第37話 話し合い

学校の昼休み。

それは学校生活の中で一番時間が長い休み時間。

その時間に同じ学校の生徒とご飯を食べたり、遊んだりする楽しい時間だ。


でも今日は違う。

俺は茜に教えてもらった空き教室にいた。

教室の中は重苦しい空気で包まれていた。


「さぁ、始めよう。莉乃ちゃん」


茜と莉乃が椅子に座り、お互いに睨み合う。

俺と岬姉ちゃんが真ん中に座り、二人を見る。


「ちょっと待って。蒼太の横にいるこの女は何なのよ!?」


莉乃が岬姉ちゃんと指さしてそう言った。


「初めまして、如月莉乃。私は蒼太君の幼馴染であり、正妻の北条岬です。よろしくお願いします」


岬姉ちゃんは綺麗に頭を下げ、ふっと笑う。


「「は?」」


「ちょ、ちょっと!」


岬姉ちゃんの言葉を聞いた茜と莉乃の目の色が闇に染まっていき、低い声を出す。


「茜はこの女の事知ってるの?」


「うん。この人が一番手強いよ」


「四大財閥でもないこの女が手強い?茜、あなたそれでも四大財閥の人間なの?」


「そんな事関係ないよ。この人は蒼太君と一緒に住んでるの」


「なっ!」


それを聞いた莉乃が目を大きく見開いて、岬姉ちゃんを見る。


「ふふ~ん」


岬姉ちゃんは自慢げに胸を張った。


「み、岬姉ちゃん!火に油をさすような事言わないでよ!」


「ふふっ、つい挑発してしまいました。すみません」


笑顔でそう言った岬姉ちゃんを見て、絶対反省してないだろと思った。


「それより正妻って何よ、蒼太!私が一番でしょ!?」


「えっ?い、いや誰が一番なんて考えたことなかったな……」


「じゃあ今決めなさい!」


「そんな急に言われても決められないよ!」


「はいはい、話がまとまらないのでその話はまた今度いたしましょう」


岬姉ちゃんはため息を吐きながら、莉乃をなだめる。


「ふんっ、まあいいわ」


莉乃は腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「では私が話し合いの司会進行をします。まず神楽坂茜、あなたは蒼太君を諦めるつもりはありますか?」


「絶対ないです。蒼太君がいないと生きていけません」


茜は何の迷いもなくそう言った。


「では如月莉乃。あなたも諦めるつもりはありませんか?」


「ないわ。絶対に蒼太の正妻になるのは私よ」


「そうですか……。では三人で仲良く蒼太君と恋人になればいいのではないですか?」


「私はそれでも構わないわ」


「それは嫌」


岬姉ちゃんの提案に待ったをかけたのは茜だった。


「それはどうしてですか?」


「私は蒼太君を一人占めしたいです。他の女と仲良くしてほしくない」


茜は闇に染まった目で俺を見つめながら言う。

その目を見た俺は怖すぎて、胸を締め付けられたような錯覚に陥る。


「はぁ~茜、そんなのは無理よ。いつまでそんな子供みたいな事言ってるの?今の男女比は10対1よ。蒼太だって将来的には10人くらいの妻ができると思うわ」


「じゃあ莉乃ちゃんは四大財閥の長女の私達が同じ男の子の妻になれると思うの?私達に共存は無理だよ」


「まあそれは私も同意だわ。だったら茜が諦めれば解決よ。私はそこにいる女と蒼太の三人で仲良く暮らしていくわ」


茜が机を叩いて、立ち上がる。


「嫌だよ!莉乃ちゃんが諦めればいいじゃん!」


茜につられて莉乃も立ち上がって茜に向かって声を荒げる。


「どうして私が諦めなきゃいけないの!?蒼太は私の事好きって言ってたのよ?」


「私も好きだって言ってくれたもん!」


「はいはい、落ち着いてください二人共。これだから四大財閥の人間は……」


岬姉ちゃんはヒートアップした二人をなだめる。


「あっ、ちなみに私も好きって言われました」


「み、岬姉ちゃん。今の一言いる?」


「いえ、一応言っておこうと思いまして」


「……」


茜と莉乃は静かに睨み合う。


「ふんっ」


「ぐぬぬ……」


二人はゆっくり椅子に座った。


俺は三人の会話を聞いていて、一つ思った事がある。


「ね、ねぇ。四大財閥の人間が共存できないってどういう意味なの?」


「そういえば蒼太は私達の事よく知らなかったわね」


茜の目の色が元に戻る。


「蒼太君、私達四大財閥はそれぞれ強い欲望があるの。私は昔から気に入った物があると手に入れるまで周りが見えなくなっちゃうの……。それで暴走しちゃって、手に入れた後冷静になるんだ」


茜の眉を下げて、そう言った。


「神楽坂家の人間は独占欲が強いみたいなんだ。私はそんな自分が大嫌い。最近は暴走することはあまりなかったんだけど、それが今回は蒼太君に発動しちゃったみたい」


「そうだったのか……」


茜は普段は明るくて人懐っこいいい子なんだ。

俺が怖いと思っていた時の茜は、暴走していたんだな。


「私は……」


すると莉乃の目の色が戻り、静かに話し始める。


「私は昔から好きなものを見つけるとその事で一番になるまで周りが見えなくなる。蒼太と出会う前の私はゲームで一番になりたくて毎日ゲーセンに行ってたわ。今は蒼太の一番になりたいからゲーセンには行かなくなったけど」


「なるほど……」


「如月家の人間は人より何倍も傲慢プライドが高いわ。暴走した結果、一番になったのはいいけど冷静になって振り返ると、いつも別の大切な何かを失っていたわ。私も茜と一緒、そんな自分が大嫌いよ」


「私と莉乃ちゃんは昔から仲良くて、数少ない同じ悩みを持つ親友なんだ」


茜の言葉に同意するように莉乃は首を縦に振る。


「だから同じ物を好きにならないように気を付けた。もしそうなったらもう自分達でも止められなくなっちゃう」


それに続くように莉乃が口を開いた。


「そうね。でも私達は同じ人を好きになってしまったわ。多分私達はどちらか死ぬまでこの喧嘩をやめないわ」


「そ、そんな大げさな――」


「ううん、蒼太君。莉乃ちゃんの言う通りだよ。四大財閥は証拠なく人を殺すくらいなら簡単にできる。それだけ力があるの……」


俺は二人の言葉に唖然とし、固まってしまう。


「私は出来れば莉乃ちゃんとは仲良くしたい」


「私だって茜とは親友のままでいたいわ」


二人の言葉を聞いて、岬姉ちゃんはうんうんとうなずく。


「なるほど……四大財閥の人達にはそのような特徴があったのですね。しかし今更蒼太君にどちらか選んでもらって、選ばれなかった方は素直に諦められますか?」


「「無理」」


「ですよね……、ではどうしますか蒼太君?」


俺は二人の話を聞いていて、もう他人事には聞こえなかった。

できれば……いや、絶対に二人を幸せにしたい。


となればやることは一つだ。


「俺は……」


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