第48話 三人の四大財閥
「はぁ~」
ここはみんなで昼ご飯を食べている、いつもの空き教室。
俺は岬姉ちゃんが作ってくれたお弁当を食べながら大きなため息を吐く。
「どうしたの?なんか元気ないね」
隣でお弁当を食べていた茜が、俺の顔を覗き込みながらそう言った。
「いや、ちょっと色々あってね……」
今日の朝、早速葵さんが俺に接触してきた。
これから毎日この調子かもしれないと思うと憂鬱な気持ちになる。
「生徒会長の事でしょ?岬さんから聞いたよ」
そういえば岬姉ちゃんが茜と莉乃にも情報共有するとか言ってたな。
「うん……」
「待たせたわね」
「あっ!莉乃ちゃん」
莉乃がお弁当を持って教室に入ってきて、俺の隣に座る。
「蒼太、何だか元気ないわね」
莉乃は俺の顔を見てそう言った。
「生徒会長の話をしてたんだ~」
茜が苦笑いしながら莉乃に言う。
「私も岬さんから聞いたわ。大変なことになったわね」
「二人は葵さんの事知ってるんでしょ?前に話した時、幼馴染だって言ってたよ」
「「葵さん?」」
二人はそう言って、俺を睨んでくる。
「え?何?」
「莉乃ちゃん、下の名前で呼んでるよ」
「そうね。これは思ったより警戒しないといけないわね」
二人が俺を無視してひそひそと話し始める。
「ど、どうしたの?」
俺は戸惑いながら二人に声を掛ける。
「何でもないわ。たしか生徒会長と幼馴染かって事よね?」
「うん」
「子供の頃はよく遊んでたよ!でも最近は全然接点ないな~」
「そうね、昔は四人でよく遊んでたわね。中学が別々だったからそれがきっかけで遊ばなくなったわ」
「中学が一緒だったのは私と莉乃ちゃんと結愛ちゃんだけだったもんね」
茜の言う結愛ちゃんは竜也の妹の事だろう。
「結愛は元気かしら?確かアメリカに行ってるんでしょう?」
「ううん!最近帰ってきたみたいだよ!」
「久しぶりに話したいわね。よかったら今度ご飯行きましょうよ」
「そうだね!だったら結愛ちゃんに連絡して――」
莉乃と茜が楽しそうに話していると勢いよく空き教室のドアが開かれた。
「みんなで昔話をしているのか?だったら私も混ぜてくれ、仲間外れは寂しいじゃないか」
そこに立っていたのは葵さんだった。
葵さんは笑いながら、ゆっくりと教室に入ってくる。
「葵さん?なんでここに……」
すると茜と莉乃が立ち上がり、俺と葵さんの間に立つ。
「莉乃ちゃん……」
「わかってるわ」
二人はお互いに目を合わせて首を縦に振った後、葵さんを睨みつける。
「二人とも久しぶりだね。久々の再開だっていうのにそんな怖い顔で見ないでくれ」
葵さんは二人の顔を見ても、一切態度が変わらず笑顔のままだ。
「何しに来たんですか?会長」
「私達は三人で楽しくご飯を食べていたの。邪魔しないでほしいわね」
二人も一歩も引かずに葵さんにそう言った。
「会長か……。昔みたいにお姉ちゃんとは呼んでくれないのか?茜」
「……」
葵さんは茜に近づき、頭を優しく撫でる。
「茜、お母さんに似て美人になったな。肌もすべすべだ」
葵さんは茜の輪郭を触り、そう言った。
「ス、スキンケアにはこだわってますから」
「ふふっ、綺麗だよ。また子供の頃のように仲良くしようじゃないか」
「べ、別にいいですけど……」
茜が頬をほんのり赤くさせながらそう言った。
「茜!?」
莉乃が目を大きく開けて、茜の方を向く。
「莉乃はいつまで経ってもツンツンしてるな」
すると今度は莉乃の方に近づいていく。
「な、なによ……」
「綺麗な黒髪だ。こんな美しい髪は初めて見たよ」
葵さんは微笑みながら、莉乃の長い黒髪を優しく触る。
「そ、そう?まぁ、髪には人一倍気を遣ってるわ!」
莉乃は口をにんまりとさせながら腰に手を当てて、胸を張る。
「二人とも綺麗になったね。同じ四大財閥の幼馴染として誇らしいよ」
「わ、私も!お姉ちゃんの事かっこいいって思ったよ……」
「まあ、私も葵さんの事は尊敬しているわ」
二人は頬をほんのり赤くさせながら言う。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。また何かあったら遠慮なく頼ってくれ」
葵さんは両手で二人の頭を撫でる。
「す、すごい……。あの二人を一瞬で口説いたのか?」
素直にすごいと思ってしまった。
一瞬で女性の努力している所に気付いて、そこを褒める。
俺も出来るようにならないとな。
「負けた……。ふっ、俺もまだまだだな」
俺は唇の端を吊り上げ、両手少し上げながら手の平を葵さんに向ける。
「何を言っているんだ、蒼太君」
「えっ!?」
今度は俺の横に座り、俺を見つめてくる。
「弱気になってどうするんだ、君らしくない」
「そ、そうですかね?」
「私も女性にはかっこいいと言われるが、所詮は女だ。どうやっても君のような魅力的な男性には叶わないよ」
「……」
「もっと自信を持っていいんだ」
葵さんの言う通りだ。
俺は周りの女性を幸せにするために、こんな所で諦めるわけないはいかない!
「そうですね!俺、頑張ります!」
「その意気だ!しかし……まだ足りないな」
すると葵さんはポケットから例の白い首輪を取り出して、俺に渡す。
「今度こそ私に首輪を付けてくれ。私に屈辱を
「えっ?」
「さぁ早く!私に首輪を付けて『お前は俺のペットになるんだ』と言ってくれ!」
「そんな事で自信が付くわけないじゃないですか!それに岬姉ちゃんにやめろって言われてるんです!首輪は二度と付けません!」
俺は首輪を葵さんに返そうとするが、押し返される。
「何を言っているんだ!私だって君になって欲しいんだ!」
「どういう意味ですか!?何が何だか分かりません!」
「とぼけなくてもいい。君もなりたいんだろう?私のご主――」
「やめなさい!!」
ドアの方から聞こえた声が聞こえて、全員が声が聞こえた方向を見る。
そこには汗をかいて、肩で息をした岬姉ちゃんが立っていた。
「み、岬姉ちゃん!」
「はぁ……はぁ……、やってくれましたね。葵」
岬姉ちゃんは葵さんを睨みながら、ゆっくり歩いてくる。
「まさか三本の縄できつく縛りつけたのにそれを解くとはな。流石は岬だ」
「え?縄?」
俺は葵さんの方を見る。
「茜、莉乃。あなた達は蒼太君が襲われているのに何故何もせず突っ立ってるんですか?」
「えっ?そ、その……」
「……」
二人は気まずそうに岬姉ちゃんから目をそらした。
「まさか葵如きに惑わされるとは……、二人とも後で説教です」
「うっ、ごめんなさい」
「わ、悪かったわ」
二人は冷や汗をかきながら、岬姉ちゃんに向かって頭を下げる。
「さて、葵。覚悟は出来てますか?」
「ふふっ……また罰か」
葵さんは岬姉ちゃんの言葉を聞いて何故か笑い出す。
「岬に酷い事をしたのは認めよう。ただし顔だけはやめてくれ。それ以外ならどんな屈辱でも暴力でも喜んで受けようじゃないか」
「「「「えぇ……」」」」
葵さんの言葉を聞いた俺達は顔を引きつらせながら声を出した。
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