第27話 茜の様子がおかしい
茜に背中を洗ってもらった後、すぐに俺はお風呂から逃げ出してバスローブに着替えた。
危なかった……、あのままだったら俺が茜を襲ってしまうところだった。
お風呂から出た後は食堂へ行き、お母さんと茜と3人で夕食を食べた。
夕食のメニューはどれも美味しく高そうなものばかりで、さすがはお金持ちの家って感じだった。
「ごちそうさまでした」
俺は両手を合わせて、そう言う。
「美味しかったかしら?」
お母さんは上品に笑いながら、聞いてくる。
「はい!こんな美味しい物食べたのは初めてです!」
「それはよかったわ!家族と食の好みが合っているかはとても大事なことだから」
「家族?」
確かに家族と食の好みが合わないのはつらいけど、どうして今その話が出たんだろう……。
不思議そうにしている俺を見て、お母さんは優しく微笑む。
「ふふっ、なんでもないわ。気にしないで」
「は、はぁ……」
「そんなことより茜。いつまでそうやって顔を赤くしているつもり?」
茜は顔を真っ赤にして、一心不乱にご飯を食べている。
「もぐもぐ……、ふぇ?なぁに?おかぁはん」
その様子を見て、お母さんは大きなため息を吐く。
「茜、行儀悪いわよ。飲み込んでから喋りなさい」
お母さんにそう言われた茜は、コップを手に取り、水をごくごくと喉を鳴らしながら飲む。
「ごくん。な、何?お母さん」
「何があったかは知らないけれど、しっかりしなさい!そんな様子じゃあ蒼太君も心配するわよ」
「ふぇ?蒼太君が?」
茜はきょろきょろと首を振る。
俺を見つけると目を大きく見開く。
「こ、こっち見ないでぇ……」
茜は恥ずかしそうに両手で顔を隠した。
「茜、大丈夫?」
茜の肩に手を置き、声を掛ける。
「だだだだ、大丈夫だよ!元気いっぱい!」
茜は顔をさらに赤くさせて、両手を上げて力こぶを作る。
「顔赤いよ?熱でもあるの?」
俺は茜のおでこに手を当てると手からすごい熱が伝わってくる。
「すごく熱だよ!?風邪引いたんじゃない?」
「あわわわわ!ふしゅ~~う……」
茜は目をぐるぐると回し、口から空気が漏れる。
「も、もうだめぇ~」
茜は糸が切れた人形のように力が抜け、音を立ててテーブルの上に頭が落ちた。
「あ、茜!?」
「いきなりお風呂に行かせたのは失敗だったわね」
お母さんは頭を抱えて小さな声で呟いた。
「はぁ……、しばらく放って置けば治るわ。蒼太君は客室でゆっくり休んでね」
「はい、ありがとうございます」
お母さんがそう言われたので、食堂を出て客室に向かう。
◇
「いつの間にこんなベッド置いたんだよ……」
客室に戻ると、いつの間にかキングサイズの大きなベッドが置かれていた。
ベッドに飛び込むと、俺の体が布団に沈み込む。
ゴロゴロ……ドーーーーーン!!
荒々しい雷の音が部屋の外から聞こえる。
「まさか茜の家に泊る事になるなんてな」
ただ遊びに行くだけのつもりだったんだけどな……。
ピコン
通知が鳴ったのでスマホを開くと岬姉ちゃんからチャットが来ていた。
『おやすみなさい、今日は一人で寂しいです……』
このようなチャットとウサギのキャラクターが泣いているスタンプが送られてきた。
実はこの家に泊まると岬姉ちゃんに連絡した時、何度も家に帰ってきて欲しいと言われていた。
『ごめんね。明日はちゃんと帰るよ』
チャットをするとすぐに返信が来た。
『いっぱいハグしてくれたら許します』
「可愛いな。岬姉ちゃん」
『わかったよ、楽しみにしてて。おやすみ』
チャットを送り、俺は何気なくキューピッドを開く。
「相手の価値観を肯定してあげる……か。茜ともっと仲良くなりたいしどこかで言いたいな」
一緒にお風呂に入ってから茜の様子がおかしくなっていて、なかなか言うタイミングがなかった。
ふとお風呂で見た茜の裸を思い出す。
真っ白な肌に、細身にもかかわらず出るとこはしっかり出ていた。
「あんなにスタイルが良くて可愛い子と付き合えたら最高だろうな~」
思わず心の声が口から出てしまう。
コンコン
ドアがノックされ、木の乾いた音が聞こえた。
「はーい」
部屋に入ってきたのは、髪を下ろして枕を持った茜だった。
「茜?どうしたの?」
「ちょっとね……。座ってもいい?」
「え?いいけど……」
そう言うと茜はベッドの端に腰かける。
茜は頬をほんのり赤くさせ、自分の横をぽんぽんと叩く。
「隣来て?」
「う、うん」
俺が茜のすぐ隣に座ると、頭を俺の肩に乗せて来た。
「今日は突然お風呂に入っちゃってごめんね」
「全然いいよ、背中流してもらったし。それより体調大丈夫なの?」
むしろいいものを見せて頂いてありがとうございます。
「今は平気だよ。いつもの私らしくない事したから、ちょっと混乱しちゃった」
茜は舌を小さく出し、ぎこちなく笑う。
「私らしくない事?」
「うん。恥ずかしかったけど、蒼太君ともっと仲良くなりたくて無理してたんだ。あと蒼太君は優しいからそれに甘えちゃったんだと思う……」
「甘えるのは全然いいんだけど……。俺と仲良くなりたいからお風呂に入ってきたの?」
「うん」
茜はこくんと首を縦に振る。
「そうだったんだね」
すると茜が俺の手を握って来た。
「私は蒼太君ともっと仲良くなりたい、蒼太君に私の事をもっと見て欲しいって思ってる。蒼太君は私の事どう思ってるの?」
「そ、それは――」
ゴロゴロ……ドーーーーーーン!!
「きゃあ!」
茜が声を上げ、俺の腕に抱き着いてくる。
茜の体が小刻みに震えているのが腕から伝わって来た。
「茜って雷が苦手なの?」
「う、うん。雷の日は怖くていつもよく眠れないんだ」
「じゃあ今日もあんまり眠れなさそうだね」
俺は苦笑いしながら、茜の頭を撫でる。
「だからね、蒼太君……。お願いがあるの」
「何でも言ってよ。俺にできる事なら何でもするからさ」
茜は俺の顔を見上げる。
「じゃあ……今日は一緒に寝てほしい」
「え?」
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