第78話 ラブメーターver2.0

「これって……まさか俺のスマホか!?」


俺は手錠が付いた不自由な腕で何とかスマホを取る。


「よし!やっぱり俺のスマホだ。これでみんなに連絡できる!」


そう思ってスマホを開く。


「ダメだ……。チャットアプリが消されてるし、電波も届いてない」


スマホの右上にはっきり『圏外』と表示されていた。

それに元々入っていたアプリが全部消されている。


「茜……。まさかスマホを初期化したのか!?」


連絡先やカレンダーの予定がすべて消えており、買ったばかり状態だった。

ただ一つを除いては……。


「このアプリ、やっぱりキューピッドだ……。どうしてこのアプリだけは無事なんだ?」


俺が前の世界でダウンロードした恋愛攻略アプリ。

確かアプリの通知は切っていたはずだが、先程キューピッドの通知が来ていた。


「なるほど。スマホが初期化されたから同時に通知設定も初期化されたのか」


ここは圏外なのにキューピッドは更新されていた。

ということはインターネットとは関係なく稼働するアプリなのだろう。

ますます不思議なアプリだな……。


俺はキューピッドを開くと『WARNING!』と表示され、自動的にラブメータの画面に切り替わる。


『お詫び:ラブメーターの数値の説明が未記載になっておりましたので修正致しました。↓ラブメーターの説明書』


★病みハート

ハートは女性がどれだけ病んでいるかを表示してくれます。

【見方】健全(ピンク)→微病(黒みがかったピンク)→病(赤紫)→闇(黒)

※女性の病み度が闇の場合、愛ゆえに非人道的な行為をする可能性があります。そうならないように早めに対処していきましょう!


★好感度メーター

この数字は好感度を表示しています。

【見方】(現在の好感度)/(最大の好感度)

※最大の好感度より現在の好感度が超えている場合、女性を魅了し過ぎているという事なので注意!

魅了しすぎていると病み度が上がりやすくなりますので、仲良くするのは程々に……。


定期的にラブメーターをチェックして、女性達と良い関係構築をしていきましょう!


「……」


なるほど……。

このハートの色は病み度だったのか。


アプリの恋愛テクニックを安易に使うのは危険だと思ったから、なるべく使わないよう心掛けていたつもりだ。

だがラブメーターだけでも確認しておくべきだった。


頼む!病み度が健全になっててくれ!

俺はそう思いながら画面をスクロールしていく。


 ホウジョウ ミサキ 

 病み度:健全(ピンク)

 好感度:120/100


 カグラザカ アカネ

 病み度:闇(黒)

 好感度:180/100


 キサラギ リノ

 病み度:微病(黒みがかったピンク)

 好感度:130/100


 アマバ アオイ

 病み度:微病(黒みがかったピンク)

 好感度:120/100


 サイエンジ ユア

 病み度:微病(黒みがかったピンク)

 好感度:130/100


「そ、そんな……」


俺は思わずスマホを落としてしまう。


「俺の付き合い方が悪かったのか……。いくら貞操逆転世界とはいえ、俺は複数の彼女を作るべきじゃなかったのかもしれない」


茜だけじゃない、もしかしたら他のみんなも苦しんでいたのかもしれない。

俺はそれに気付いてあげられなかった。


貞操逆転世界で女の子達からちやほやされ、可愛い子を彼女にできたことで調子に乗った結果がこれだ。

岬姉ちゃんから四大財閥の女性は普通の女性とは違う、だから付き合うのは難しいと何度も言われていた。

だが俺はその忠告を破り、愛さえあればみんな幸せにやっていけると思っていた。


だが現実はそう甘くない。

茜のように貞操逆転世界で生まれ育った女性でも浮気は許せない娘もいる。

莉乃のように彼女達の中で一番にならないとダメな娘もいる。

葵のように男からの承認を受け取った上でそれを崩して欲しい娘もいる。

結愛のように過剰な愛情がないと元気にならない娘もいる。


岬姉ちゃんは四大財閥の女性の特有の暴走はない。

でも嫉妬はするし、寂しさを感じることだってある。


だけど俺が彼女達に使ってあげられる時間がいっぱいあるわけでもないし、複数の彼女がいる以上、四大財閥の女性達全員を100%満足させてあげる事もできなかった。


でもこんな俺の事を好きになってくれたんだ。

今更別れるなんてできないし、俺だってみんなの事が好きだ。


だったら俺はこれから先どうすればいい?

俺にできることはあるのか?


俺はそんな事を考えながらベッドに背中を預け、コンクリートの天井を見つめる。


「そもそもなんで俺は貞操逆転世界に来たんだろう……」


ピコンッ


独り言を呟くとそれに返事するようにスマホの通知が鳴った。

俺は寝たままスマホを見る。


『通知:キューピッドが更新されました!』


どうせやることもなかったので、キューピッドを開いてみる。


『女性の病み度が『闇』になった場合の対処法!』


「えっ!?」


俺は思わずベッドから飛び起き、スマホをタップする。


『女性の病み度が『闇』になった場合の対処法は【何も考えず彼女の言う通りになり、奴隷として生きていく】のみ。残念ながら病み度が『闇』になってしまった女性は二度と戻りません。あなたがその女性から逃げようとしても地の果てまで追いかけてくるでしょう』


「そ、そんな……」


俺は絶望感で暗闇に落ちていくような感覚になる。


キューピッドの情報は非常に強力なものばかりで安易に使うと取り返しのつかないことになる。だけど今まで嘘の情報は一つもなかった。

ラブメーターだって恐いくらい正確だ。


すると自動的にスマホの画面が切り替わる。


『西井蒼太様、いつもキューピッドのご利用ありがとうございます。』


「っ!!」


心臓が強く締め付けられ、俺は思わず息を呑む。


『貞操逆転世界を楽しんで頂けているみたいですね。しかし今回、神楽坂茜の病み度が闇になってしまいましたので、あなただけに特別な対処法をお教え致します。それは【このアプリを消去する】です。そうすれば西井蒼太様はこの貞操逆転世界を抜け出し、元いた世界に戻ることができます』


「アプリを消せば……」


そういえば前に一度アプリを消そうとした時、そんな感じの注意が表示されたような気がする。

という事は俺が貞操逆転世界に来たのはこのアプリをダウンロードしたからなのか?


『勿論、元の世界に神楽坂茜はいません。決めるのはあなた様です。どちらを選ぶにしろ、私は西井蒼太様の味方でございます。あなた様のご健闘お祈り申し上げます』


「お、俺はどうすればいいんだ……」


俺はしばらくスマホの画面を見たまま動けなくなってしまった。

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貞操逆転世界で恋愛攻略アプリを使ったら、美少女達がヤンデレ化した 壱文字まこと @kmd769

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