第62話 変態王子
「ふぅ~、いい湯だった」
俺は風呂から上がり、バスローブに着替える。
「それにしても凄い部屋だったな……。一泊いくらするんだろう?」
そう呟きながら、脱衣所を出てベッドに腰掛ける。
すると布団がもぞもぞ動き始めた。
「んっ」
「うわっ!誰!?」
布団の下から声が聞こえたので、急いで立ち上がる。
俺は恐る恐る布団をめくると、そこには下着姿に手足を縛られている葵さんがいた。
「あ、葵さん!?」
よく見ると葵さんの口には黒いテープが張られていた。
「い、今外します!」
俺はそう言って葵さんのテープを剥がす。
「ぷはっ!」
「な、縄も解きます!」
「いえ、それはいけません」
「え?」
後ろから声が聞こえたので、振り向くと坂木さんが部屋の入口に立っていた。
「先ほどはすみませんでした。お嬢様は先ほどの失態の責任を取るためにこうして縄に縛られているのです」
「は、はぁ?」
意味が分からない。
俺さっき気にしなくていいって言ったよね!?
「お優しい蒼太様は何とも思っていないかもしれませんが、天羽家としてはそうはいきません。蒼太様からお嬢様に対するお仕置きをして頂くまでは帰しません」
「お、お仕置き!?」
坂木さんの言葉を聞いて反応したのは葵さんだった。
すると葵さんはなぜか息が荒くなり、頬が赤くなってきた。
「見て下さい。お嬢様も早くお仕置きされたくて、待ちきれないみたいです。さあ、思う存分お尻を叩いてください」
すると葵さんはその場でうつ伏せになり、お尻を上げる。
「では、私はこの辺りで」
坂木さんは頭を下げながらそう言って、部屋から出ていく。
「た、頼む!早く私の尻を叩いてくれ!」
「で、でも……」
葵さんは俺の目の前で、シミひとつない真っ白なお尻を惜しげもなく突き出している。
お仕置き?をするまで帰れなそうだったので、覚悟を決めて腕を振り上げる。
「わ、私にお仕置きを下さい!!」
俺は戸惑いながらも葵さんのお尻を叩く。
ペチンッ
「だ、ダメだ!もっと本気で……」
俺は少し力を入れて、お尻を叩く。
パシンッ
「ひぃ!あ、あぁ……」
葵さんは頬を赤く染めながら、だらしなく口を開けてそこから涎が垂れている。
その涎が顎を伝って、糸を引きながら床に落ちる。
「ご、ごめんなさい!」
俺は葵さんにそう言って、葵さんの顔を覗く。
「さ、最高だぁ……」
葵さんは口を半開きにしながら、何故か口角が少し上がっている。
「最高?お尻を叩かれてこの表情……もしかしてこの人ってドM?」
俺はだらしない顔をしている葵さんを見て、引いてしまう。
立ち上がって、葵さんを見下ろすと葵さんは四つん這いのまま顔を上げ、俺の目を見る。
「うわぁ……、何かがっかりだな」
「あぁぁぁぁぁ!!イ……」
俺がそう言うと、葵さんは体を痙攣させながら気絶した。
「お見事です。西井様」
坂木さんが手を叩きながら、部屋に入ってくる。
「あの……これってどういう事なんですか?」
整った顔をだらしなく崩して、気絶している葵さんを見ながらそう言った。
「西井様はもうお気付きかもしれませんが、お嬢様はドMの変態です」
「あ、あぁ……なるほど」
葵さんは俺に叩かれていた時、明らかに喜んでいた。
「お嬢様はきっと西井様に奉仕することが生きがいになってしまったのでしょう。もちろん普段は頼りになる年上女性です。しかし夜はこんな感じになるでしょう」
個人的にしっかりしている女性が俺の前で変態になるのは結構好きなシチュエーションだ。
あれ?俺も葵さんと同じ変態だったのかな?
「なるほど……西井様も嫌いではなさそうですね」
坂木さんは俺を見て何かを察したのか、ニヤリと不敵な笑顔を浮かべながらそう言った。
「いや、別にそういうわけじゃ……」
まあ正直葵さんの事は綺麗だと思っているし、かっこいいと思う。
あと意外と胸が大きくてびっくりした、着やせするタイプなのかな?
って何を考えているんだ、俺は!
坂木さんは咳払いすると、真っ直ぐ俺の目を見る。
「西井様はこういう部分を含めてお嬢様をどう思いますか?」
「えっ?」
「私はお嬢様が小さい時から一緒にいました。昔からなんでも完璧に出来てしまうので、周りの期待がプレッシャーになることも多々ありました」
「……」
「お嬢様は責任感が強く、誰にも弱みを見せません。しかし西井様にはこうして自分の情けない姿を見せられると思った事が執着の理由でしょう。お嬢様は西井様の事が好きです、他の女性と比べるとあまり手が掛からないと思いますよ?」
坂木さんは微笑みながら俺にそう言った。
「決めるのは西井様です。もし葵の事を少しでも良く思っているなら、手を差し伸べてあげて欲しいです」
坂木さんは俺に頭を下げて、部屋の出口に向かう。
「私はもう西井様を止めません、このビルの出口に車を待たせておきますのでお帰りの際は声をかけて下さい」
坂木さんはそれだけ言うと部屋を出ていった。
◇
「はっ!こ、ここは……」
私は体を起こして周りを見渡す。
下着姿のままだったが、白いバスタオルが体に掛けられていた。
「私は気絶してしまったのか。それに手足の縄も解けている」
そう呟きながら手足を軽く動かすと後ろから聞き覚えのある声が聞こえていた。
「やっと起きたんですね」
「えっ?」
振り向くと、そこには苦笑いを浮かべながらこっちを見ている蒼太様がいた。
バスローブの隙間から胸板が少し見えていたので、思わずドキッとしてしまう。
「そ、蒼太様……」
私の性癖を蒼太様に知られてしまった。
私の事を知ってくれて嬉しい。
でもいざとなると受け入れてもらえるのかどうか分からず怖くなってしまう。
私は思わず、体が震えてしまい蒼太様から目を逸らした。
「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。こっちに来て少し話しましょう」
蒼太様はそう言って自分の横を軽く叩いた。
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