第15話 茜は可愛いけどたまに怖い

 今日は東京に引っ越してから初めての休日だ。

 雲一つない空、こういう日は外で遊ぶにはピッタリだ。


「いいですか?私は夕方まで家にいませんから、蒼太君はいい子にお留守番していてくださいね」


 岬姉ちゃんが俺の両肩を持って、そう言った。


「俺は岬姉ちゃんのペットなの?」


「私がいない間、蒼太君にもしもの事があったら……」


「大丈夫だよ、ここオートロックだし」


 俺は宥めるように頭を撫でる。

 すると岬姉ちゃんは眉間にしわを寄せ、目に涙が浮かんでくる。


「うう……できるだけ早く帰ってきます」


「うん、いってらっしゃい」


 岬姉ちゃんを送り出し、小さくため息を吐く。


「心配性だな、岬姉ちゃんは……」


 俺は鼻歌を歌いながら自分の部屋に向かい、クローゼットを開ける。


「岬姉ちゃんには悪いけど、今日はデートなんだよね……。どの服にしようかな~」


 そう!今日は茜とデートの日だ。


「この服もいいな~いや、こっちにしような~」


 俺は10分程あれこれ迷った結果、無難なモノトーンコーデにした。


 スマホの通知が鳴り、スマホを開くとまたキューピッドが更新されていた。


「今日はなんだろう?」


 キューピッドを開くとNEWの文字が表示されている項目をタップする。


『相手に恋愛対象に見られるにはどうしたらいいのでしょう?その答えは【とにかく楽しんでもらう事】。同じ趣味で盛り上がる、相手に共感する、あの手この手で女性を楽しませよう!そして距離が縮まったら恋バナをしろ!女性はみんな恋バナが大好きだ!恋バナをして、いい雰囲気に持っていくことで相手は君を男として意識してくれるかも?』


 なるほど、恋バナか……。


 スマホで時間を見ると11時30分と表示されていた。


「さてそろそろ行くか」


 今日は茜とカフェに行って昼ご飯を食べるだけだ。

 岬姉ちゃんが帰ってくる前には帰って来られるだろう。


 玄関から部屋を出て、エレベーターに乗って、地上階まで下がる。


「さて、確か駅集合だったよな」


 引っ越したばかりで土地勘がないので、スマホで地図を見ながら駅まで歩いていく。


「やっぱり東京は人が多いな」


 多くの人とすれ違う。たまに男性を見かけるが歩いている人のほとんどは女性ばかりだ。

 女性と一緒に歩いている人もいれば、男性二人で歩いている人もいたが、男性一人で歩いているのは一人もいなかった。


「ねえ、あの男の子一人なのかな?声掛けに行こうよ」


「やめときなって」


 何度かそのような声が聞こえて来た。

 やはり男性が一人で出歩くのは珍しいみたいだ。


 そんなことを考えているといつの間にか駅の前まで到着した。


 スマホで時間を確認すると、待ち合わせ時間より少し早く到着したみたいだ。


「スマホゲームで時間つぶすか」


 スマホゲームをしようと思ったその時、後ろから声を掛けられた。


「あの、今お一人ですか?」


 俺は振り返ると大学生くらいの綺麗なお姉さん二人組が立っていた。


「え?は、はい。そうですけど……」


 急に知らない人から話しかけられたので、少し緊張してしまう。


「ここで何してるんですか?」


「友達と待ち合わせしてます……」


「良かったら私達と少しだけお茶しません?」


「すいません。もう少しで友達が来ちゃうので……」


「じゃあその友達も含めて一緒にどうですか?」


 結構グイグイ来るな。


「蒼太君~~!!」


 俺はどうやって断ろうか考えていると横から聞いたことのある声がした。


「おまたせ!あれ?この人達知り合い?」


 茜が横から割り込んできて、お姉さん達を見る。


「いや、さっき話かけられただけだよ」


「ふ~ん、蒼太君をナンパしたんだ」


 茜の目から色が消え、お姉さん達を睨む。


「あっ……ご、ごめんなさい」


「わ、私達はこの辺で……」


 お姉さん達は茜に圧倒され、逃げるように去っていく。


「おかげで助かったよ、ありがとう」


 茜の目の色が戻り、俺の顔を見て満面の笑みを浮かべた。


「うん!大丈夫!邪魔なが寄ってこないように気を付けてね」


「む、虫?」


「ううん、なんでもない!それより早く行こ!私、お腹すいちゃった」


 人に使ってはいけない単語が茜から飛び出たがきっと気のせいだろう。


 茜の私服初めて見たな。

 淡い水色のトップスに白のレーススカートを履いていた。


「茜って私服は清楚なんだね」


「ふふっ、イメージと違った?」


「ううん、可愛いよ」


「えへへ、ありがとう!今日の為に気合い入れておしゃれしてきた」


 茜はほんのり頬を赤く染め、俺から目を逸らし小さく笑う。


 これはいい感じで褒めれたぞ。

 アプリに書いてあった通り、積極的に褒めていかないとな。


「あ!ここだよ!蒼太君」


 茜が指差したのはガラス張りのカフェ。

 中には人がちらほらいて、みな俺たちと変わらない若い人達ばかりだった。


 中に入り、店員さんに席へ案内される。

 店員さんはお冷を二つテーブルに置いて、小さく頭を下げる。


「ねえねえ、どれにする?」


 茜がメニュ―を開き、俺に聞いてくる。


「オムライスにしようかな、茜は?」


「じゃあ私もオムライス食べる!」


 俺は店員さんを呼んで注文すると店員さんは、かしこまりましたと言って、キッチンの方へ向かった。


「茜、今日は誘ってくれてありがとうね」


「私の方こそ来てくれてありがとう!すっごく楽しみにしてた!」


 茜は今までに見たことないくらいの笑顔でそう言った。


 その笑顔を見て、今日来てよかったなぁと思いながら何気ない雑談をして、オムライスを待つ。

 冷たい水の入ったコップを持ち、水を飲むとひんやりとした冷たさが口の中に広がる。


「あ、そういえば今日聞きたいことがあったんだ!ねぇ、蒼太君と一緒に登校している綺麗な人は誰?」


 口の中だけじゃなく、体中にひんやりとした感覚が駆け巡った。


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