第23話 これが……家?

 キーンコーンカーンコーン


 本日最後の授業が終わり、学校のチャイムが鳴る。

 俺は椅子を引いてから立ち上がり、鞄を持つ。


「竜也、じゃあまた明日な」


「ああ、なんだ今日はもう帰るのか?」


 最近は少し竜也と喋ってから帰るが、今日はすぐに帰ろうとしたので引き留められた。


「ああ、今日は茜の家に遊びに行くからな」


 俺は茜に家に遊びに来ないかと誘われたので行くことにした。

 可愛い子に誘われて断る理由もないしな。


「か、神楽坂の家に……、き、気をつけてな」


 竜也が苦笑いを浮かべ、そう言った。


「別に気をつけるような事じゃないだろ」


「そ、そうか……。生きてたらまた明日な……」


「それどういう意味だよ……」


 俺は竜也の言葉に戸惑っていると茜が鞄を持って横から俺に声を掛けてきた。


「蒼太君、じゃあ行こうか!」


「うん」


 俺は首を縦に振り、茜に付いていく。

 前を歩く茜は鼻歌を歌い、それに合わせて体が小さく揺れている。


「茜、なんだか嬉しそうだね」


「うん!だって蒼太君が家に来てくれるんだもん!」


 茜はポニーテールを揺らしながら、振り返る。


「家に付いたら何しようかな~。まずはお母さんに紹介して、あと一緒にお菓子食べて~」


 茜は楽しそうに笑いながら、考え始める。

 その様子を見ていると俺まで楽しくなってくる。


 茜から家に遊びに来ないかと誘われたので、俺は行くことにした。

 可愛い子に誘われたら断る理由もないしな。


 ちなみに岬姉ちゃんにはあらかじめチャットで友達の家で遊んでから帰ると言ってあるので安心だ。


 校舎から出て、上を見上げる。

 空には厚みのある雲が覆っていて、今にも雨が降りそうだ。


「なんか雨が降りそうだね。傘持ってくるの忘れたな……」


「大丈夫だよ!迎えに来てくれるから!」


 そういえば茜は家から送迎で学校に来ていたな。


「前に一度、学校帰りに車に乗っている茜を見たことあったな」


「そうなの?全然気が付かなかった!」


「一応声掛けてみたけど全然こっち向いてくれなかったよ」


 俺は笑いながらそう言った。


「そうなんだ……、今だったら絶対蒼太君に気付くのに……」


 茜は俯きながら小さな声で呟いた。


「え?なんか言った?」


「ううん!なんでもない!あと今日は私の家から蒼太君の家に帰る時も車で送っていくから安心して!」


「本当?助かるよ!」


 もし雨が降っていたら、ずぶ濡れで帰るところだった。


 茜と一緒に校門まで歩いていくと、一台の黒い高級車が俺達の前に停車した。

 運転席のドアが開き、スーツを着た40代くらいの女性が車から降りて来た。

 その女性は俺たちの前に来て、深々と頭を下げる。


「初めまして。私は神楽坂家の使用人をしている、片桐由里かたぎりゆりと申します。気軽に由里ゆりとお呼び下さい」


 す、すごい!金持ちの家には使用人なんているのか……。

 高級車や使用人を見て、俺は気圧けおされる。


「は、初めまして。西井蒼太です」


 由里さんに向かって頭を下げて挨拶する。


「お嬢様から話は聞いております。さあどうぞ」


 由里さんは慣れた手付きで車のドアを開け、手で車に乗るように促す。


「あ、ありがとうございます」


 俺達は後部座席に乗り込むと、由里さんがドアを閉めて運転席に座る。


「それでは出発致します」


 由里さんはそう言うと車が動き出す。


 車の椅子がフカフカで、車窓がスモークがかっているせいか車の中が少し暗い。

 初めて高級車に乗ったので、緊張で全身に力が入る。


「ふふっ、蒼太君緊張しているの?」


 俺の様子を見て、茜が俺の顔を覗き込んでくる。


「えっ?う、うん少しね……。こんな車乗ったの初めてだから……」


「へぇ~そうなんだ!珍しいね!」


「珍しいかな?俺はああいう車しか乗ったことないよ」


 俺は窓の外に走っている普通の車を指差す。


「私は逆にああいう車乗ったことない!でも蒼太君が言うならあっちの方が乗りやすいのかな?」


「いや、絶対この車の方が乗りやすいよ。由里さんも運転上手だし」


「だって!良かったね、由里!」


「はい、蒼太様に褒めていただき光栄でございます」


「は、はい……」


 今のやり取りは何!?光栄とか言われたんだけど……。

 改めて茜は桁違いのお嬢様なんだなと思う。


「蒼太様、いつもお嬢様と仲良くして頂いてありがとうございます。蒼太様と出会ってからお嬢様は前より笑顔が増えた気がします」


 由里さんがバックミラー越しに俺を見て、微笑みながらそう言った。


「え?そ、そうかな……」


 由里さんの言葉に茜は首をかしげる。


「ここ最近、お嬢様は蒼太様の話ばかりしているんですよ?この前もチャットが来なくなったと言って大泣きしていました」


「ちょ、ちょっと由里!蒼太君の前でそんな事言わないでよ!」


「ふふっ、すみませんお嬢様」


「もう!」


 茜は頬を膨らませながら鼻をふんと小さく鳴らす。


 岬姉ちゃんと喋っていた10分の間に50件チャットが来てた時のやつかな?


「ごめんね。次からちゃんと返すようにするよ」


「あっ!全然気にしないで!私もチャットが少し来ないだけで不安になっちゃうなんて……。ちょっとパニックになっただけだから!次からはおとなしく待ってるね」


「それでも茜を不安にさせないようになるべく早く返信するよ」


 不安にさせないようにというか普通に怖いからすぐ返信するようにしよう。


「蒼太君……」


 茜は頬を赤らめ、トロンとした目で俺を見つめる。

 可愛かったので茜の頭を撫でる。


「えへへっ……」


 茜は嬉しそうにはにかんで笑う。


「驚きました……。本当に女性に対してお優しいのですね」


 今のやり取りを見ていた由里さんが目を見開いているのがバックミラーから見えた。


「ね?言ったでしょ!?蒼太君は全員の女性に優しいんだよ?」


「確かに、演技で今のやり取りはできませんね……」


 まあこの世界の男はみんな冷たいからな。由里さんが疑うのも無理はない。


「なんだか安心しました。お嬢様は幸せ者ですね」


「うん!」


 しばらく車に乗っていると、車がゆっくりと停車した。


「さあ、着きましたよ」


 由里さんがそう言ったので前を見ると、大きな両開きの扉があり、その扉がゆっくりと左右に開く。

 もう一度車が発進して、車ごと扉の中に入る。


 窓の外を見ると、綺麗に整備されている公園のような所を走っていた。


「え?家はどこにあるんですか?」


「あはは、何言ってるの蒼太君!ここはまだ庭だよ?家はまだ少し先!」


 俺の言葉を聞いて、茜は楽しそうに笑った。


 え?俺なんか面白いこと言った?


 由里さんが言ったのは家の敷地内に着いたって意味かな?ていうか庭広すぎでしょ……。


 すると、車が停車して由里さんが車のドアを開けてくれる。

 俺は車から降りて、周りを見渡すと大きな建物が立っていた。


「この建物なに?」


「あはは、蒼太君って本当に面白いね!家に決まってるじゃん!」


「これが……家?」


 家っていうか屋敷なんだけど……。

 その辺にある学校の体育館より広いじゃねえか!!





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