第7話 転んだJKに手を貸したら痴漢されました

 今はちょうど桜の時期だ。学校までの道には桜の木がいくつもあり、道には桜の花びらが落ちていた。


「なんだか学校行くの緊張してきたな……」


 俺は歩きながら呟く。


「ふふっ、大丈夫です。学校には男性の生徒もいますからすぐに友達できますよ!」


「そ、そうだよね」


 今まで共学に行ける事が楽しみで仕方がなかったが、いざ登校初日になると少し弱気になる。


「何かあったら相談に乗りますよ。私は蒼太君のボディーガードで幼馴染のお姉さんですから!」


 岬姉ちゃんは胸を張り、笑顔で俺に言う。


「ありがとう、じゃあ悩み事ができたら相談するよ!」


「はい!」


 なんていい子なんだ!

 改めて同居人が岬姉ちゃんでよかったなと思う。


「あっ、そういえば学校で――」


 俺は話そうとした瞬間、道角から急に女子高生が飛び出してきて、俺とぶつかる。


「きゃ!」


「うわっ」


 女子高生が道路に尻もちをつく。


「痛たっ……ご、ごめんなさい!急いでて……えっ?男の人?」


 ぶつかってきた女子高生が俺を見上げて、目を丸くし、口をぽかーんと開けてる。


「ごごごご、ごめんなさい!まさか男の子にぶつかっちゃうなんて……」


 女子高生は俺が男と気付くと、顔を青くして土下座してきた。


「通報だけはしないで下さい!お願いします!」


 ちょっとぶつかったくらいで通報するわけないだろ……。


 俺は苦笑いを浮かべ、手を差し出す。


 女子高生は俺の手をじーと見る。


「えっ?」


「俺は全然大丈夫だよ。それより君は怪我しなかった?」


 女子高生は俺の手を両手で握り、立ち上がる。


「あっ!蒼太君ダメです!」


 岬姉ちゃんの声が後ろから聞こえた。


「え?どうした―」


 すると女子高生が俺に抱き着いてきた。


 俺は何が起こったのかわからず、体が固まってしまった。


「こんな優しくしてくれるなんて、もしかして私の事が好きなの?」


 女子高生が俺の耳元で囁く。


「離れなさい!」


 岬姉ちゃんがその女子高生の腕を掴み、俺から引き剥がす。


「何あんた!?ちょっと邪魔しないで――」


 怒った女子高生の言葉を聞かず、岬姉ちゃんは女子高生を綺麗に一本背負い。

 そのまま地面に押し付けて拘束した。


 えっ!?岬姉ちゃん強っ!


「もしもし、警察ですか?男性ボディーガードをやってる者ですが、男性に痴漢した女性を拘束しましたので今すぐ来てください」


 岬姉ちゃんが女子高生を拘束しながら、警察に電話した。


 しばらくすると、女性の警察官が2人来て、事情聴取をされた。

 事情聴取は30分程かかってしまった。


「岬姉ちゃん、ただ抱き着かれただけで警察に電話しなくても……」


「ダメです。あれは立派な痴漢になります。男性ボディーガードとしてあのような事は見過ごせません」


「いや、だとしても俺から手を差し出しちゃったんだし――」


「私も予想外でした、まさか蒼太君が見ず知らずの女に手を差し伸べるなんて……。女性に優しいとは思っていましたが、優しいのではなく危機感がなかっただけみたいですね」


 岬姉ちゃんは俺を見て、呆れたようにため息を吐いた。


「ご、ごめん。まさかあんな事になるとは……」


「あれが普通の反応です。これにりたら女性には気安く触れないようにしてください」


「でも昨日、岬姉ちゃんに触っても平気そうだったじゃん」


岬姉ちゃんの顔が一気に赤くなり、大きく目を見開いた。


「わ、私は男性ボディーガードになるために訓練をしているからです!普通の女性だったら蒼太君は今頃、どんな風になっているかわかりませんよ!?」


「でも岬姉ちゃんになら何されてもいいけどな~」


「なっ!」


 岬姉ちゃんは顔をさらに真っ赤にして、声を上げた。


「そ、そういう事を気軽に言うのはやめてください!私だって女です!その内、我慢できずに蒼太君を襲ってしまうかもしれませんよ!?」


「あはははっ!我慢できずにって事は岬姉ちゃんも男に弱いじゃん!」


「蒼太君……あとでお説教です」


 岬姉ちゃんの表情が消え、俺を睨んできた。

 周囲の空気が一気に冷えた感じがした。


「ご、ごめんなさい。言い過ぎました」


「許しません。これから共学の学校に通うんですから、もっと危機感を持ってください」


 岬姉ちゃんの言う通りだ。誰彼だれかれ構わず優しくしすぎるのはやめよう。


「はい……。そ、それにしてもあの女子高生には悪い事しちゃったかな……」


 俺はこの空気に耐え切れず、強引に話題を変える。


「蒼太君にも悪い所があったし、何より痴漢された蒼太君が許しているので警察から厳重注意されるだけでしょう。あの子も今回はいい勉強になったと思いますよ」


「そっか~、良かった~」


 岬姉ちゃんの言葉を聞いて安心した。

 俺のせいであの子に前科が付くのは申し訳なさすぎる。


「それより転校初日から完全に遅刻だな……」


「学校にはすでに連絡しておきました。まあ事情が事情ですし、学校側も許してくれると思いますよ」


「そうだといいけど……」


「きっと大丈夫ですよ。あっ!校舎が見えてきましたよ」


 あれが日本中のお嬢様が通う【私立桜小路学園】か……。

 高校の校舎にしてはでかいし、綺麗すぎない?


 高校っていうより城って感じだった。


「あ、あれ本当に高校なの?」


「驚きますよね、私も最初は蒼太君と同じ反応でした」


 岬姉ちゃんは笑いながらそう言った。


「ところで蒼太君はどうしてこの学校に転校しようと思ったのですか?」


「え?綺麗な女の子と仲良くなりたいからかな?」


 あっ!やべっ!ついつい本音が……。


「……」


 岬姉ちゃんが眉をひそめ、冷ややかな目で俺を見る。


「これは今すぐにお説教が必要みたいですね」


「あはっはっは……」


俺は冷や汗をかきながら、苦笑いを浮かべた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る