第3話 恋愛テクニックは母にも効いた

 俺はあの忌々しい男子校から帰宅し、一直線に母さんがいる台所に向かう。

 台所を覗くと母さんがエプロンを付けて鼻歌を歌いながら、料理をしていた。


「あら、蒼太おかえりなさい」


 俺は母さんの前に立つ。


「母さん、お願い!俺、共学の学校に行きたい!」


 台所にいた母さんに頭を下げる。


「え!?急にどうしたの!?」


「い、いややっぱり女性とも少しは接点を持った方がいいかなぁと思って……」


 母さんは両手で俺の肩を掴む。


「蒼太!あなたどうかしたの!?あの女嫌いの蒼太が共学の学校に行きたいだなんて……。きっと変な病気に罹ったのよ!」


「母さん!俺は健康だよ!」


「そういえば今日の朝から別人みたいに物腰柔らかくなったわね……。やっぱり蒼太はおかしくなってるのよ!それと共学は絶対ダメ!」


「頼むよ、母さん!息子がこれだけお願いしてるんだから、共学に行かせてよ!」


「共学なんてダメよ!私の大事な一人息子の蒼太が大勢の女がいる所に行かせるわけにはいかないわ!」


「……母さん、それが本心だろ」


 母さんは昔から子煩悩だ。今まで俺がどれだけ憎まれ口を叩いても笑って許してくれていた。


「はぁ~、わかったよ。だったら諦めるよ……」


「ごめんね、蒼太。でもあなたの事を想って言ってるのよ」


 俺は台所を出て、とぼとぼと歩き自分の部屋に向かう。

 その時、ポケットの中のスマホが一瞬震えたので、スマホを開く。


『通知:キューピッドが更新されました』


「はぁ~前回この情報通りにやっても上手くいかなかったんだよなぁ。まあでも女心の情報はこのアプリでしか見れないし……」


 俺はすぐにキューピッドを開く。


「仲良くなった女性の攻略編?」


 新たな項目が出来ており、そこにはNEWの文字。

 早速タップして、情報を見る。


『ある程度仲の良い女性に対してはスキンシップはとても有効だ。感謝を伝える時、女性が何かをやり遂げた時。そんな時に行うスキンシップはズバリ【頭を撫でる】だ!最初は軽くポンポンと叩くように撫でてみよう!反応が良かったら髪を優しく撫でるようにしてみるのも効果的だ!しかしまだ会って日が浅い女性やまだ仲良くない女性に対して頭を撫でると、気持ち悪がられるので要注意』


「頭を撫でるか。いや、仲の良い女性なんかいねぇよ!」


 ついつい、アプリにツッコンでしまった。

 共学だったら仲の良い女子の一人ぐらい出来るかもしれないけど男子校なんだよ、俺は!


 さすがに道端で見ず知らずの女性に声を掛ける勇気はないし、声を掛けられても付いていくのはちょっと怖い。


 よく見ると『今日のアドバイス』という項目も追加されていたのでタップする。


『悩んでいるそこの君!困っていることがあったら女性に手伝ってもらうのも一つの手だ!頭を撫でながら感謝を伝え、その流れで自分のお願い事をしてみると……。このテクニックを上手く使えるようになれば女性は自分にできる事ならなんでもしてくれるので悪用厳禁!』


「何かタイムリーな情報だな……。どこかで俺の事見ているのか?仲の良い女性か、これ母さんにも効くのか?」


 ダメ元だ。このテクニックを使って母さんにもう一度頼んでみよう。


 俺は来た道を引き換えし、再度台所へと向かう。


「母さん」


「ん?蒼太どうしたの?あっ!何回言われても共学はダメよ!」


 俺は母さんの前に立ち、母さんを見下ろす。

 そして母さんの頭を優しく手のひらでポンポンと叩く。


「母さん、今まで冷たくしてごめんね。俺の事を一番に考えてくれている事、分かってるよ。いつもありがとう」


「へぇ?そ、蒼太?」


 母さんは顔が真っ赤になったと思ったら、俺の顔を見上げる。


「そ、そうたぁ!母さんあなたがいてくれるだけで幸せよぉぉ」


 母さんは泣きながら俺を強く抱きしめた。

 俺はアプリに書いてあった通りに髪を優しく撫でた。


「ねえ母さん、俺の事大切に想ってくれているのはわかるよ。でも俺にだってはあるし、母さんにはそれを応援してほしいんだ……。だから共学の高校に転校してもいい?」


「ぐすんっ、わかったわ。そんなに蒼太が言うなら共学に行かせてあげる。その代わりたまにでいいからこうやって頭を撫でてほしいわ」


「本当!?頭を撫でるくらいだったらいつでもするよ!ありがとう母さん!」


 す、すごいぞ!このアプリは本物だ!めちゃめちゃ効いたぞ!

 まさか母さんが共学の許可をするなんて・・・。


 これでやりたい事(美少女ハーレム)ができるぞ!


 俺は一度離れて、母さんの顔を見る。


「あとね、母さん!『私立桜小路学園』って知ってる?東京にある学校なんだけど、生徒はお嬢様がばっかりなんだって!俺その学校に行きたい!」


 俺はあらかじめネットで行きたい学校を調べていたのだ。


 私立桜小路学園。

 全国からお嬢様が集まり日本で最も敷居の高く、超名門高校だ。

 きっと美人で上品な女の子がいっぱいいるに違いない!


 東京はここの家から新幹線で2時間ぐらいだ。

 つまり一人暮らし!夢の一人暮らしだ!!


「は?」


 母さんの低い声が聞こえたが、俺は共学の転校の許可出たことに舞い上がってしまい、そのまま話を続ける。


「生徒の男女比率も1:10くらいだし、男は基本学費免除なんだってさ!学校は東京にあるから一人暮らしになっちゃうけど、いいよね!?」


「蒼太……。お嬢様ってどういう人種か知ってる?」


 母さんは目のハイライトが消え、無表情で話し始める。


「え?」


 俺はそこでやっと母さんの様子に気が付く。


「お嬢様はね、普通の女子高生とは違うのよ。あいつらは一年中発情期でいつでも猛獣のように男を狙っているのよ!そんな猛獣がいる学校になんか行かせるわけないでしょ!!それに高校生の男が都会で一人暮らしなんて何考えてるのよ!!!」


 その時の母さんの顔が般若に見えた。


 その後、一時間程頭を撫でて、何とか許可してもらった。

 このテクニックはやっぱり悪用厳禁だな……。

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