貞操逆転世界で恋愛攻略アプリを使ったら、美少女達がヤンデレ化した

壱文字まこと

第1話 ようこそ貞操逆転世界へ

「もう別れよう」


 高校二年の春、桜の木の下で俺は彼女に振られた。

 風に煽られるように木が揺れ、桜の花びらが舞う。


「そ、そんな……俺はまだ君の事好きなんだよ!」


「しつこいわね!私はもう冷めてるの。1年も一緒にいてそんな事もわからないの?女心をもっと勉強した方が良いわよ、それじゃあね」


 そういうと彼女は振り返り、俺から去っていく。


 俺は学校から家までの帰り道を重い足取りで歩く。


 彼女とは一年間付き合ったが、キスどころか手すら繋げなかった。

 最初から俺の事なんか好きじゃなかったんだ……。


「俺は女じゃないんだから女心なんてわかる訳ないだろ!それにどうやって勉強すればいいんだよ!」


 赤信号になったので横断歩道の前で立ち止まり、制服のポケットからスマホを取り出す。


 何気なくスマホで『女心 わからない』と検索してみる。


「ん?恋愛攻略アプリ?なんだこれ?」


 画面に映ったのはある【キューピット】というアプリ。


『恋愛攻略アプリ!!このアプリで女性心理を学ぼう!これで今日からモテモテだ!』


 うわぁ・・・なんだか胡散臭いな。


「まあ、無料だしダウンロードしてみるか」


 そのアプリの横にあるダウンロードの文字をタップする。

 しばらくするとダウンロードが完了し、アプリのアイコンが表示される。


「こんなので本当に女心なんてわかるのかよ」


 アプリのアイコンをタップし、アプリが開いてみる。


「なになに……『おめでとう!このアプリをダウンロードしたという事は今日からあなたはモテモテだ!』か。やっぱり胡散臭っ!帰ったら消そう」


 青信号になったのでスマホから目を離し、横断歩道を渡る。


 プ―――――――!!!

 突然、横から車のクラクションの鋭い音が聞こえた。


「え?」


 その瞬間、体にもうすごい衝撃がかかり、十メートルほど吹き飛ばされて地面に転がり、持っていたスマホが宙を舞い落ちる。


 あ、あれ……体が動かない……。


 ボンネットが少し凹んだ車がぼんやりと遠くに見えた。


「き、君!!大丈夫か!しっかりしろ!!だ、誰か救急車を!!」


 俺に駆け寄ってきたサラリーマンの焦って乱れた声が聞こえた。

 その瞬間、俺は意識を失った。


 画面にひびが入ったスマホの画面が光る。


『千里の道も一歩から!まずはでモテ男を目指してみましょう!それではいってらっしゃい』


 ◇


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


 俺は何かに弾かれたように勢いよく起き上がる。


「はぁ……はぁ……」


 あれ?ここはどこだ・・・。

 俺は周りを見渡すが、特におかしな点はない。むしろ見慣れただ。


「ここは俺の部屋だな。それにしてもやけにリアルな夢だったな……。まさか前世の記憶……」


 夢より前世の記憶という方が何故かしっくり来た。

 少しずつ気持ちが落ち着いてきたので、もう一度状況を整理する。


「俺の名前は西井蒼太。高校二年生だ、偶然にも前世の俺が死んだのと同じ時期だな。」


 前世の記憶と今の記憶が混ざり合い、まだ少し違和感がある。

 前世では高校二年生の時に死んだから、もう一度普通の日本人として転生できたのは嬉しいな。



「蒼太~ご飯できたわよ。早く顔洗ってきなさい~」


 ドアをノックされ、母さんの声が聞こえた。


「今行くよ」


 俺はベッドから立ち上がり、洗面所へ向かう。

 蛇口を回し、ふと鏡に映った自分の顔を見る。


 鏡に映ったのは黒髪、黒目で平均的な日本人顔をしていた。


「どうせならイケメンだったら良かったのになぁ……」


 大きくため息をつき、ぬるま湯で顔を洗う。

 濡れた顔をタオルで拭き、リビングに行くと食欲をそそるいい香りが匂ってくる。


 メニューはご飯に味噌汁、鮭の塩焼きに漬物でザ・日本人の朝食というようなメニューだった。


「異世界転生じゃなくてよかった~朝はやっぱりご飯を食べたいよな」


「蒼太、急に一人事言ってどうしたの?それに何だかいつもと雰囲気違うわね……」


 台所から母さんが出てきて、テーブルの前に座る。

 改めて見ると、めちゃめちゃ美人だな。


 母さんは俺と並んでも歩いても年の離れた姉弟に見えてしまうほど見た目が若々しかった。


「いや、何でもないよ。母さん」


 俺は席に座り、両手を合わせると、前に座っていた母さんも同じように両手を合わせる。


「「いただきます」」


 俺と母さんはそれぞれ朝食を食べ始める。

 どれもめちゃくちゃ美味しい。すべての料理が俺の好みに合わせて作られていた。

 女手一つで俺を育ててくれた母さんには感謝しかない。


「母さん、今日もご飯美味しいね。いつもありがとう」


「っ!!え、ええ。ありがとう……」


 お礼を言うと、母さんは固まったように動かなくなり、目を見開いていた。


「どうしたの?」


「い、いえ。初めてそんな事を言われたから嬉しくて……」


「そ、そうだっけ……」


 そういえば最近、母さんとはまともに会話をしていないかもしれない。

 もっと母さんを大切にしないとな。


『続いてのニュースです。昨日、電車内で男性に痴漢をした疑いで28歳の女性が逮捕されました』


 俺の後ろにあるテレビから女性アナウンサーの声が聞こえた。


 最近は痴漢のニュースが多いな。


「ん?」


 何故か少し違和感がした。

 しかし理由は分からない、なんだこのモヤモヤは……。


「また痴漢のニュースね。蒼太も気を付けなさい、いつだって狙われるのは男性なんだから」


「はっはっは、何言ってんだよ母さん、だろ」


 笑いながら言う俺を見て、母さんは机を両手で叩いて立ち上がり、俺に顔を近付ける。


「蒼太!いい?女はみんなケダモノなのよ?絶対に隙を見せちゃダメよ!わかった!?」


「か、母さん、急にどうしたんだよ……、それに女はみんなケダモノってどういう――」


『年々男性の出生率が減っており、今年の男女比率は1:10に到達しました。それでは専門家の意見を――』


 俺は勢いよく振り返り、テレビを凝視する。

 テレビの声を聞いた瞬間、俺は今まで感じていた違和感が一気に消えていく。


「そうだ……、この世界は普通の日本じゃない……。貞操逆転世界だ」

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