第49話 今日から私のご主人様だ!

「はぁ~」


放課後、自分の机に突っ伏してため息をつく。

今日は葵さんにしつこく絡まれて少し気疲れをしてしまった。


「今日は早く家に帰ろ」


「おい、蒼太」


俺が鞄を持って立ち上がろうとすると竜也に話しかけられた。


「何だか……今日は……疲れてるな、どうか……したのか?」


「いや、竜也の方こそどうしたんだよ……」


竜也の顔は真っ白で、頬が痩せこけてる。

目の焦点も合ってなくて、声も細い。


「俺のことは……いいんだ……」


「いや、良くないだろ!」


「そろそろ……帰らないと……また明日な」


竜也は鞄を持って立ち上がり、ふらふらと歩いていく。


「えっ!?ちょ、ちょっと!」


あれは相当疲れているな……。

まともに話ができなくなっているみたいだ。


「蒼太君!一緒に帰ろ!……ってどうかしたの?」


茜が立ち尽くしている俺を見て、首をかしげる。


「いや、何でもないよ。岬姉ちゃんは?」


「岬さんは生徒会の仕事で忙しいから一緒に帰って欲しいって言われたの!今日は私が会長から守ってあげる!」


茜は自分の胸を軽く叩いてそう言った。


「この前みたいに葵さんに上手いこと言いくるめられるんじゃないの?」


俺がからかうように茜に言う。


「そ、そんな事ないよ!次は大丈夫だから任せて!それとも私が一緒だと不安?」


「あはは、冗談だよ。一緒に帰ろうか」


俺は笑いながら茜の頭を撫でる。


「うん!」


俺が茜と帰ろうとすると一人の女子生徒が寄ってきた。


「神楽坂さん!なんか先輩が呼んでるよ」


「えっ!?そうなの?」


「なんか緊急の用事みたい……」


「わ、わかった!ごめんね蒼太君、すぐ戻ってくるね」


「ああ、靴箱の辺りで待ってるよ」


茜が女子生徒に連れられて教室を出ていったので、俺は靴箱に向かう。

教室を出て、廊下を歩く。


「えっ!?」


すると横の扉が急に開いて、そこから出てきた手に体を掴まれる。

そのまま扉の中に引きずり込まれ、尻餅を付く。


「痛っ!ここは……」


周りを見渡すと、細長い長方形の部屋に埃を被ったロッカーが壁に沿うように置かれていた。

ドアの前には見覚えのある人が立っていた。


「ここは使われていない昔の女子更衣室だ」


ガチャ


その人はドアのカギを閉め、振り返る。


「やっと二人きりになれたね蒼太君」


「あ、葵さん……」


葵さんはほんのり頬を赤くさせ、俺に向かってゆっくり歩いてくる。


「君は本当にみんなから愛されてるんだね。いつも必ず周りには恋人がいる」


俺は葵さんから逃げるように尻を引きずりながら後ろに下がる。


「でもようやくこれで二人きりだ」


葵さんの歩みは止まらず、ゆっくりと歩を進める。

俺も後ろに下がるが、遂に背中が壁に付いてこれ以上距離を取れなくなってしまった。


「あはっ!嬉しいよ。今日から君には私のご主人様になってもらえるのだからね」


葵さんの瞳のハイライトが消え、黒く染まっていく。


「ご、ご主人様ってどういう意味ですか!こんな事したら必ず岬姉ちゃんが――」


「助けには来ないよ」


「えっ?」


「岬は今、校外活動で一時間は帰ってこない」


「そ、そんな……だったら茜が――」


「茜も私の知り合いが足止めしているからここには来ないよ」


俺は葵さんの言葉を聞いて、愕然とする。


「はぁ……はぁ……」


葵さんはなまめかしい吐息を吐きながら、足を止めずそのまま腰を曲げ、四つん這いで俺に近づいてくる。


「すぐに楽になる」


「むぐっ!」


すると葵さんは俺の頬を両手で支え、口の中に何かを入れて俺の口を手で押さえる。


「落ち着きたまえ。すぐに溶ける」


口の中の何かが一瞬で溶けるようになくなり、苦みが口に広がる。

すると葵さんが俺の口から手を放した。


「ぷはっ!い、今のは何ですか!?」


「大丈夫、変な物ではない。ただ少し……」


すると心臓がドクンドクンと強く鼓動し、体が熱くなる。


「興奮しやすくなるだけだ」


「はぁ……はぁ、これは何なんだ!?体が熱い!」


すると葵さんが俺の手を取って、自分の足を触らせる。

手から女性特有のもちもちした感触が伝わってくる。


「触り心地抜群だろう?自慢の足なんだ」


「はぁ……はぁ……」


俺は思わず葵さんの足を撫でる。


な、なんだこれ?頭がぼーっとして葵さんの声しか頭に入ってこない。


俺が手を上に持っていき、葵さんのお尻の近くを触ろうとする。


「おっと、ここまでだ」


葵さんは俺の手を掴み、耳元でそう言った。


「私がこれ以上体を触らせるのはご主人様だけだ」


ご主人様?


「私の体をもっと触りたいだろう?胸は小さいがスタイルには自信があるんだ」


制服の隙間から葵さんの黒い下着が見える。


「はぁ……はぁ……」


心臓が激しく鼓動し、呼吸が荒くなる。


「蒼太君……これを」


葵さんは白い首輪を俺に差し出す。


「これを首に付けてくれ、そうすれば君は私のご主人様だ。つまり私は君の物になるのだ」


「葵さんが……俺の物?」


「そうだ。私を殴ってもいい。裸にして辱めるのもいい。子供を孕ませてもいいんだ」


俺は葵さんの目を見つめる。


ああ……こんな綺麗な人を好きにできるんだったら……。


俺は首輪を受け取り、葵さんの首に近づける。


「そうだ……それでいいんだ!」


ガチャン


首輪のベルトが閉まる音が部屋に鳴り響く。


「あはっ!」


すると葵さんは上半身を起こし、自分の体を抱きながら声を出す。


「つ、遂に私はご主人様を見つけたのだ!野良犬から蒼太様の忠犬になることができた!」


葵さんはそう言って、俺に口付けをしてきた。

強引に舌を入れられたので、俺も思わず舌を絡めてしまう。


「は、早く命令をくれ……ください!もう我慢できません!」


やばい……頭が上手く働かない。


「裸になれ」


口が勝手に動いてるみたいだ。


「はい!」


葵さんは慣れた手つきで、服を脱ぐ。


「し、下着はご主人様に――」


「うるさい。早く脱げ」


「は、はいぃぃ!」


すると葵さんは黒い下着を脱ぎ、生まれたままの姿を俺の前に晒す。

その姿を見て我慢できなくなり、葵さんを押し倒す。


「嬉しい……。私が決めたご主人様と一つになれるのですね……」


葵さんはそう言って、俺の首の後ろに両手を回す。

お互いの顔が近づいていき、口と口が重なりあう。


バーーーーン!!


するとドアが思いっきり吹き飛ばされ、部屋の中に倒れる。


「な、なんだ!?」


俺達は同時に首を回し、ドアの方を見る。


「葵……コロス!!」


そこには鬼の形相をした岬姉ちゃんが仁王立ちで立っていて、ドア枠からひょっこりと顔を出した莉乃が目を丸くしてこっちを見ていた。


「こ、これはすごい状況ね……」

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