第50話 岬の怒り

「な、なぜ岬が学校にいるんだ!?」


葵さんは目を大きく開いて、岬姉ちゃんを見る。


「葵……今度という今度は許しません!」


岬姉ちゃんが葵さんを睨みながら、部屋に入ってくる。


「しゅ、修羅場だわ……。私と茜が揉めた時より荒れてるわね」


葵さんと岬姉ちゃんの一触即発の状況を見て、莉乃が顔を引きつらせる。


「いや、岬……悪いが今回は私も引くわけにはいかないんだ」


葵さんは立ち上がって岬姉ちゃんを睨む。


「あなたが今まで素直に引いた事ありましたか?」


「いや、ないな」


岬姉ちゃんはふぅと小さく息を吐く。


「いつも私は葵のわがままを聞いていました。でも今回だけは絶対に許さない!」


岬姉ちゃんは拳を握り、構える。


「こんな岬を見るのは初めてだ……、流石にちょっと怖いね」


葵さんは体をブルリと震わせ、冷や汗をかく。

岬姉ちゃんは横目で床に座っている俺を見る。


「蒼太君、その様子だと葵に何かされたみたいですね……」


目の焦点が合わず、岬姉ちゃんをぼんやり見上げている俺を見てそう呟いた。


「まあまあ、落ち着いてくれ。私はただ蒼太様に――」


「その名前を気安く呼ぶなぁぁぁ!!」


「がはっ!」


すると岬姉ちゃんは葵さんのお腹を思いっきり蹴る。

葵さんは壁に背中を打ち付けられ、床に座って咳をする。


「ごほっ!……なるほど、これは本気みたいだね」


葵さんは自分のお腹を押さえながら、岬姉ちゃんを見る。


「ちょ、ちょっと岬さん!やりすぎよ!」


莉乃が後ろから岬姉ちゃんに向かってそう言った。


「この女はこのくらいしないと反省しません。それに二度と蒼太君に近づかないようにしなければいけません」


「だ、だけど……」


「あなたも私の邪魔をするんですか?」


岬姉ちゃんは莉乃を睨む。


「うっ……い、いえ。そのつもりはないわ」


莉乃は後ずさりしながらそう答える。


「そうですか。だったらそこで見ていて下さい。私が片づけますから」


そう言って岬姉ちゃんは葵さんに近づき、首を掴む。


「うぐっ」


そのまま自分の胸くらいの高さまで上げる。


「た、頼む……。顔だけはやめてくれないか?」


「いえ、今回は顔を殴ります。傷の一つや二つは覚悟してください」


岬姉ちゃんはそう言って、胸ぐらをつかんでいる逆の手を握って振り上げる。


「だ、ダメだ……。そんな事をすれば岬が……」


「関係ありません。蒼太君を守るためなら私は天羽家を――」


「み、岬姉ちゃん?」


頭がボーっとし、何も考えられないまま名前を言う。


「「えっ?」」


葵さんと岬姉ちゃんが同時に俺の方を見る。

俺はゆっくりと立ち上がり、岬姉ちゃんに後ろから抱き着く。


「そ、蒼太君!?」


「おっとこれは……」


俺は後ろから岬姉ちゃんの胸を触る。


「きゃっ!」


すると岬姉ちゃんは葵さんから手を放す。

葵さんは力なく腰から床に落ちる。


「はぁ……はぁ……岬姉ちゃん!」


俺は岬姉ちゃんの胸を強く揉む。


「い、いやぁ……」


岬姉ちゃんの頬が赤くなり、口から涎が流れる。


「ほう、これは絶景だな。蒼太様に出会ってから私の知らなかった岬がどんどん見つかるな」


葵さんはニヤリと笑いながら岬姉ちゃんを見上げる。


「あふん……。あ、葵!蒼太君に何したのですか!?」


葵さんはそれに答えず、ふっと笑った。


「何がおかしいんですか……そ、そこ触っちゃダメれすぅ!」


岬姉ちゃんは生まれたての小鹿のように、足を内股にしながらプルプルと震わせる。


「ちょ、ちょっと蒼太!胸は私が一番だって言ってたじゃないの!触るなら私の胸も触りなさいよ!」


すると莉乃が俺に近づいてきて、俺の手を自分の胸に押し付ける。


「そうよ、それでいいのよ……きゃあ!」


すると莉乃は体をビクンとさせた。


「ちょ、ちょっと!先端はそんなにいじっちゃ……いやぁん!」


「り、莉乃!あなた何しに来たですか!?」


「岬さんばっかりずるいわ!私も蒼太に触られたかったの!」


二人は俺に胸を揉まれながら、言い合いを始める。


「これは興味深い……胸を揉まれながら、口で揉めてるじゃないか」


葵さんは顎に手を当てて、その様子を下からじっと見る。


「こ、こんな蒼太君は初めてです……葵は一体何をしたんですか!?」


「ちょっと薬を飲ませただけさ」


「薬!?あなたそこまでして……」


「勘違いしないでくれ。そんな変な薬ではない、俗にいう媚薬というやつさ」


「び、媚薬!?」


「効果は約30分だけだが、効果は見ての通りだ」


葵さんは俺を指差しながらそう言った。


「葵!そこまでして蒼太君に関わろうとするなんて許せません!」


「岬……握った拳が緩んできているぞ?」


「そ、それは蒼太君が……いやん!」


「良かったじゃないか。そうやって私に対する施しのおこぼれを貰えたんだ、感謝して欲しいくらいだね」


「施し?何を言って――」


「これを見たまえ」


葵さんはそう言って、自分の首に付いている白い首輪を指さす。


「そ、それは!!」


「見ての通り蒼太様は私に首輪を付けたんだ。これで正式なご主人様というわけさ」


「蒼太君!それだけはダメって言ったじゃないですか!」


「はぁ……はぁ……」


岬姉ちゃんは俺にそう言うが、今の俺は何も考えられなかった。


「ふっ、そういう事だ岬。では私は家の用事があるんでね、そろそろ家に帰るとするよ」


葵さんはそう言うと、お腹を押さえながらゆっくりと立ち上がり部屋を出て行く。


「待ちなさい!」


岬姉ちゃんは追いかけようとするが俺が強く抱きしめていたので、前に進めなかった。


「蒼太君もいい加減にしてください!私もそろそろ我慢の限界です!本当に襲いますよ!?」


岬姉ちゃんは俺の耳元でそう言うが、俺は手を一切緩めない。


「あぁん、いやぁ!そこ好きぃ」


「莉乃!いつまでそうやって胸を触られているのですか!?しっかりしなさい!」


「でも岬さん、今がチャンスよ!このまま二人でするわよ」


「こんな汚い場所は嫌です!それに初めては二人きりでシたいです!」


「ここまで蒼太が積極的になることなんてないわ!」


「そうですけど……きゃ!」


俺は岬姉ちゃんと莉乃を押し倒す。


あ、頭が痛い。

それに意識が……。


「つ、遂にこの時が来たわね」


「は、初めては優しくして下さい」


俺は首を下げ、二人の顔に近づける。


ダメだ……。

もう限界。


俺はそのまま、頭を床に打ち付け、体がだらりと倒れる。


「蒼太君!?大丈夫ですか?」


「蒼太!?しっかりしなさい!」


ぼんやり上から二人の声が聞こえてくる。


すると部屋の外から足音が聞こえて、茜が部屋に入ってくる。


「ご、ごめん!お待たせ……ってどういう状況?」


俺はその言葉を聞こえたのを最後に意識を失った。



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