第6話 脱衣所にGが!!

「それではお風呂に入ってきますね」


「うん、いってらっしゃい」


 夕食を食べた後、岬姉ちゃんは着替えを持ってお風呂に行った。


「きゃあああああ!!」


 テレビの前のソファに座ってくつろいでいると、脱衣所から岬姉ちゃんの叫び声が聞こえた。

 俺は急いで脱衣所に向かう。


「岬姉ちゃん!どうした――っ!!」


 何も考えず脱衣所のドアを開けてしまった。

 脱衣所では岬姉ちゃんが全裸で震えながら丸まっていた。


「ご、ごめん!!いきなりドア開けちゃって――」


「そ、蒼太君!そんな事よりあれ!!」


 岬姉ちゃんは丸まったまま、脱衣所の隅を指差す。

 指差した先にはあの黒いGがいた。


「ちょ、ちょっと待ってて!」


 俺は殺虫剤を持ってきて、Gに向かって噴射する。

 Gは動きが鈍くなり、ティッシュでGを掴む。


「これであとはティッシュで包んで……」


 数枚のティッシュでGを包み、ごみ箱に捨てる。


「よし!これで終わり!」


 俺はGだろうが蜘蛛だろうが平気なのだ。

 虫は全く怖くない。


 これは岬姉ちゃんに男らしい所を見せる事ができたぞ。


「岬姉ちゃん、虫はもう大丈夫だよ」


「ほ、本当ですか?」


 脱衣所から長い黒髪を降ろし、バスタオルを巻いた岬姉ちゃんが顔を出した。

 俺は岬姉ちゃんに近づき、声を掛ける。


「もう心配ないよ」


「こ、怖かったです……」


 岬姉ちゃんは真っ青な顔をして震えながらそう言った。


「虫が苦手なんだね。俺は全然平気だから、また虫が出たら任せて!」


「あ、ありがとうございます」


 それにしても、岬姉ちゃんのバスタオル……。

 服の上からみても大きいなと思っていたが、想像以上だ。


 岬姉ちゃん色気あるな、なんだかドキドキしてきた。

 って俺はこんな時に何を考えているんだ!


「あっ!すみません、こんな格好で」


「う、ううん。大丈夫だよ。ゆっくりお風呂入って」


 岬姉ちゃんがお風呂に入ったので、俺はソファーに座りテレビを見て時間をつぶす。

 するとスマホの通知が鳴った。


「ん?またキューピッドの更新か」


 俺はキューピッドを開き、新しい情報を読む。


『女性にもっと甘えられたい!そう思っているあなたにおすすめ!今回紹介するのは【肩を抱き寄せる】だ!女性との心の距離が縮まったら、次は物理的な距離を縮めてみよう。隣に座らせ、肩を抱き寄せる。そして優しい言葉を女性に囁いてみよう!そうすればその女性は安心し、もっと甘えてくれるはずだ!男性に甘えるのは女性の本能だ!女性は男性に甘える生き物、女性が甘えられるように男性から誘導してみよう!』


 な、なるほど。肩を抱き寄せるか……。


 岬姉ちゃんともっと仲良くなるためには使えるかもしれないな。

 しばらく一緒に暮らしていくのだ、どうせならもっと仲良くなって楽しい同棲にしたい。


「おまたせしました」


 しばらくすると、ネグリジェを着た岬姉ちゃんがお風呂から上がってきた。


 岬姉ちゃんは長い髪をタオルで拭きながら、俺の隣に座る。


「さっきは取り乱してしまい、すいませんでした。次からは自分で何とかします」


「全然大丈夫だよ!もっと俺の事頼ってもいいんだよ?」


「しかし私は蒼太君の男性ボディーガード兼お世話係だと思っているのであまり頼るわけには・・・」


「え!?そうなの!?俺は普通に同居人だと思ってたんだけど……」


「前から思っていましたが蒼太君は女性に対してもう少し危機感持った方がいいですよ?」


「岬姉ちゃんをそんな風に見てないよ。岬姉ちゃんこそ考えすぎだよ」


「でも私も女ですし、蒼太君を襲っちゃうかもしれませんよ?」


 岬姉ちゃんは俺の方を向き、からかうように笑う。


「岬姉ちゃんは俺の事嫌い?」


「えっ!?そ、そんなわけないじゃないですか!」


「そうなんだ」


 俺は覚悟を決め、岬姉ちゃんの肩を自分側に抱き寄せる。


「へっ?」


 岬姉ちゃんが小さく声を出す。


 俺も恥ずかしくて、岬姉ちゃんの顔は見れなかったが、岬姉ちゃんの耳が真っ赤になっているだけは見えた。


「俺も岬姉ちゃんの事は信頼してるし、もっと甘えてもいいんだよ?」


「ほ、本当にいいんですか?」


「うん」


「それで嫌いになったり、家から追い出したりしないですか?」


「絶対しないよ」


 こんな綺麗な女性を嫌いになるわけがない。むしろ襲ってほしいわ!


 岬姉ちゃんは頭を傾け、俺の肩に頭を乗せてきた。


「こんな事されても嫌じゃないですか?」


「嫌じゃないよ、むしろ嬉しい」


「そ、そうですか」


 すると、岬姉ちゃんは俺から離れて立ち上がる。


「わ、私は髪を乾かしてきますね」


 岬姉ちゃんは洗面所までぎこちなく歩き方で歩いて行った。

 その時、後ろからしか見えなかったが、耳だけじゃなくうなじまで真っ赤になっていた。


「はぁ~緊張した~。最後は逃げられた感じだったけど、これは上手くいったのか?」


 ◇


 昨日はぐっすり眠り、今日は私立桜小路学園の転校初日だ。

 岬姉ちゃんに起こしてもらい、制服に着替える。


 私立桜小路学園の制服は紺色のブレザーだ。


「結構似合ってるな」


 自分の制服姿を鏡越しに見てみるが、なかなかいい感じだ。


 リビングに行くと岬姉ちゃんが朝食を作ってくれていた。


「あれ?岬姉ちゃん!その制服って……」


「ふふっ、そうです。私も蒼太君と同じ学校に通っているんですよ。三年生なので蒼太君の先輩になります!」


「岬姉ちゃんも桜小路学園なんだね!ちょっと安心したよ。それにしても制服姿も可愛いね!」


「ほ、本当ですか?」


 岬姉ちゃんは頬を少し赤らめ、もじもじする。


「蒼太君もとても似合ってますよ、かっこいいです」


「ありがとう」


 俺と岬姉ちゃんは朝食を食べ、登校する準備を始める。


「じゃあ行こうか」


「あっ!蒼太君、ネクタイが曲がってますよ」


 岬姉ちゃんは俺のネクタイを直してくれた。


「これでよし!ふふっ、学校に行ったら蒼太君モテモテになっちゃいますね」


「そうかな?」


「でも、他の可愛い女の子と楽しそうに話している蒼太君を見るのはちょっと嫌です」


 岬姉ちゃんは頬を膨らませる。


「岬姉ちゃんより可愛い女の子なんかいないから大丈夫だよ!」


「本当ですか?嬉しいです。私も蒼太君よりかっこいい男の子なんていないと思いますよ」


 なんだか昨日より距離が縮まったような気がする。


 肩を抱き寄せるのは効果ありだったみたいだ。

 やっぱりこのアプリすげー!!

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