第38話 話し合いの結果とお兄ちゃん

教室の中が重々しい空気の中、莉乃、茜、岬姉ちゃんの三人が俺の言葉に耳を傾ける。


「俺は三人とも好きだし、諦めたくない。だから三人とも俺の彼女じゃダメかな?」


俺は三人の目をそれぞれ見ながら言う。


「そ、蒼太君!私達の話聞いてた!?」


「蒼太!そこにいる女ならまだいいけど、茜とは無理よ!」


「……」


俺の言葉を聞いて、茜と莉乃は勢いよく立ち上がって声を荒げる。

岬姉ちゃんは冷静に俺を見つめていた。


「それでも俺は何とかしてみんなで仲良く暮らしていける方法を探したい……。このまま俺の大切な人が争うのは見てられないよ」


アプリは女性を魅了するのに効果的なテクニックが書かれている。

でも女性はそれぞれ抱えている悩みがあり、アプリ頼りに行動しているだけでは彼女たちを幸せにすることなんかできない。

これからはアプリを使う場面は自分で選ばなければならない。


アプリに書いてある事を何も考えずにするだけではダメなんだ。

俺はみんなの事を何も知ろうとしていなかったのかもしれない。


「蒼太君……」


「蒼太……」


茜と莉乃は俺の名前を呟き、ゆっくりと席に座った。


「最初は苦しい思いをするかもしれない。でも二人ともそんな自分の性格を直したいんでしょ?」


「そ、それはできれば直したいけど……」


「私もできればこんなめんどくさい性格直したいわ」


俺は立ち上がり、莉乃と茜の手を取って重ねる。


「え?どうしたの?」


「蒼太?」


俺の行動を不思議に思ったのか、二人は首を傾げながら俺を見上げる。


「岬姉ちゃんも」


「えっ?は、はい」


岬姉ちゃんは二人の手の上に自分の手を重ねる。

最後に自分の両手を下と上から挟むように重ねる。


「だからみんな仲良く暮らしていける方法を探していこうよ。俺の彼女のまま茜と莉乃は親友で、岬姉ちゃんは俺を守ってくれる。みんなが幸せになれる、そんな関係性を作っていこうよ」


俺は三人とも大好きだ。

簡単に諦めたくない。


「茜、君はどう思う?」


「私は……」


茜は目に涙を浮かべながら、口を開く。


「私はみんなと仲良くしたい。独占なんかしないで、普通の女の子みたいに恋愛したい」


「莉乃はどう思う?」


莉乃も目に涙を浮かべて、俺を真っ直ぐ見る。


「私も同じ気持ちよ。変な傲慢プライドなんかいらない。普通にみんなと仲良くなれるようになりたい」


「岬姉ちゃんは?」


「私は蒼太君がそう言うなら全力でサポート致しますよ」


岬姉ちゃんは優しく微笑みながらそう言ってくれた。


「じゃあみんなで頑張っていこう。俺が出来る事ならなんでもする。もう変な嘘はつかないし、みんなとしっかり向き合うよ。あとこれからはみんなが不安にならないように、俺からも声掛けやスキンシップ取っていくようにするよ」


俺は三人の顔を見ながら、宣言する。


「私はなるべく暴走しないように自分をコントロールできるようにする」


茜がそれに続いてそう言った。


「私は誰が一番とかそういうくだらない事をなるべく考えないようにするわ」


莉乃が茜に続いてそう言った。


「私は二人が暴走したときは周りに被害が出ないように対処します」


岬姉ちゃんが莉乃に続いてそう言った。


「じゃあみんな、これから改めてよろしくね!!」


俺は満面の笑顔で三人に言った。


「「「っ!!」」」


三人は俺の顔を見て、顔を赤く染めた。


「い、今の反則……」


「思わずキュンとしたわ……」


「蒼太君……かっこいいです!」


「えっ!?あ、ありがとう」


俺は三人の言葉を聞いて、少し照れくさくなる。


「で?具体的にはどうしていこうかしら?」


「まあとりあえず、私は必ず毎日蒼太君が家に帰ってきていただければ問題ないです」


莉乃の質問に、岬姉ちゃんはそう答える。


「私は正直、毎日一緒に居たいけど我慢する。学校にいる時とたまに家に遊びに来てくれればそれでいいよ」


茜は頬を膨らませながら、そう言った。


「私もたまに家に来て、ゲームを一緒にやってほしいわ。あと外でデートもしたいわね」


「うん、分かったよ」


三人の要望を聞いて、俺は頷いた。


「あっ!そうだ。俺みんなとやりたい事があったんだ」


「「「やりたい事?」」」


「うん!週末にそれぞれ一人ずつ一日デートしようよ!」



三人で話し合った後、俺達はそれぞれの教室に戻った。


「蒼太君、どうして一日デートしたかったのですか?」


下校中に岬姉ちゃんから質問された。


「単純にみんなと丸一日デートしたことなかったな~と思って。みんなを幸せにするならちゃんとデートしてみんなの事をもっと知っていかないと……」


「ふふっ。蒼太君は優しいですね」


岬姉ちゃんは俺の手を握ってきたので、俺も握り返した。


「ううん。みんなには迷惑かけちゃったからこのくらいはしないと」


「私はそう思ってくれるだけで十分ですよ?」


「え?じゃあ一日デートなしにする?」


「なっ!そ、それとこれとは話は別です!」


岬姉ちゃんは頬を膨らませて、俺を睨む。


「あははは、冗談だよ!岬姉ちゃんは可愛いな~」


俺は岬姉ちゃんの頭を撫でる。


「もう!からかわないで下さい!今日のおかず減らしますよ?」


「それはやめてよ!岬姉ちゃん!」


「ふふっ、冗談です」


岬姉ちゃんと会話をしていると楽しくて、ついつい時間を忘れてしまう。

気が付いたらもう家の前まで来ていた。


エレベーターに乗ると、岬姉ちゃんは甘えるように肩に頭を乗せて来た。

思わず可愛くて、おでこにキスをしてしまう。


「えへへ」


岬姉ちゃんは照れくさそうに頬を赤らめながら口元を緩める。


俺達は手を繋いだまま、エレベーターを降りて、自分の部屋に入る。


「おかえりなさい!」


「ああ、ただい―って誰!?」


部屋に入ると見知らぬ中学生くらいの女の子が立っていた。

その女性は肩に付くくらいの黒髪をサイドテールにしていた。


「あ、あれ?部屋間違えたかな?」


「ううん。間違えてないよ、蒼太お兄ちゃん」


「え?お兄ちゃん?」


見覚えのない女の子からお兄ちゃんと言われた俺は困惑して、口を開けて固まってしまう。


「あーーーー!!手繋いでる!!いいなぁ~」


女の子は俺達の手を指差しながらそう言った。


「どうしましたか?蒼太く――っ!!」


岬姉ちゃんは部屋にいた女の子を見て、目を大きく見開いた。


「あっ、お姉ちゃんお帰りなさい!」


「お姉ちゃん!?」


俺は驚いて岬姉ちゃんを見ると、怖い顔した岬姉ちゃんが女の子を睨んでいた。


「何しに来たんですか?海依うい


「えへへ……来ちゃった♡」


そう言って海依は俺達に向かって可愛くウインクをした。

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