第77話 二人だけの世界
「茜!?」
思わず大きな声を出してしまう。
俺の両手は手錠に繋がれ、茜は俺を見下ろしている。
一切助ける素振りを見せない茜を見て、茜がこれをやったのか?という信じたくない推理が脳裏によぎる。
「こ、これどういう状況!?それにこの手錠は……」
俺はそう言いながら手を動かすが、茜は黙って俺を見下ろしたままだ。
「あはっ!」
すると茜は短い声を出して笑い、ベッドに腰掛ける。
茜は俺のお腹を優しく撫でながら、口を開く。
「鉄で出来てるからいくら動かしても取れないよ」
「あ、茜がやったのか!?」
「うん」
「何でこんなことを――」
茜は俺に顔を近づけ、動けない俺に強引にキスをした。
茜の温かい舌が俺の口の中で動く。
「ふふっ、これで蒼太君は私のモノだね」
恐怖で体が動かなくなり、茜を見上げる事しか出来なくなっていた。
なぜ茜がこんなことをするんだ?
「こ、ここはどこなんだ?」
「ここは私の家の地下室だよ。前までただの物置だったんだけど、蒼太君のために片付けたんだ~」
よく見ると所々に蜘蛛の巣があったり、部屋の隅にひびが入っていた。
茜の目は光を一切通さないほど黒く染まっており、その目を見れば見るほど怖くなっていく。
「茜、頼む。この手錠を外してくれ……」
震える喉を無理やり開いて、なんとか声を絞り出す。
「それはダメだよ。だって今外したら逃げちゃうでしょ?」
「意味がわからない……だって茜と俺は付き合ってて――」
「何もわかってない!!」
茜は声を荒げ、それを聞いた俺は思わず体が飛び跳ねた。
「蒼太君は私のこと何も分かってない!!何でいつも蒼太君は私以外の女とデートしてるの?何でいつも他の女のこと考えてるの?何でいつも私以外の女のこと見てるの?何で私だけを愛してくれないの?私に不満があるの?私のこと嫌いなの?」
茜は闇深い目で俺を見下ろしながら、早口でそう言った。
「嫌いなんかない……。だって俺は茜を愛してて――」
「じゃあ私以外の女とはもう会わないで」
「えっ!?」
前はみんなと仲良くしたいと言っていた、そのために頑張りたいって。
なのになぜ茜はそんなことを言うんだろう……。
「やっぱり蒼太君に私以外の彼女がいるなんて耐えられない。蒼太君を私だけのモノにしたい」
茜は俺に巻き付くように添い寝する。
そして茜は俺の耳元で囁いた。
「蒼太君を『独占』したい」
そう言って俺の耳たぶを甘噛みした。
「私の家はお金いっぱいあるから、蒼太君が欲しい物全部あげるよ?今は汚い部屋だけど、ちゃんと住みやすく改装するし、美味しい物いっぱい作ってあげる」
俺は不安と恐怖で体が固まってしまい、茜の言葉に耳を傾けることしかできなかった。
「蒼太君……愛してる。私より蒼太君のこと愛してる女なんていないよ?だから他の彼女なんていらないよね?」
俺は生唾を飲み、なんとか声を絞り出す。
「で、でも莉乃とか結愛ちゃんはどうするんだ?」
「他の女の名前を口にしないで!!」
茜はそう言って俺の肩を強く掴む。
爪が肩に食い込み、チクチクとした痛みを感じる。
「私は蒼太君さえいれば他には何もいらない。莉乃ちゃんだって私には必要ない。どうせこんな事したら私とはもう仲良くしてくれないと思うし」
すると茜の手の力が緩み、肩を優しく撫でてくる。
「ごめんね、つい力が入っちゃって……」
茜はそう言うと俺の肩を舌で舐めてくる。
舌が肌の上で動き回り、少しくすぐったい。
「蒼太君の血……。美味しい」
「あ、茜……どうしたんだよ!?最近おかしいよ!?」
「おかしい?これが本当の私なんだよ」
「そんな事ない!茜は笑顔が可愛くて、優しくて、明るい女の子だよ!」
すると茜は上半身を上げて、俺の顔をじっと見ると笑顔になった。
「はい!蒼太君が好きな私の笑顔!今でも可愛いでしょ?」
その笑顔を見た瞬間、心臓を強く締め付けられた感覚になった。
いつも見ていた大好きな茜の笑顔、それなのに何故か怖いと思ってしまった。
俺は何も言えず、茜の顔を見ることしかできなかった。
「……」
何も言わない俺を見た茜から笑顔が消えた。
「これが私、神楽坂茜なの。蒼太君を独占したくてたまらない、最低な女なの。あーあ、最初からこうしておけば敵は岬さんだけだったのにな~。他の四大財閥が相手だと正直不利なんだよね~」
茜の言う通り、俺をここに閉じ込めていたら他の彼女達が間違いなく俺を探してくれるだろう。
それまではこのまま我慢するしかないのか……。
「でも諦めないけどね。私はもう決めたんだ。蒼太君を私のモノにする、そのためならなんでもやってやるってね。本当は蒼太君が『私以外の女は必要ない』って言ってくれるのが一番だけど」
「茜……今自分が何を言ってるのか分かってるのか?このままだと他の四大財閥と敵対することになるんだぞ!?」
「うん、それでもいいよ。蒼太君を独り占めできないんだったら生きてる意味ないし」
「えっ?」
「今までみたいに我慢したまま蒼太君と付き合ってたら私はいつか自殺してたよ。だって死ぬほど苦しいもん」
「そ、そんなに苦しいなら話してくれたって――」
「言ってどうなるの?もし『私以外、彼女を作らないで』言ってたら他の彼女と別れてくれるの?」
「……」
きっと無責任に『別れないでみんなで仲良くしていきたい』と言っていただろう。
「私は他の四大財閥の人達と共存していくのは無理。だって蒼太君を独り占めしたいんだもん。親友でも幼馴染でも優しい年上の友達でもダメ、私以外の彼女を作って欲しくないもん」
俺は茜のことを何一つ見えていなかったかもしれない。
茜は立ち上がって、俺を見下ろす。
「でもそんな簡単に他の彼女達を諦めるなんて無理だよね?だから私以外の女が必要なくなるまではここで暮らしてね」
茜はそう言って部屋のドアに向かって歩き出す。
「あ、茜!頼む、ここから出してくれ!」
「大丈夫。しばらくすればこの部屋が蒼太君の世界になる。そしてその世界にいる女は私だけ……。ふふっ、これから楽しみだな~」
茜は鼻歌を歌いながら部屋から出て行き、ドアを閉めた。
「お、俺はどうしたら……」
ブー
するとベッドの横から音が聞こえた。
首を横に向けて音の方を見ると、そこには小さいサイドテーブルがあり、その上には俺のスマホが置いてあった。
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