暮らすのはいいの!?」


「その辺の女ならダメだけど、一緒に暮らすのは岬ちゃんよ?子供の頃よく遊んでたじゃない」


「あっ!岬姉みさきねえちゃん?」


 俺の記憶に微かに残る思い出の中に近所の1つ上のお姉さんがいた。

 そのお姉さんが岬姉ちゃんだ。

 岬姉ちゃんのお母さんと俺の母さんは幼馴染で、この世界で唯一接点がある同世代の女性だった。


「そうよ、思い出した?10年前に東京に引っ越したみたいだったから、一緒に住んで蒼太の事を守ってもらおうと思って」


「でも岬姉ちゃんも女の子だぞ?俺が襲われたらどうするんだよ!?」


「それなら大丈夫。岬ちゃんの家は代々【男性ボディーガード】の家よ?岬ちゃんも将来男性ボディガードになるみたいだし」


 男性ボディーガードは俺も知っている。

 厳しい訓練によって男性に対しての免疫を獲得した女性で、主にVIPの男性を守る仕事だ。


「そうだったのか……。まあ母さんがいいならいいけど」


「幼馴染なんだからきっと仲良くできるわよ」


 俺は電話を切って、もう一度インターホンの通話ボタンを押す。


「岬さん?母さんから聞きました。今ドア開けますね」


「ありがとうございます」


 しばらく待っていると先ほどとは少し違う音のインターホンが鳴った。

 今度は部屋の前のインターホンが鳴ったみたいだ。


「はーい」


 俺は玄関を開けると、そこには画面で見たメイド服を着た岬姉ちゃんが立っていた。


「お久しぶりです。蒼太君」


 岬姉ちゃんは笑顔で俺に挨拶してきた。


「久しぶりで――っ!!」


 俺は岬姉ちゃんを見て、思わず息を呑んだ。

 目鼻立ちのきりっとした美しい顔、手足は細いのに出ているところはしっかり出ている。

 こんなに綺麗な女性は前世含めて、今までで見たことがない。


「?どうかしましたか?」


「い、いえ。どうぞ」


「失礼いたします」


 岬姉ちゃんは靴を脱ぎ、部屋に入る。


 俺は段ボールを開けて、クッションを取り出す。


「良かったら使ってください」


 クッションを床に置き、岬姉ちゃんをそこに座るよう促す。


「いえ、それは蒼太君が使ってください」


「いやいや、男の俺がクッションを使って女性が床に座るなんて出来ませんよ!」


「普通逆だと思うのですが……」


 そういえばこの世界ではその辺の考え方も逆だったな。

 それでも俺は女性に優しくすると決めたのだ、俺がクッションを使うわけにはいかない。


「だとしても今回は使ってください。俺からのお願いです」


「ふふっ、優しいんですね」


 岬姉ちゃんは口に手を添えて小さく笑うと、クッションの上に正座した。

 な、なんて上品で美しいんだ……。一つ一つの動作がまるで絵みたいだ。


 俺は対面に正座して座る。


「蒼太君は足を崩してください。気を使わなくても大丈夫ですよ」


「そ、そうですか」


 綺麗になった岬姉ちゃんにまだ少し緊張してしまう。

 床に正座は足が痛かったのでお言葉に甘えて胡坐あぐらに変える。


「改めてこれからお世話になります、北条岬ほうじょうみさきです。炊事洗濯は勿論、世界中の飢えた女から命を懸けて蒼太君の事をお守り致します」


 岬姉ちゃんは両手を前に付き、綺麗な動作で頭を下げる。


「こちらこそお世話になります。ところでその岬姉ちゃ――岬さん」


 俺も小さく頭を下げる。


「ふふっ、昔みたいに岬姉ちゃんって呼んで下さい。それにもっと気楽に話して欲しいです」


「じゃあそうしま――そうするよ。ところで岬姉ちゃんはなんでメイド服なんか着てるの?」


「これはただの趣味ですので、お気遣いなく」


 メイド服を着るのが趣味なのか……。

 それにこの格好でここまで来たのかな?


「じゃあ早速ですが、荷解き手伝ってもらっていい?」


「ええ、勿論です」

 ◇


「ん?」


 荷解き中、岬姉ちゃんが小さく声を出した。


「どうかしたの?」


「これって……」


 岬姉ちゃんが両手で持っているのは俺のパンツだった。


「あっ!ご、ごめん!変な物触らせちゃって!その箱は俺が片付けるから、この箱お願い」


 持っているパンツを急いで取り、岬姉ちゃんの前にある箱と俺の箱を交換する。


「い、いえ。大丈夫です」


 岬姉ちゃんをよく見ると、表情は全く変わってないが少し鼻血が出ていた。


「岬姉ちゃん!鼻血出てるよ!大丈夫!?」


「大丈夫です。少しお手洗いに行ってきます」


 岬姉ちゃんは立ち上がり、トイレに向かって行く。


 しばらく経っても戻ってこなかったので、心配になり岬姉ちゃんの様子を見ようとトイレに向かう。


「あ、危なかった……。もう少しで蒼太君のパンツを顔に押し付けて、匂い嗅いでしまう所だった……」


 トイレの中から小さく岬姉ちゃんの声が聞こえた。


 岬姉ちゃんもやっぱり年頃の女の子なんだな~。

 母さんは大丈夫って言ってたけど、やっぱり岬姉ちゃんに襲われるかもな。

 でもこんなに綺麗な子に襲われるならむしろ大歓迎!


 俺は聞かなかったことにして、部屋に戻り荷解きを再開する。

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